無職系女子の、何にもない日常を何にもなく描いた「34歳無職さん」が、えらくかわいい。本当になんにも事件は起きないのだけれども、実は自分で選択して一年間の無職生活を送っている、という異色な作品。なにもないことで見えてくる世界の姿をのんびり読んでみよう

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こんにちは!
ちょっと駄目な感じの独り身女性が大好きなぼくです。
以前も「「エヴァ」のミサトさんみたいな「ちょっとダメな独身成人女性キャラ」が熱いんですけど何て呼べばいいの?」という記事を書きましたが、今ゴゴっと増えているのですよ、アラサー女子にスポットを当てた作品群。
なんて呼べばいいか未だにわからないんですが、あるんですよ。
意図的に「30代」「一人暮らし」「色々だめなところがある」「そこがかわいい」を意識している。これが前提条件。

中高大生の頃はねー。30代ってすごい年上というか、自分と違う世界の存在だと思ってましたよ。
大人の色気? でも10代だと「お母さん」みたいな感覚ですからねえ。恋愛対象ではなかったです。
あ、学校の先生とかは別だけれども。

しかしですよ。
自分がいざ30代になったら、もうマンガやアニメの30代女性キャラがとる行動ってかわいく愛しく見えて仕方ないんですよ。
同い年になったから。
色々な苦労とか、経験とか、時には自分より上だったり、時にはがんばりすぎちゃってたり。
あの「遠い世界」に思っていた女性たちの魅力に気づいた時の破壊力たるや。
加えて、子供の時は「完璧な大人」に見えていたのが、同い年になると欠点やあらが見えてくる。そこが人間らしくてスキになってしまう、というのを時代が求めたのか、アラサー独り身女性キャラどんどん増えています。「かわいい」という視線を元に。

『34歳無職さん』は、まさにそういう発想から生まれた作品です。
元々は某お絵かき掲示板にアップされた一枚の絵だったのです。
34歳。無職。ショートカットで一人暮らしをしている女性。いいよね。
このテーマが多くの人の心を突き、かなり有名になりました。
まとめはこちら。
34歳無職
リンク先1ページ目はネタバレないので本を読んでなくても見て大丈夫ですが、2P以降はネタバレあります、注意!!
「34歳無職さん。ヴィトンとかプラダとかいらないから最後まで使い切れる百円ボールペンが欲しい。」
「34歳無職さん。燃えるゴミの日に二回続けて寝過ごしてしまう。」
この「あるある」感がたまりません。だからなんだ、というのも含めて絶妙です。
まあ、男性目線強めではあります。自分たちが34歳でこうだったのなら、女性はこうだろうな、という妄想でもあり、哀愁でもあり。なので女性からみたら「いやいや現実は」という部分はあるかもしれませんが、それはそれとしても男女共にかわいいと感じさせるだけのパワーがあります。

人間らしい営みをして、ちょっとダメなところがあって、それでも変わらない日々を過ごしている。
だけどそれは一人暮らしゆえに気を抜いたルームウェアや姿恰好で、というのがポイント。
男性がいることを意識していないからこその不意をついたかわいらしさが詰まっているのです。

これが「コミックフラッパー」に、ちゃんとしたマンガとして連載されました。
ネットでは有名な「34歳無職さん」でしたが、ここにきてみんな驚いたものです。
えっ、アニメ化された『ささめきこと』のいけだたかしの絵だったの!?と。
実際作者本人もあとがきで「さすがに地味すぎるので世に出すなら同人誌の形だろうと思っていたら、まさか月刊誌で連載とは」と語っています。
まあ、たしかに「34歳」「無職」の女性というのはグッと来る要素の詰め合わせですが、逆に言えば「何もしていない」のを描くわけですからね。
ところがこれが読んでみると、芯が通っていて面白い。

無職無職といっても、この作品の主人公の34歳無職さんは、自分から望んで1年間無職になったという非常に珍しいキャラです。
あ、ここ以降ヒロインの名前は「無職さん」でいきます。
無職さんは再就職を蹴って「一年間何もしないでいよう」と決めました。なので何かができない、というわけじゃなくて「しない」んです。
この「しない」生活がマンガで描かれるんですが、本当に何も無いんです。
「何もない」がある、なんていうと格好いいですが、本人も「何もしてないなー」と味わいながら、何もない日々を過ごします。

社会人ではない時間に起きるので、ゴミを捨てそこねる。
とりあえず自分のために料理をする。
買い物に行くけどお金が無いから節約のため、多めにお金はおろさない。
さすがに何もしないのもアレなので、時間つぶしができる本屋さんでお買い物をして社会参加。
……改めて文字で書くとめちゃくちゃ地味なマンガですね。

実際地味なんです。キャラも。生活も。
しかしあえて何もしないことによって、身の回りのあらゆることに注意が向くんです。
無職さんも何もしない生活をはじめてから、食べ物の一つ一つ、部屋の隅々に意識が向かうようになります。
それを裏付けるように、このマンガとにかく背景が丁寧。リアル、という意味では無いです。デフォルメされているところもあります。すごいのは、背景が彼女の目を通じてみた範囲にフォーカスがあたって、きっちり描かれているところなんです。
ある意味、仕事をせず社会と接することが無くなったことで、視野自体狭まっている部分もあります。
どっちがいい悪いではない。無職さんは、新しい視点を持ってこの世界を見ている、というのが面白いんです。
読んでいると、あえて無職を選んで徹底する彼女の決断、なかなか真似できませんよ。
微妙にだらしない、だけど整理整頓はきっちりしている。決して派手な格好やしないし質素な生活しか送っていないけれども、「無職」を貫いている様は凛としていてかっこいい。
無職さん、かわいい&かっこいいじゃないですか。

よーく読むと、実は彼女一つ秘密があるのがわかります。
それが今後絶対影響してくるはずなのですが、一巻はにおわせるだけ。
まずは「何もしない」をしている女性の日々を楽しみましょう。
しかしなんですね。極めつけの日常を描いているんですが、ここまで意識的に極めると癒されるっていうより、身が引き締まりますね。

いけだたかし作 『34歳無職さん』(Amazon)
(たまごまご)