「高市早苗を総理に!」サンクチュアリ信者が総選挙で仕掛けた”石破おろし”運動で警察出動の波紋
「石破おろし」を呼びかけ
11月11日、特別国会が召集され、衆参両院で総理大臣指名選挙が行われた。1回目の投票で誰も過半数が獲れず、自民党の石破茂氏(67)は立憲民主党の野田佳彦代表(67)との決戦投票で、からくも第103代首相に選出された。
大苦戦となった原因は先の総選挙にある。自民・公明両党が獲得した議席は215席。15年ぶりに目標としていた過半数の233席を割った。
大物の落選も目立った。牧原秀樹法務大臣(53)、小里泰弘農林水産大臣(66)ら閣僚のほか、総裁選で石破茂総理を支援していた元防衛庁長官の衛藤征士郎氏(83)も落選するなど、石破首相には大きな痛手となった。
自民党から流れた保守層は国民民主党、日本保守党などに投票したとみられ、今回、日本保守党が初の議席を獲得した。
石破首相を支える議員が痛手を被り、国民民主党や日本保守党が議席を増やす。この流れと合致する投票行動を呼びかけていた勢力がいる。旧統一教会の分派であるサンクチュアリ協会の信者たちだ。
サンクチュアリ教会はアメリカに本部があり、設立者の文亨進は熱烈なトランプ元大統領(78)の支持者である。信者たちは日本やアメリカでトランプ氏応援デモに参加したり、高市早苗氏(63)や故・安倍晋三元首相ら選択的夫婦別姓反対、同性婚反対など伝統的な家族観を重んじる保守派の政治家を支持する街宣活動を行ってきた。
今回の総選挙を総裁選で敗れた高市氏再興のチャンスと考えたサンクチュアリの一部信者は、「2024決戦投票で石破茂に投票した国会議員」「2024決戦投票で高市早苗に投票した国会議員」という怪文書と共に、サンクチュアリの関連団体「日米韓協議会政策提言検討チーム」が作成したという投票方針に関する文書をネット上にアップして、“石破おろし”を呼びかけていた。
以下は文書の抜粋である。
《2024/10/10
日米韓協議会政策提言検討チーム
記
来る10月27日の総選挙において、石破政権にNOを、早期の高市政権の誕生を目指すため、会員各位の自由と責任に基づく投票方針、並びに氏族を始めとする知人友人に対する働きかけの参考にしていただくことを願いながら提言致します。
◾️投票方針
・決戦投票で石破茂議員に入れた候補者の選挙区では、参政党、国民民主党、日本保守党、などの候補者に投票する。
・決戦投票で高市早苗議員に入れた候補者には投票する。
・比例区は、自民党、または、参政党、国民民主党、日本保守党、などに投票する。
・適当な候補者のいない選挙区では、我々の考えに近いと思う候補者に投票する》
文書とともにアップされていた「2024決戦投票で石破茂に投票した国会議員」「2024決戦投票で高市早苗に投票した国会議員」なる怪文書は、サンクチュアリ信者のほか、高市氏の支持者や日本保守党の支持者とみられる人物など、複数のSNSで拡散されていた。
高市早苗事務所は「命を狙われる可能性」と困惑
これらの「提言」や「議員リスト」について質問したところ、日本サンクチュアリ協会は「公式見解ではない」としつつも「有志が提言した内容」だと答え、以下のように述べた。
「ご質問いただきました『提言』は、日本サンクチュアリ協会の公式見解でもなく、日米韓協議会の公式見解でもありません。差し迫った選挙に対し、どのような投票行動をすべきか悩んでいる会員に対して、有志が提言した内容です。『議員リスト』資料は、有志が保守系インフルエンサーより入手したものです」
高市早苗氏の議員事務所も今回の“石破おろし”運動を把握しており、「大変困惑している」と回答した。
「衆議院選挙中に自民党候補者の陣営3ヵ所くらいから連絡があり、そのような動き(石破氏に投票した議員の落選運動)、(高市派、石破派という)レッテル貼り、があることを知りました。
自民党候補者からの情報なので、それがお尋ねの『提言』と同じものか、サンクチュアリと関係があるかはわかりません。サンクチュアリという団体は知らず、接点がありません。今件に関して、高市がXで自身の考えを表明しました」(高市早苗事務所)
高市氏はXで次のように綴っていた。
《なかなかニュースも含めてネット情報をチェックする余裕も無いスケジュールで全国遊説を続けていますが、昨日、辛い話を聞きました。先月の自民党総裁選で私以外の候補者を応援しておられた自民党公認候補者に対して「投票しない」と仰る方が居られるという話が数件。 困り果てた当該候補者の陣営から、私の秘書に連絡を頂いたそうです。
今、私達が戦っている衆議院選挙は、政権選択選挙です。私も含めて自民党の候補者達は、自民党への様々なご批判も全員で受け止めながら、これからも日本国の舵取りをお任せいただけるよう、1人でも多くの当選を目指して頑張っている最中です。
議席を減らして野党になってしまうと、私が訴えてきた政策を議員立法で実現する事も困難になります。だから私は、昨日も、今日も、総裁選で他陣営に居られた候補者の応援にも伺っていますし、皆様にも是非とも応援をしていただきたいと願っています。どうか宜しくお願い申し上げます》
かねてより、旧統一教会の一部の信者のSNSなどで応援されてきた高市氏は警護対象となっている。高市早苗事務所は「インターネット上の書き込みから、いわれのない怨みを買う可能性もあり、命を狙われる可能性も否定できない」とも主張した。党の要職についていない議員が警察による警護対象となるのは異例だ。
公式ホームページに軍事訓練の告知
30年にわたり、旧統一教会を取材してきたジャーナリストの鈴木エイト氏にサンクチュアリ教会の“高市応援・石破おろし運動”について見解を聞いた。
「サンクチュアリ教会(日本サンクチュアリ協会)はアメリカで親トランプ、熱烈な共和党支持の活動を展開しており、日本でも保守派への浸透を目論んでいるようです。サンクチュアリ教会は統一教会からの分派ですが、韓鶴子派である現在の旧統一教会(世界平和統一家庭連合)も自民党総裁選と米大統領選は教団にとってターニングポイントと捉えているようです。
思想的には同様のサンクチュアリ教会が保守色の強い高市早苗氏に肩入れするのは当然の流れだと思います。日米韓協議会はサンクチュアリ協会の江利川安栄会長が代表を務める政治団体です。トランプを熱烈に支持するデモを日本全国区で、やはりサンクチュアリ協会関係者がかかわるグループとともに行うなどしています。いわゆるJアノンと呼ばれる勢力の一部です」
サンクチュアリが暴動やテロを起こす可能性はあるということか。
「サンクチュアリは銃を崇拝するなど、銃信仰的な要素が強いです。軍事訓練の告知が公式サイトに掲載されており、武装化やテロに発展する懸念がないとは言い切れません。
前回の米大統領をめぐるQアノンによる連邦議会襲撃事件の際、サンクチュアリ教会の指導者・文享進氏は襲撃にこそ加わらなかったものの、連邦議会議事堂前での集会に参加。その様子をインスタグラムに投稿していました」
「暴力による思想の主張」というテロが起きないことを切に願う。
撮影・文:深月ユリア