【亀山早苗】まさか自分が! 平凡な主婦が、46歳で初めて女性を激しく愛してしまった果てに

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自分に限って、そんなことはない

自分が男だ、女だと物心ついてからずっとすんなりそう認識できて、異性を愛して何の違和感も覚えないまま生きていける──そんな人が大半だと思いがちだが、性にまつわる悩みは表に出てこない分、違和感をもつそれぞれの人が、人知れず深く苦しんでいることが多い。

性が揺らぎやすいのは思春期に限ったことではないのではないだろうか。他からの影響もあれば、人生経験を積むほど本来の自分のありようが表面にでてくることもあるのではないか。自分だけはそんなことがないなどと、だれが言い切れるだろう。

前編に続き、後編では、ごく普通の主婦が40代になってから女性を愛するようになったカナコさん(49歳)のケースを取り上げる。

夫に愛情をもっていた自分がまさか! 40代で初めて、女友達への気持ちが爆発したカナコさん(49歳)

10年ほど前からの知人であるカナコさん(49歳・仮名)は、28歳で結婚してから、ずっと「ごく普通の主婦」として生活してきた。娘と息子、ふたりを育て、夏休みや冬休みには家族で旅行した。夫婦仲も決して悪くはなかった。

「夫とは親戚の紹介で知り合ったんです。見合いみたいなものかな。誠実で責任感の強い人だと親戚は言っていました。ただ、とにかく仕事が忙しかったので、私は家事育児をほとんどひとりでこなしていました。

夫は言葉ではねぎらってくれるタイプ。でも実際に夫が家事に関わるのは時間的に無理だった。子ども好きではありましたね。土日はだいたいどちらか仕事やつきあいがあったけど、休みとなる日は朝から子どもたちを起こして遊びに連れ出していました。夫婦だけの時間はなかなかとれなかったけど、私は夫を信頼していたし、愛情をもっていたと思う」

それなのに、である。彼女は3年前、近所で飲食店を経営する5歳年上の女性と駆け落ちした。筆者がそれを聞いたのは、彼女の夫からだ。

「カナコが書き置きを残して家出した。浮気していたんじゃないでしょうか」

ある日、夫が不安そうな声で電話をかけてきたのだ。まさか、と言いながら、その数日前に会った彼女が妙に華やいでいたのを思い出した。どうしたの、恋でもしたのと冗談交じりに言うと「そんなこと、あるわけじゃない」と笑顔を見せた。それなのに……。

おかあさんが同性を好きだとは知らなかった

当時、娘は大学生、息子は専門学校への入学が決まっていた。

「これからは私も、もう少し自由に生きたい」

そんな言葉をカナコさんはつぶやいていた。

母の家出を、娘は冷静に受け止めていると夫は言った。対して息子はひどく落ち込んでいるという。娘は何かを知っているのかもしれないと直感した。

3ヵ月後、夫のもとにカナコさんから連絡があった。

「ごめんなさいと泣いていました。とにかくどうしたんだ、何があったのか説明してほしいと言うと、『近所のレストランの女性経営者と恋して……』と言うんです。何を言っているのかわかりませんでした」

夫はだんだん気持ちが激してきて、「とにかく帰ってきなさい」と言った。だがカナコさんは泣くばかり、そして黙って電話を切ったそうだ。その後、筆者のもとにカナコさんの娘から連絡があった。彼女はずっと母親と連絡をとりあっていたという。

「おかあさん、その女性と恋に落ちたんですって。おかあさんが同性を好きだとは知らなかったと言ったら、自分でもわからなかったと。私はおかあさんには、自分の好きなように生きればいいよと言ったんです。会おうと思えば会える距離にいるのもわかっているし」

そしてさらにしばらくたってから、筆者もカナコさんに会うことができた。家族でよく行っていた近所のレストランが、コロナ禍で休業したりテイクアウトに特化したりしながらがんばっているのをカナコさんは応援していた。だが店の経営は厳しかった。ある日、経営者の女性が愚痴を言いながらくずおれるように泣き出した。だれにも言えなかった愚痴を吐いたことで、緊張の糸が切れたようだった。

「この人を守りたいと思っちゃったんですよ。そう思うと同時に、私は彼女を好きなんだとわかったの。それが恋愛感情だったかどうかはわからない。ただ、抱きしめて慰めているうちに怪しい雰囲気になってしまって。あとから聞いたら、彼女は“同性愛寄りのバイセクシャル”なんだそう。彼女はシングルマザーですが、離婚理由も彼女のそんなセクシュアリティだったようです」

夫は「離婚しない」の一点張り

カナコさん自身がバイセクシュアルなのか同性愛者なのかは自分でもわからない。ただ、自分でも止められないほど好きになったのは、その女性だっただけと言う。

その後、夫と話し合ったが、夫は「離婚はしない」の一点張り。カナコさん自身は、離婚したいというよりは、夫に申し訳ないと思っているだけ。一方で従来の価値観を持ち合わせてもいるので、成人しているとはいえ子どもたちに悪いから、離婚は避けたいとも感じている。今のところは、とにかく恋人と一緒にいたいという「子どもっぽい情熱」が続いているそうだ。

カナコさんの恋人は、やはり経営を続けたいとレストランを再開、カナコさんも事務仕事を手伝い、恋人の自宅でともに暮らしている。カナコさんの娘は、ときどき遊びに行っているようだ。

「ふたりは仲よくやってますよ。恋人というより普通の友だちにしか見えないけど。最近はふたりとも『更年期がひどくて、ふたりで励まし合ってがんばってるの』と言っています」

娘はそう言って笑った。父も弟も偏狭だから、母を認めるのはもう少し時間がかかるんじゃないかな、とも言った。

「不倫といえば不倫なのかもしれないけど、母が自分の本当の気持ちに気づいたのだとしたら、それは認めるべきだと私は思っています。異性だろうが同性だろうが、本当に好きな人を見つけたのは、母にとっては幸せなんじゃないかなあ」

今どきの価値観を持つ娘が家族のキーマンとなっている。今後、「性」そのものを考える教育が子どものうちからなされていけばいいのだが……。そしてもっとオープンに、偏見なく語り合える日が来るようにと心から思う。

前編〈【揺れる性】男性を好きになり、手術までして女になったのに…40歳“男性”が打ち明ける想定外の結論〉はこちら!

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