「日本人は滅びる」と言い放ったユニクロ柳井会長が、コロナ後にブチまけていた「ヤバすぎる怒り」

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日本を代表する経営者の口から飛び出した「日本人は滅びる」発言。危機を前にしても動かない国民への脅しか、それとも絶望から出た本音か。過去の発言や証言から、「柳井発言」の真意を読み解く。

前編記事『ユニクロ柳井会長の口からなぜ「日本人は滅びる」発言が飛び出したのか…ヤバすぎる結論に至るまでの苦悩』はこちらから

過激化する発言

一方で、日本経済論が専門の高橋伸彰・立命館大学名誉教授は「むしろ柳井さんの発想が、日本を滅ぼすことにつながるのではないか」と危惧を表明する。

「柳井さんは、より高くモノが売れるように付加価値を付けられる人たちのことを『知的労働者』と呼んでいますが、彼らをたくさん受け入れたとしても、社会全体がそれで潤うかといえば、非常に疑問です。

今の日本の問題は、介護や福祉、物流、建設の現場で働く人たちが不足していることであり、社会の根幹を支える彼らが低賃金にあえいでいるということです。これらの仕事は体だけでなく頭を使わなければ、完遂しない。それなのに、柳井さんは彼らのことを『単純労働者』という卑下した言い方をしてしまう。

また、柳井さんの言う“知的”な外国人材を日本に招き入れるには莫大な報酬を提示する必要があります。その結果、一般的な労働者との差が広がり、日本で分断が進みます。柳井さんの発言を肯定する声も多いですが、日本がアメリカのような、経済格差を要因とした分断社会になってもいいのか、と私は問いたい」

柳井氏が日本社会への警鐘を鳴らし始めたのは、昨日今日のことではない。'10年には自著のなかで「日本はいまや三等国に成り下がった」と発言し、'16年には日経ビジネスの取材に対し「グローバルとか口で言ってるだけで脱皮できなければ、日本は死んでしまう」とまで言い放っている。

山口県宇部市の小さな紳士服店「小郡商事」を、売上高3兆円の巨大企業に育て上げた柳井氏。世界で戦う厳しさを身をもって知っているからこそ「泳げない者は沈めばいい」と突き放し、常に努力と競争を強いてきた。

「それでも、以前はもう少し言葉の中に優しさや期待感が込められていた。最近の柳井会長の発言は過激化していると思う」と証言するのは、ユニクロの幹部社員の一人だ。

「柳井会長は、日本はこれから大変なことになると問題提起をしつつも、同時に『希望を捨ててはいけない』『失敗を恐れず、挑戦してほしい』と激励することも忘れませんでした。問題提起はあくまで主従の従の部分で、本意は『だからこそ、こうしなければならない』と提言することにあった。

ところが、ここ最近は『日本は滅びる』『この国はまもなく潰れる』といったような、日本を貶める発言が主になって、提言や解決のための方策が投げやりになっている印象です」

「滅びる」なんて言う前に

この幹部社員は、「こうした変化は、コロナ禍で起こったのではないか」と推測し、こう続ける。

「コロナ禍で日本企業の多くは売り上げや利益の減少に苦しみました。しかし、ファーストリテイリングはコロナの真っただ中の'22年8月期に、売上高2兆3000億円、営業利益約3000億円と増収増益を達成しました。『ピンチのときこそチャンス』を信条とする柳井会長のもと、店舗改革や商品開発に注力し、海外で大きく事業を成長させた結果です。

ところが日本社会を見渡せば、多くの企業は国からの補助金に頼るばかりで、変わる努力をしようとしなかった。政府も危機を乗り越えるために、その場しのぎの補助金ばらまきで対応した。

こうした国のやり方に会長は失望し、『この国の政治にも官僚にも競合企業にも、まったく期待ができなくなった。コロナ禍で日本の危機が10年加速した』と漏らすことが増えました。それまでは、会長は『10年あれば日本を変えられる』と考えていたのですが、タイムリミットがコロナで一気に縮まってしまったと認識しているのです」

'20年4月6日、世界にコロナが蔓延し始めた頃、柳井氏はプレスリリースを出し、こんなメッセージを発信している。

〈当面は困難な時期が続くかと思いますが、その後にはきっと明るい未来が待っています。未来に希望を持ち、健康第一でお過ごしください〉

「闇堕ち」が止まらない柳井氏

ところが'22年10月に開かれた決算会見では、柳井氏はこう憤りをぶちまけているのだ。

「経済は本当にひどいですよね。もう、(政府も)小手先のおカネを配ることだけ。これは日本経済だけでなしに、社会全体が本当に悪い方向に行って、取り返しがつかないことが起こるんじゃないかと思う」

どうして日本人は努力をしようとしないのか。どうして日本企業は自ら立とうとせず、国に頼ろうとするのか。どうして日本社会は、危機を目の前にしても変わろうとしないのか-。この20年間、問題提起をし、奮起を促してきた柳井氏だが、コロナのような特大の危機を経ても何も変わらなかったこの国に、どれだけ言っても変革の余地はないと判断し、見切りをつけてしまったのだろう。それが今回の「日本人は滅びる」発言の背景にあるのだ。

こうして「闇堕ち」した柳井氏に対して、「気持ちはわかるが」と前置きしたうえで苦言を呈するのは、すかいらーくの創業者である横川竟氏だ。

「柳井さんの発言からは、自分はすべてをやり尽くした……という諦めが漂いますが、はたして本当に、社会を変えるためにやれることをすべてやったのでしょうか。

たとえばファーストリテイリングの財務諸表を見ると、内部留保が1兆7000億円もあります。これほど安定した経営を続けているのは見事ですが、会社を守るためにおカネをため込むことに注力しているようにも見えます。

絶望の中に希望を見出す

積み上がった内部留保を元手に、率先して高度な人材を雇ったり、あるいは従業員の給与を上げて、日本全体の賃金向上の機運を高めることもできるはずですが、あまり積極的に乗り出している感じはありません。

歴史に名前を残した経営者は、日本社会の問題を解決するために、改革を進める政治家を支援したり、経済団体の幹部として新たな政策を提言したりと、積極的に働きかけてきました。柳井さんにはそうした動きがまだ足りない。『日本人は滅びる』という前に、自らがもっと率先して行動を起こすべきではないでしょうか」

'03年に出版された柳井氏の著書『一勝九敗』にはこんな一節がある。

〈未来は良くなると思わなければ、誰も行動しない〉

柳井氏自身がもう一度この言葉を思い出し、絶望のなかにも明るい未来を提示して、その未来のために行動を起こす-それが、日本を代表する経営者に求められる矜持というものではないだろうか。

『週刊現代』2024年9月28日号より

ユニクロ柳井会長の口からなぜ「日本人は滅びる」発言が飛び出したのか…ヤバすぎる結論に至るまでの苦悩