「海のはじまり」池松壮亮、無音電話シーンは台本になかった 村瀬Pが明かす“想像を超えた”2つのアイデア【インタビューVol.4】
【モデルプレス=2024/09/19】Snow Manの目黒蓮が主演を務めるフジテレビ系月9ドラマ「海のはじまり」(毎週月曜よる9時〜)を担当する村瀬健プロデューサーにモデルプレスがインタビュー。Vol.4では、俳優の池松壮亮の演技の凄み、彼のアイデアから生まれた台本にはなかった演出について聞いた(※取材時は7話まで放送)。
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本作は、脚本を生方美久、演出を風間太樹、そして村瀬がプロデュースを務める、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品。今の時代だからこそ伝えたい人と人との間に生まれる愛と、家族の物語を描く。池松は、古川琴音演じる南雲水季の同僚・津野晴明を演じる。
― これまでの放送の中で特にこだわった演出や思い出深いカットを教えてください。
村瀬:今回は、⾵間太樹監督、高野舞監督(※「高」は正式には「はしごだか」)、ジョン・ウンヒ監督、山岸一行監督という僕の中でとても信頼のある4人の監督に撮っていただいているのですが、良い意味でそれぞれ特徴があって名場面が違います。
風間監督は、なんと言っても第1話のお葬式のシーンですよね。大竹しのぶさん演じる朱音が夏(目黒)に「想像はしてください」と告げるときの2人の芝居、そして、その直後に海(泉谷星奈)から「夏くん」と呼ばれて、水季の映像が流れて一瞬の静寂から音楽が流れるといった、芝居をしっかり見せつつ同時に映像で魅せるという演出は風間監督の真骨頂で、彼らしさがすごく出た1話だったと思います。
高野監督は第3話のラスト、夏と海が浜辺で初めて2人だけで語り合うシーン。back numberの主題歌に乗せて、海が夏に「いなくならないで」と言ったあのシーンです。まるで2人がただそこにいて、ただ話しているのを撮っただけ?と感じるほどに2人とも自然な表情をしていました。そういう演出が高野監督はすごく上手なんです。人として本当に優しい監督なので、そんな彼女の優しさが溢れるシーンになっていました。
ジョン監督は、第4話で弥生(有村架純)と水季の2人の過去を交差して描きながら実はそれが同時期だったというのを明かす演出が素晴らしかった。実は同じ場所に座っていた弥生と水季の見せ方が秀逸で、あのカット割りのおかげで多くの人が2人の関係に吸い込まれていったと思っています。そしてもう一つ、第7話の津野の電話のシーン。これは圧倒的でした。
ちなみに、スピンオフの「兄とのはじまり」と特別編「恋のおしまい」を撮ってくれた山岸一行監督の演出が凄く良かったので、山岸監督にも本編を撮ってもらうことにして10話をお願いしました。
― 第7話の池松さんの演技はもちろんですが、電話に出た時に相手の声が聞こえないという無音の演出にも注目が集まっていたと思います。
村瀬:そうですね。実はあのシーンは、台本では津野が「はい」と言って電話に出るまでで終わっているんです。訃報の電話って、なんとなく分かっちゃうじゃないですか?あの場面では、水季に残された時間が少ないと分かっている状態だったので、きっと津野は電話が鳴った時にはもう何かを感じていて、着信が朱音さんからだと分かった時には既に確信を持って出ているはずなので「はい」で終わりにしていいと思ったんです。だけど、ジョン監督は池松さんにその先の芝居もしてもらったんです。それがあまりにも良かったので全部まるまる残しました。彼女の判断によって歴史的名シーンが生まれたと思っています。
― 電話に出て相手の声が聞こえないという演出はあえて?
