【独自】高校生ユーチューバーゆたぼん SNSの誹謗中傷で訴えるも″人違い″で取り下げていた! 

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『クソガキ』『事故ってくれないかな』

高校生ユーチューバーのゆたぼん(15)が“誤爆”していた。

栃木県に住む本間さん(仮名)の自宅に、「特別送達」と書かれた裁判所からの分厚い郵便物が突然届けられたのは6月末のことだった。そこには、

〈原告は『ゆたぼん』の通称で活動しているYouTuberであり、現在高校一年生である〉

などと書かれた告訴状が入っており、被告は本間さんになっていた。

〈被告は、匿名で<X 旧Twitter>アカウント<A>(編集部注:訴状では実際のアカウント名)を利用して、(中略)投稿を行った人物である〉

〈本件投稿は、当時、原告の父親と共にトラックで日本一周をしている原告に対して、『クソガキ』『誰かにイタズラ嫌がらせをされたり』『事故ってくれないかな』と、原告の生命身体が害されることまで祈願しつつ侮辱するものであり……〉

告訴状にはこんな文言が並び、〈25万8,760円を支払え〉となっていた。本間さんは、慰謝料など約25万円超の支払いを要求する民事訴訟をゆたぼんに起こされていたのである。

しかし、<A>(仮称)なるアカウントは本間さんのものではなく、「クソガキ」などといった書き込みもまったく身に覚えがない。なぜ自分が訴えられたのか本間さんにはまったく理解不能だったという。

「25万円請求されているし、まず最初に思ったのは『裁判所を名乗った詐欺』ではないかということでした。でも、押印までして手渡しで受け取る郵便物でしたから、本物だろうと考え直し、ともかく弁護士事務所に相談に行くことにしました」(本間さん)

この告発状が問題視している、ゆたぼんに対する誹謗中傷の書き込みがあったのは今から2年前の’22年10月。ゆたぼんがデート経験のない男性に対し、

《えっ!俺でもデートした事あるのに、みんな学校行ってたのにデートもした事ないの!?ヤバ!》

とリプライしたことに対し、<A>というアカウントの人物が下記のように反応したのである。

《このクソガキ日本一周中に、誰かにイタズラ嫌がらせをされたり、事故ってくれないかな?(笑)》

ゆたぼんは弁護士に<A>の特定を依頼。弁護士が割り出したのが、本間さんだった――という流れである。

なぜ、こんな人違いが起きてしまったのか。理由は単純で、弁護士が割り出しのために調べた電話番号の契約者が変わっていたのである。

問題の書き込みがあったのが’22年10月。本間さんが当該の電話番号をKDDIで契約したのは、書き込みから1年以上経過した’23年12月。つまり、弁護士の手元に情報開示の結果が届いたときには、<A>はすでに電話を解約しており、その電話番号は新たな契約者である本間さんとなっていたのだ。

“冤罪”は晴れたが……

ゆたぼんの代理人である福永活也弁護士はこう話す。

「得られる情報でやれることをやった結果、今回の被告(本間さん)を発信者として(訴訟を)やったというだけの話です。それ以上は確認のしようがありません。同じ携帯電話の番号をいろんな人が使い回しているケースは稀にあって、そうなると(犯人を)追えないことがあるってだけの話でしょう。一般的にいつも追えないわけではないので」

結局、この訴訟は9月5日に取り下げられ、本間さんの“冤罪”は晴れた。しかし、巻き込まれたことでかなり疲弊している。

「最初に相談に行った弁護士事務所では、『訴訟を引き受けるには40万円かかりますよ。請求額の25万円より高い』と、ある意味で親切心から『25万、払っちゃったほうが安いですよ』的な話をされました。でも、それではどう考えても不条理ですから、弁護士を頼らないで自分で訴訟に対応することにしました。

答弁書(相手方の主張に対する自分の言い分を記載した書面)を独学で書いて、口頭弁論(裁判官の面前で当事者や代理人が口頭で主張や立証を行う手続き)の日には仕事を休んで栃木から東京地裁に出廷しました。まったく裁判の知識はありませんでしたから、休日を利用して弁護士の無料相談にも何回か行きました」

本間さんは毅然と対応したことで事なきを得たが、SNSによる誹謗中傷問題が増えていくなか、今回のようなケースも増えているのではないか。動揺して、そのまま放置してしまう気の弱い人もいるだろう。身に覚えのない訴訟を起こされた場合、どう対応すればいいのだろうか。「弁護士法人・響」の古藤由佳弁護士はこんなアドバイスをする。

「訴状はいきなり送られてきます。『何月何日に裁判所で口頭弁論があるので、反論があれば答弁書を出してください』と書かれた書類が入っています。気が動転してしまって、どうしようと考えているうちに答弁書を提出せず、最初の口頭弁論の日にも出席しないということになると、本人欠席のまま裁判が行われます。

法律の世界では『反論が出ないということは、被告は原告の主張を認めている』と考えますので、原則として、原告の請求をそのまま認める判決が出ます。ですから、ともかく答弁書だけは出してください。形式が整っていなくても、『ほんとに身に覚えがないし、原告の主張は間違いです』と自分の主張を簡単に書くだけで大丈夫です」

ゆたぼんが訴えられたら……

答弁書の用紙は裁判所から送られてくる封書の中に入っており、答弁書さえ出せば、最初の口頭弁論には出席しなくても構わない。時間的に余裕ができるため、その間に市役所や弁護士会が開催する無料法律相談に行ったり、国が設立した法的トラブルの解決を支援する法テラスに相談に行くのもいいだろう。そう古藤弁護士は続けた。

ゆたぼんのようにSNSで誹謗中傷を受け、民事訴訟を起こすも人違いとなるケースは少なくない。

「’20年に自死したプロレスラー木村花さんの母親が投稿者に賠償を求めた裁判でも、やはり人違いがありました。遺族の感情を害する投稿のスクリーンショットを入手し、それをもとに投稿者を特定したのですが、そのスクリーンショット自体が偽造だったようです。花さんへの中傷を書き込んだほとんどの投稿者が、ツイートやアカウントを削除し逃亡したため、母親は投稿のスクリーンショットをもとに訴えを起こすしかなかったのです。

ただ、間違えられた側はかなりの精神的苦痛を受けたと思われ、母親に対して880万円の損害賠償を求めて逆に提訴。訴えは棄却されましたが、実に後味の悪い結果となっている」(全国紙司法担当記者)

ゆたぼんの今回の人違いは「訴えられたら確実に負けます」(前出・古藤弁護士)というが、本間さんは「単純なミスのようですから、ゆたぼんさんを訴えるようなことは考えていません」と言う。

SNSによる誹謗中傷が、新たな被害者を生んでしまったわけだが、このようなケースは今後、増え続けるだろう。

取材・文:酒井晋介