ワールドカップより面白い！〈サッカー欧州王者決定戦「UEFA EURO 2012」チェック 前編〉
前後編のまずは前編です。
野口 僕は、ワールドカップよりもユーロの方が好きなんですよ。というのも、ユーロは参加している国の間で、力の差があまりないから。ワールドカップの場合は、世界中から各地域の代表が出場することもあって、参加国の中でも力の差が結構あるんですね。でも、（サッカー強国が多い）ヨーロッパの予選を勝ち抜いた国だけが出場するユーロは、どの試合も何が起きるか分からないくらい、力が拮抗していると思います。
――たしかに、グループリーグでも「このカードは見なくて良いや」という試合が少ないので、ユーロの期間中は毎日睡眠不足になります（笑）。
野口 はいはい（笑）。もちろん、見られるサッカーの質も高いですしね。だから、昔から非常にユーロが好きで。よく見てきました。
――では、A〜Dの4グループに分かれて行なわれるグループリーグの見どころなどを聞かせてください。
［グループA］
ポーランド（2大会連続2回目の出場）
ギリシャ（3大会連続4回目の出場）
ロシア（3大会連続10回目の出場）
チェコ（5大会連続8回目の出場）
――開催国の一つポーランドが入っているグループAですが、どのような印象のグループですか？
野口 強豪と言われる国、いわゆるビッグカントリーがいないグループではありますが、どのチームもあなどれない。そういうグループですね。その中でも、前回大会（2008年オーストリア＆スイス大会）で、ベスト4まで勝ち上がって驚きを与えてくれたロシアは、メンバーがそんなに変わっていない。高齢化という懸念材料もありますが、コンビネーションなどの面で、前回よりもアドバンテージのあるチームだと思います。
――日本代表の本田圭佑がロシアのクラブ（CSKAモスクワ）に加入したことでも、日本のファンにもより馴染みのある国になりましたよね。ロシアの中で、野口さんが注目している選手は？
野口 左サイドバックのジルコフです。前回大会も現地で見たのですが、こんな上手い選手がいたのかという驚きがありました。その後、加入したチェルシーではそこまで活躍できなかったですけどね。あとは、FWのアルシャヴィンも前回ベスト4の立役者。最初の2試合は出場停止だったアルシャヴィンが復帰してから、チームも良くなりました。
――ポーランドにとっては、地元開催という点は、やはり有利なのでしょうか？
野口 それがアドバンテージになるようなメンタリティを持てれば良いですが、逆にプレッシャーになる場合もありますよね。どのチームにとっても初戦は大事ですが、特にポーランドは開幕戦のギリシャとの試合が大事でしょう。固くなって失点してしまうか、勢いに乗ってゴールできるか。立ち上がりの20分くらいがすごく大事。
――前々回大会（2004年ポルトガル大会）では、超守備的なサッカーで優勝して世界を驚かせたギリシャですが。正直、開幕戦でギリシャに負けたら、ポーランドの選手もファンも、かなりガッカリしますよね（笑）。
野口 そうなんですよね。開催国がグループリーグで敗退すると、大会の盛り上がりに欠けるので、そうならなければ良いなと思います。
――グループリーグでは、4か国による総当たり戦が行われ、上位2か国だけが決勝トーナメントに進出できます。野口さんは、どの国が勝ち上がると予想されますか？
野口 まずはロシア。あとの一枠は難しいな……。このグループは、どこが上がってきてもおかしくないんですよね。チェコも、ユーロでは非常に強いですし（1996年大会準優勝。2004年大会ベスト4）。ロシアに関しても、実力で抜けているというよりは、前回大会でベスト4まで勝ち上がった経験は大きいと思うので、1番手という感じです。もし、どうしてももう1か国を挙げるなら、チェコかな。
［グループB］
オランダ（7大会連続9回目の出場）
デンマーク（2大会ぶり8回目の出場）
ドイツ（11大会連続11回目の出場）
ポルトガル（5大会連続6回目の出場）
――グループAとは対照的に、グループBには、有名どころの国が揃いました。
野口 前回の大会にも「死のグループ」はありましたが、今回はまさにこのグループがそうですね。優勝候補と言われているドイツ。クリスティアーノ・ロナウドのいるポルトガル。タレントの豊富なオランダ。デンマークは12年も監督が変わらないので、スタイルが継続されていることの強さがある。難しいグループです。
――オランダは前回大会でも「死のグループ」に入りましたよね。
野口 前回のオランダはその「死のグループ」を難なく勝ち抜けたんですよね。2連勝してグループリーグ突破を決めたので3戦目は、主力を何人か休ませた。そのせいで、決勝トーナメントまでの期間が空き過ぎたのでしょうね。グループリーグではすごく調子が良かったのに、決勝トーナメント1回戦ではうまく試合に入れず、ロシアに負けてしまった。
――かといって、グループリーグを全力で戦い、疲弊してしまう場合もありますよね。
野口 本当に。長丁場の大会はそういう難しさもあります。
――ワールドカップにも、毎回のように「死のグループ」はあるものですが。ユーロの「死のグループ」の方が、より厳しいですよね。
野口 そうなんですよ。本当に厳しくて予想も難しい（笑）。グループの中でちょっと力的に落ちていると言われる国が、デンマークですからね。デンマークは、ワールドカップでも、ユーロでも常連国ですし。
――2010年の南アフリカワールドカップでは、日本に1対3で負けたので、強い国という印象は無い人もいるかもしれませんが。日本より格下のチームではないですよね（笑）。では、難しいと思いますが、このグループを勝ち上がるのは？
野口 ドイツは固いかな。まあ、そんなチームでも負けたりするのが、ユーロなんですけど（笑）。西ドイツの時代からの手堅いサッカーに、ちょっとトリッキーさも加わって、なおかつ勝ってる。僕の中では、ドイツは本命ですね。
――ドイツの注目選手は誰でしょうか？
野口 エジルですね。今、ドイツはテクニシャンが次々と出てきていますが、その筆頭の選手。あとはミュラーもその1人。この2人にはすごく期待しています。
――西ドイツやドイツは、昔から一世代に1人くらいだけテクニシャンがいるというイメージでした。でも今は、たくさん出てきていますよね。
野口 そうそう。昔は、例えばリトバルスキーが（テクニシャンで）他の選手とはちょっと変わってるね、といった感じだったのですが。今は、次々に出てくる。クロースもいるし。そういう選手がドイツのスタイルを変えてきているので、その新しいドイツのスタイルで、タイトルを取ってもらいたいとも思います。
――では、もう1か国は？
野口 これは僕の願望になるのですが、ポルトガル。クリスティアーノ・ロナウドという素晴らしいタレントに、ビッグトーナメントでスターになって欲しいんですよ。ロナウドとよく比較されるメッシ（アルゼンチン代表）も、ワールドカップは取れてないじゃないですか。でも、レジェンドと言われている選手は、大抵、こういったタイトルを手にしている。この「死のグループ」を勝ち抜いて、スターの存在感を見せて欲しいです。
――そうなると、オランダの試合は3試合しか見られなくなりますね。
野口 オランダもロッベン、ファン・ペルシーといったタレントがいますから、残念ですよね。ただ、オランダは毎回のように大会の期間中にチーム内でもめ事が起こるので。前回大会は、ファンバステン（伝説的な名ストライカーで、当時の監督）がうまくまとめていて、もめ事もなく。良いチームだったんですけどね。
（丸本大輔）
（後編に続く）