村瀬:はい。それは脚本にそう書かれていました。これは生方さんの脚本の特徴でもあるのですが、電話のシーンで相手を見せるか見せないかが、脚本上に書いてあるんです。毎回、生方さんが書いた本をプロデューサーの僕や監督たちが読み、本打ちの場で色々な意見を言い合いながら作り上げていくのですが、電話の時に相手を見せるか見せないかもみんなで話し合って決めています。例えば、第7話の最初に朱音から津野に「四十九日来ない?」という電話が来た時は、朱音の声は聞こえていましたよね?だけど、朱音の絵は見せていませんでした。そういうパターンもあれば、電話の向こう側にいる人を映像も声も見せる時もあるし、逆に声すら聞かせないパターンもあります。津野が訃報を受けたシーンは、この最後のパターンでした。このように、電話一つとっても、どの見せ方がベストか話し合い、ものすごくこだわって作っています。ちなみに「silent」でも「いちばんすきな花」でもやっていたのですが、基本電話の向こう側は一緒に撮っています。例えば、第1話で水季から夏に別れの電話が来たシーンは、夏が電話を受ける大学キャンパスの現場に古川琴音さんにも来ていただいて、目黒さんには見えないところで実際に電話してもらっているんです。これは「silent」で紬(川口春奈)と湊斗(鈴鹿央士)の別れを、それぞれの部屋にいる川口さんと鈴鹿さんを同時に撮影したことで素晴らしいシーンになった経験が僕たちにあるから。こういう撮り方をすれば「特別な何かが生まれる」と味をしめちゃったんですよね(笑)。
― これまでのシーンで想像を超えてきたと思うシーンを教えてください。
村瀬:一番衝撃だったのはやっぱり池松さんの電話シーンで、本当に想像を超えたものでした。電話を受けて表情だけで見せるというもので、この1シーンで津野という人が抱えていたものが全部、視聴者の方々にも伝わったと思います。もしも第6話までの段階で今の質問をされていたら、池松さんの「思い出したくないです」を挙げていたと思います。これも実は、台本では“即答する”と書いてあったのですが、池松さんは溜めに溜めてから「思い出したくないです」と言っていました。この芝居を受けた目黒さんも言っていましたが、思い出したくないという気持ちがこれ以上ないほど、伝わってきました。津野のこの言葉に全てが集約されていたと思います。そして、そのあとに来る「僕の方が悲しい自信があります」というセリフ。これも素晴らしかった。このセリフを言う津野を、高野監督はあえてバックショットで撮っています。津野の表情を敢えて見せていないんです。凄いですよね。池松さんも監督も、どっちも凄い。この言葉の意味も、「思い出したくないです」と言った理由も、その全てが次の7話のあの訃報を受ける電話のシーンで全部分かるようになっていました。そういう芝居を池松さんがしていたのです。この一連の池松さんの演技は、何年もこの仕事をやってきましたが、かなりの衝撃でした。僕はいつも生方さんが書いた本を読んで、自分なりに解釈して、こういうお芝居が来るだろうとある程度予測しながらプロデュースをしているのですが、池松さんの芝居は、その向こう側にあるもっと深いものを教えてくれるんです。それは、もしかしたら生方さんが本を書いているときに感じていたものなのかもしれませんし、それとはまた違うものなのかもしれません。もはや、天才と天才が僕たちには見えない上空で対決しているような、そんな感覚で見ています。感心を通り越して感動しているというか、完全に池松さんの芝居に見入ってしまっています。
★Vol.5へ続く!(modelpress編集部)
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◆目黒蓮主演「海のはじまり」
本作は、脚本を生方美久、演出を風間太樹、そして村瀬がプロデュースを務める、“親子の愛”をテーマにした完全オリジナル作品。今の時代だからこそ伝えたい人と人との間に生まれる愛と、家族の物語を描く。池松は、古川琴音演じる南雲水季の同僚・津野晴明を演じる。
◆「海のはじまり」4人の監督による名場面
― これまでの放送の中で特にこだわった演出や思い出深いカットを教えてください。
村瀬:今回は、⾵間太樹監督、高野舞監督(※「高」は正式には「はしごだか」)、ジョン・ウンヒ監督、山岸一行監督という僕の中でとても信頼のある4人の監督に撮っていただいているのですが、良い意味でそれぞれ特徴があって名場面が違います。
風間監督は、なんと言っても第1話のお葬式のシーンですよね。大竹しのぶさん演じる朱音が夏(目黒)に「想像はしてください」と告げるときの2人の芝居、そして、その直後に海(泉谷星奈)から「夏くん」と呼ばれて、水季の映像が流れて一瞬の静寂から音楽が流れるといった、芝居をしっかり見せつつ同時に映像で魅せるという演出は風間監督の真骨頂で、彼らしさがすごく出た1話だったと思います。
