世の中、何が真実なのかを見極めることは、なかなか難しいですね。 あまりにも膨大な情報が発信されており、その中から優良な情報を選択し、ある出来事の背後にある真実を見極めようとするのだが、本当にそれが正しいのか、それは真実なのかどうかは分かりにくい。 筆者の体験を元に真実の見極め方を探ってみましょう。

往々にして人は、何かの出来事や物事に直面した時、色々なメディアから発信されている情報や、周りにいる人からの口コミなどを収集し、そこで述べられている論調や解説をベースにそれが真実かどうか判断します。 代表的なメディアとしては、インターネット、テレビ、新聞、雑誌などでしょう。 

ちなみに、平成24年末の日本におけるインターネット利用者数は、平成23年末より42万人増加して9,652万人(前年比0.4%増)(総務省「平成25年度版情報通信白書」、世界新聞協会の2010年の調査では、世界で最も新聞の発行部数の多い国の中で日本は、中国、インドについで3位で、5,043 万部も発行しています。 また、デジタル放送対応テレビの日本における保有世帯数は実に97.4%(平成24年末総務省調べ)となっています。

このように、今や膨大な情報をたやすく入手出来る時代となったのですが、気をつけなければいけないのは、これらの情報というのは、必ずしも真実がそのまま反映されている訳ではなく、人や組織が必ず介在してその人や組織の思考回路をいったん通過して出してきたアウトプットであるという点です。

つまり、その人や組織の思考や考え方、立ち位置、偏見、意図などによって真実が真実でなく歪んで伝えられるということが多く見られます。 それを意識してその情報を解釈すればいいのですが、なかなかそうは行きません。

特に、日本のテレビや新聞といったメディアは、こうだと決めたら、どの新聞社もテレビ局も判で押したように似たような記事や報道を、同時期に大量に継続的に提供するといった横並び傾向があると思います。 視聴率アップや発行部数の増加ばかりを狙って記事や報道内容を作っているから似てしまうとまでは申しませんが、読者や視聴者受けする内容というのがやはりあって、そこにどうしても引っ張られる傾向があると思います。

そこで、それを裏付けるであろう筆者が体験した出来事を、一つの例として紹介します。 昨年2012年9月、尖閣諸島の国有化問題で中国では大変な反日の嵐が吹き荒れて、中国の各地で暴動やデモが起こり、相当な被害がでました。 日本に関するイベントは中止、延期され、日本食レストランや日系スーパー、日系工場などで略奪・破壊・放火が起こり、治安は悪化しました。

ただ、どの日本の新聞もテレビ報道も、あたかも中国全土で中国国民の反日感情が燃え盛り、反日の暴動やら事件・デモが至る所で起こっており、日本人が渡航すると大変危ない状況であるかのような報道に終止し、筆者は「あんなに広くて人口も多い中国で本当にそうなのかな?」と少し疑いを持って見ていました。

ちょうど反日暴動やデモが多少収束しかけた10月に、筆者は江蘇省無錫市(上海から高速鉄道で約1時間)で3日間開催される、とある次世代インターネット技術に関する国際見本市に、幾つかの日本でのパートナー企業と共に以前から出展することになっておりました。

開催が二週間に迫ったある日、パートナー企業のメンバーと会合を持って、出展をキャンセルするかどうか打ち合わせしましたが、中国の無錫市の主催者側からも受け入れ拒否といった通知もないので、せっかくの機会でもあり、ここまで準備を進めて来たのだからということで、万全の注意をして渡航することで、出展を決行しました。

ただ、会場には不特定多数の来場者が何万人と押し寄せるので、日本人だとわかると何をされるかわかならいと考えて、日本人スタッフはブースの後ろの方でおとなしくしておいて、全面に出ての接客には中国人スタッフが行うということにし、万全を期して参加しました。

さて、初日の朝、恐る恐る会場のブースの奥に身を隠すように座っていた筆者に、中国人スタッフが飛んできて、「三宅先生。大変です! 店頭に積んでいる、先生が中国で出版した本、是非買いたいという人が大勢来ており、著者本人がいるんだったら、是非直筆でサインが欲しいと言ってます!」と言うのです。

半信半疑でブースの店頭を覗き込んでみると確かに10名ほどの中国人が行列をなして本を買っていました。 中国人スタッフに「著者は日本人だが、それでもサインは欲しいのか聞いてくれ」と言ったら、「全く関係ないと言ってます」ということでした。

どうせ全く売れないだろうと諦めて、店頭の片隅に無造作に並べておいた本が意外にも売れだしたのでした。

ならば仕方ないということで、列をなして待つ中国人を前に次々に本の裏表紙に買ってくれた人の名前と、自分の名前をサインして、「本を買ってくれてありがとう」と言いながら一人一人に本を手渡すと、皆先方から笑顔で握手を求めてくれて「謝謝!」と言いながらその場を去っていくのでした。 相手の名前の漢字に日本人に見慣れぬ漢字が多く、何度も確認し直すと、相手が笑いながら紙に大きく書いて丁寧に教えてくれ、お互い漢字民族なんだと感じながら、ちょっとしたコミュニケーションも堪能しました。

翌日朝、「昨日の夜早速読んだが、いい本なので仲間にも買いたい」と言って再度訪れ5冊まとめ買いしてくれた大学の老教授なんかもいて、結局3日間で約30冊以上の売り上げをあげたのでした。 これは全く予想もしていないことであり、持ってきた本の在庫が無くなり、スタッフ共々喜び合ったのを思い出します。

最終日の夜に、地元の精密機械製造会社の中国人社長が、日本人関係者10名ほどを招いて宴席を設けてくれた際、乾杯の音頭をその社長が取ってくれました。「さー。島の問題はお互い脇に置いといて、それ以外の話題で今宵は多いに盛り上がりましょう!」と切り出してくれたお陰で、日本人スタッフの緊張感は緩和され、場は和み、その後は度数45度、強烈に強い白酒をまわし飲んで、最後は日中入り乱れて皆でカラオケで夜遅くまで歌い合いました。

また、その宴席には、顔見知りの市役所の中堅幹部の一人がこっそりと来てくれていて、小生の席に立ち寄って、耳元で「こんな状況の中、よく断念せず無錫まで来て頂いて、大変感謝しています。 市の幹部は、状況が状況なのでこの席には参加できないが、「呉々も三宅先生にはよろしく」と申しておりました」と言ってくれたのです。

これは筆者のちっぽけな体験でありましたが、帰国後、多くの友人や取引先から「危ない目にあったでしょう?」と言われたり、また、改めて日本のメディアの中国への論調が変わっていない状況を目の当たりにすると、日本のメディアからの情報だけを頼りにしていると、やはり真実を片面だけからしかとらえられないのではないかという思いを強くしました。 メディアが報道している内容も真実なんでしょうが、小生が体験したことも間違いの無い真実であります。

世の中の出来事というのは、ひとつの局面だけで「それはこうである」と判断できるような単純なものではなく、思った以上に複雑であって、色々な切り口から出来事や物事を見つめないと本当の姿を見誤るということは言えると思います。

やはり、いかなるメディアや第三者を介在させずに、自分自身自らが現場に行って、直接自分の目と耳と鼻と肌と直感で感じて得たあらゆる情報や体験、空気感などを頼りに、真実に直面しようという姿勢を忘れてはいけないのではないでしょうか? そうすれば少しでも真実に近づくことが出来るのではないかと思っています。