日展審査の「不正」報じた朝日新聞紙面

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日本美術界で最大級の公募展「日展」の開催が迫る中、書の篆刻(てんこく)部門で審査に不正があったとする「スクープ記事」が出た。

2013年10月30日、朝日新聞は朝刊1面に「日展書道、入選を事前配分」という大きな見出しを載せた。美術関係者の間では表立って触れることがタブー視されていた話だが、正面から切り込んだ記事に、茂木健一郎さんが「良い仕事」と賛辞を送るなど、反響を呼んでいる。

有力会派じゃなければ事実上「門前払い」?

「日展(日本美術展覧会)」は100年以上の歴史を持つ。日本を代表する公募展の一つだ。扱うのは、日本画、洋画、彫刻、工芸美術、書の5科(分野)。参加費1万円を払えば誰でも応募でき、審査を通った作品は展覧会でお披露目される。仕組みの上ではキャリアや所属など関係なく同じ舞台に立つことになるはずだが、実際の審査にはさまざまな力関係が働いているという。

朝日新聞は「書」の篆刻部門で09年度に審査を担当した人物が有力会派幹部に送ったという資料を入手。書道会の重鎮である日展顧問(89)の指示により、「有力8会派に入選数を事前に割り振る不正が行われていた」と報じた。8会派に所属していない人たちはひとりも入選しなかったという。この「内部告発」が真実であれば、有力会派に所属していない参加者は、事実上「門前払い」されていることになる。当の日展顧問は同紙の取材に対し「審査主任が勝手にやったこと」と09年度の審査関与を否定するものの、その後は自身を含めた理事以上の合議により、会派別入選数を決めていたと認める。ただし割り当ては増減2点ほどを限度にしていたという。

朝日新聞はほかにも、階級があがるほど弟子からの「上納金」が増える仕組みなど、芸術院会員を頂点とするピラミッド型の組織構造まで詳しく紹介。また、「出品して入選するには、絵を購入しなくてはいけない」「訪問時には手ぶらで行ってはいけない」など、審査員にへつらう芸術家の生々しいエピソードを交え「公募展」が名目であることを浮き彫りにした。

茂木健一郎も好評価 美大教授も「70年代からの常識」

報道について日展の事務局は「現在、事実関係を調査中です」と答えるのみだが、この種の話は美術関係者の間ではしばしば噂されていたものの、これまで大手メディアが大々的に取り上げたことはなかったため、インターネット上でも注目を集めた。脳科学者の茂木健一郎さんは「現状の課題をほぼ過不足なくまとめていて、良い仕事だと思います」と評価した。茂木さんは門外漢であるものの、2週間前に「公募展に現代のアートにつながる文脈や批評性はない。あるのは年功序列と新陳代謝のない停滞」などとツイートし、公募展に疑問を呈したばかりだ。今回の報道を受け、「審査者が誰なのか、応募者が誰なのか、お互いにわからないダブルブラインド審査」ができるよう改革すべきとも話した。

現代美術家の中山ダイスケさんは「あ〜あ〜、美術界ではそこは秘密ってコトになってるのに、、、」とコメント。金沢美術工芸大学教授の小松崎拓男氏は「こんなことは私が高校生だった頃(70年代)からの常識だった」とした上で、「文化功労者の顕彰には美術団体の地方の有力者と思われる人物の名前が並ぶ。今の空気を呼吸していない文化庁を中心とした国策の文化制度はとうの昔に破綻している」と指摘した。

今年の日展には1万3919点の応募があり、2358点が入選した。11月1日から12月8日にかけ東京で開催後、全国を巡回する。東京会場は、六本木の国立新美術館だ。99年間にわたり会場となっていた東京・上野の東京都美術館から07年に引っ越した。「ハコ」は変わったものの、今回の報道により、変わらない「体質」に厳しい目が向けられることになりそうだ。