“朝ドラヒロイン”髙石あかりも 橋本環奈、長濱ねるら、女優として飛躍する“元アイドル”
アイドル卒業後の活動として女優を志す者は大勢いるが、女優として大成する元アイドルは必ずしも多くはない。しかし、2024年の作品を見渡してみると、“元アイドル”の女優たちが存在感を発揮している。
参考:堀田真由×仁村紗和×畑芽育×長濱ねるによる“新解釈” 『若草物語』の四姉妹を紹介
●髙石あかり その筆頭が2025年度後期NHK連続テレビ小説『ばけばけ』のヒロインに決定した髙石あかりだ。近年の活躍を見ると意外かもしれないが、彼女は2016年から2018年までダンスボーカルグループとしてデビューを目指す育成ユニット・α‐X’s(厳密にはダンスボーカルグループ)のメンバーとして活動していた。卒業後に女優として本格的に活動し、2020年に出演した舞台『鬼滅の刃』で竈門禰豆子役に抜擢され、その演技が業界内でも話題となった。
そんな彼女の名前を飛躍的に広げたのが、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズである。同作は殺しの腕はピカイチだが、社会にはなかなか馴染めない2人がさらに成長したりしなかったりする青春アクションエンターテインメント。その斬新な切り口の物語はもちろんだが、殺し屋として活動する元女子高校生のちさとを演じる髙石の表情がとにかく豊かで、キャラクターが目の前にいるかのようなリアリティがあるのだ。
2024年には『新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!』や『きみの色』、『スマホを落としただけなのに ~最終章~ ファイナル ハッキング ゲーム』といった話題作に出演し、スクリーンに欠かせない存在となった。この先も『ばけばけ』をはじめ、映画『私にふさわしいホテル』や映画『遺書、公開』などが控えており、今もっとも見逃せない女優のひとりであることは間違いない。
●橋本環奈 元アイドルであり、朝ドラ女優としてもう一人忘れてはならないのが、現在放送中のNHK連続テレビ小説『おむすび』に出演している橋本環奈。福岡を拠点に活動していたアイドルグループ・Rev. from DVLのメンバーだった橋本は、ライブで撮影された“奇跡の1枚”がSNSで話題を集め、一躍時の人へ。初主演となった映画『セーラー服と機関銃-卒業-』では第40回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞した。
橋本の場合は(本人も視聴者も含めて)“千年に一人の美少女”というキャッチコピーに囚われてしまう難しさもあったかもしれないが、その後は『ハルチカ』での等身大の女子高生役から、『銀魂』でのこれまでのイメージを大きく覆す振り切れた演技まで、多彩なキャラクターをこなし、名実ともに名女優の仲間入りを果たした。
朝ドラヒロインも期待されていた中で、2024年に満を持して『おむすび』に出演。橋本が演じるのは自然豊かな福岡県・糸島でギャルに目覚める米田結。結は人のために行動できる優しさを持っており、橋本の思いの強さは周囲に伝染していく。ギャルとしての豪快な一面と、震災を経験した辛い過去に揺れる難しい演技を橋本は丁寧に表現している。橋本のギャル姿はSNSでも反響が寄せられており、改めて朝ドラの影響の大きさを感じているところだ。数々の代表作を生んできた橋本だが、朝ドラはそのひとつになることは間違いないだろう。
●齊藤なぎさ ほかにも、元=LOVEの齊藤なぎさも、さらなる飛躍が期待される若手の一人だ。=LOVE在籍中から舞台『あにてれ×=LOVE ステージプロジェクト「けものフレンズ」』や『幸色のワンルーム』(朝日放送)、『明日、私は誰かのカノジョ』(MBS/TBS)などで経験を積んでいた齊藤。2023年に卒業してからは『最高の生徒~余命1年のラストダンス~』(日本テレビ系)や『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』(日本テレビ系)、映画『交換ウソ日記』など、学園ドラマを中心に等身大の演技を見せてきた。現在放送中のドラマ『私たちが恋する理由』(テレビ朝日系)では、これまでの学生の恋愛から大人な恋愛に初挑戦。演じるのは小柄で若く見られる傾向にあるが、見た目とは裏腹に責任感が強いしっかり者の小津京。大柄で筋肉質な大島蛍に熱烈なアプローチをする、これまでありそうでなかったキャラクターだ。
11月28日よりPrime Videoにてドラマの配信、12月20日からは映画版の公開も控える『【推しの子】』では、アクアの双子の妹・ルビーを演じており、すでに公開されているキービジュアルや映像から伝わるのは、齊藤のアイドル適性の高さ。=LOVEでの経験が活かされる役となりそうだ。
●あの 同じく『【推しの子】』への出演が決まっているあのにも注目したい。あのと聞くと、最近はアーティストのanoを思い浮かべる方が多いかもしれない。アニメ『チェンソーマン』のエンディングテーマ「ちゅ、多様性。」を始め、多くのヒット曲を生んでいるあのだが、以前はアイドルグループ・ゆるめるモ!のメンバーとして活動していた。独特なキャラクターからバラエティ番組で重宝されることが多いが、実は女優としてのキャリアも豊富だ。遡ると2016年には『咲-Saki-』(MBS/TBS)に始まり、『ガチ恋粘着獣』(ABCテレビ)や『サイレント・トーキョー』といった作品に出演し、演技力の高さを示してきた。
2024年は残業をモットーとする小鳥遊署のギークたちが、週末の井戸端会議で事件解決をスーパーアシストするさまを描いた『ギークス~警察署の変人たち~』(フジテレビ系)で、おっとりしているが、月末の締めの時期になると態度が一変する河井リリカをキレのある演技で表現し、現職の総理大臣・武藤泰山と国民の誰かが、毎話ランダムに入れ替わる『民王R』(テレビ朝日系)では、主人公・武藤泰山(遠藤憲一)と入れ替わったあのの硬派な演技が話題となった。『【推しの子】』も控え、女優としても飛躍の1年になったはずだ。
●長濱ねる 坂道グループからは元欅坂46の長濱ねる。NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』の出演を機に『警視庁アウトサイダー』(テレビ朝日系)や『君と世界が終わる日に 特別編』など、女優として可能性を広げている。大きく節目が変わったのが2023年。『ウソ婚』(カンテレ・フジテレビ系)でヒロイン・千堂八重を演じると、『院内警察』(フジテレビ系)、『十角館の殺人』(Hulu)、『磯部磯兵衛物語~浮世はつらいよ~』(WOWOW)と立て続けにヒロインを務め、一躍脚光を浴びる。2024年に放送された『366日』(フジテレビ系)では、負けず嫌いで強気な性格だが、恋愛となると奥手な下田莉子を演じており、その一つひとつの所作から感じる丁寧な演技がとても良かった。
現在放送中の『若草物語―恋する姉妹と恋せぬ私―』(日本テレビ系)では役者志望の三女・町田衿を演じている。長濱はエッジの効いた役こそないが、等身大の役を演じたときのハマり具合は抜群だ。もっといろいろな表情の長濱が見たいと思いつつも、まずは主演として一作演じるのを見てみたい。
現在は“元アイドル”として紹介されることはほとんどなくなっており、それは彼女たちが女優として広く浸透しつつあることを示している。彼女たちの活躍が、現役アイドルにとっても、アイドルを応援するファンにとっても希望を与える存在となっているのだ。(文=川崎龍也)