高野監督は第3話のラスト、夏と海が浜辺で初めて2人だけで語り合うシーン。back numberの主題歌に乗せて、海が夏に「いなくならないで」と言ったあのシーンです。まるで2人がただそこにいて、ただ話しているのを撮っただけ?と感じるほどに2人とも自然な表情をしていました。そういう演出が高野監督はすごく上手なんです。人として本当に優しい監督なので、そんな彼女の優しさが溢れるシーンになっていました。
ジョン監督は、第4話で弥生(有村架純)と水季の2人の過去を交差して描きながら実はそれが同時期だったというのを明かす演出が素晴らしかった。実は同じ場所に座っていた弥生と水季の見せ方が秀逸で、あのカット割りのおかげで多くの人が2人の関係に吸い込まれていったと思っています。そしてもう一つ、第7話の津野の電話のシーン。これは圧倒的でした。
ちなみに、スピンオフの「兄とのはじまり」と特別編「恋のおしまい」を撮ってくれた山岸一行監督の演出が凄く良かったので、山岸監督にも本編を撮ってもらうことにして10話をお願いしました。
◆池松壮亮、無音電話シーンは台本になかった
― 第7話の池松さんの演技はもちろんですが、電話に出た時に相手の声が聞こえないという無音の演出にも注目が集まっていたと思います。
村瀬:そうですね。実はあのシーンは、台本では津野が「はい」と言って電話に出るまでで終わっているんです。訃報の電話って、なんとなく分かっちゃうじゃないですか?あの場面では、水季に残された時間が少ないと分かっている状態だったので、きっと津野は電話が鳴った時にはもう何かを感じていて、着信が朱音さんからだと分かった時には既に確信を持って出ているはずなので「はい」で終わりにしていいと思ったんです。だけど、ジョン監督は池松さんにその先の芝居もしてもらったんです。それがあまりにも良かったので全部まるまる残しました。彼女の判断によって歴史的名シーンが生まれたと思っています。
― 電話に出て相手の声が聞こえないという演出はあえて?
村瀬:はい。それは脚本にそう書かれていました。これは生方さんの脚本の特徴でもあるのですが、電話のシーンで相手を見せるか見せないかが、脚本上に書いてあるんです。毎回、生方さんが書いた本をプロデューサーの僕や監督たちが読み、本打ちの場で色々な意見を言い合いながら作り上げていくのですが、電話の時に相手を見せるか見せないかもみんなで話し合って決めています。例えば、第7話の最初に朱音から津野に「四十九日来ない?」という電話が来た時は、朱音の声は聞こえていましたよね?だけど、朱音の絵は見せていませんでした。そういうパターンもあれば、電話の向こう側にいる人を映像も声も見せる時もあるし、逆に声すら聞かせないパターンもあります。津野が訃報を受けたシーンは、この最後のパターンでした。このように、電話一つとっても、どの見せ方がベストか話し合い、ものすごくこだわって作っています。ちなみに「silent」でも「いちばんすきな花」でもやっていたのですが、基本電話の向こう側は一緒に撮っています。例えば、第1話で水季から夏に別れの電話が来たシーンは、夏が電話を受ける大学キャンパスの現場に古川琴音さんにも来ていただいて、目黒さんには見えないところで実際に電話してもらっているんです。これは「silent」で紬(川口春奈)と湊斗(鈴鹿央士)の別れを、それぞれの部屋にいる川口さんと鈴鹿さんを同時に撮影したことで素晴らしいシーンになった経験が僕たちにあるから。こういう撮り方をすれば「特別な何かが生まれる」と味をしめちゃったんですよね(笑)。
◆想像を超えた池松壮亮の演技「感心を通り越して感動」
― これまでのシーンで想像を超えてきたと思うシーンを教えてください。
村瀬:一番衝撃だったのはやっぱり池松さんの電話シーンで、本当に想像を超えたものでした。電話を受けて表情だけで見せるというもので、この1シーンで津野という人が抱えていたものが全部、視聴者の方々にも伝わったと思います。もしも第6話までの段階で今の質問をされていたら、池松さんの「思い出したくないです」を挙げていたと思います。これも実は、台本では“即答する”と書いてあったのですが、池松さんは溜めに溜めてから「思い出したくないです」と言っていました。この芝居を受けた目黒さんも言っていましたが、思い出したくないという気持ちがこれ以上ないほど、伝わってきました。津野のこの言葉に全てが集約されていたと思います。そして、そのあとに来る「僕の方が悲しい自信があります」というセリフ。これも素晴らしかった。このセリフを言う津野を、高野監督はあえてバックショットで撮っています。津野の表情を敢えて見せていないんです。凄いですよね。池松さんも監督も、どっちも凄い。この言葉の意味も、「思い出したくないです」と言った理由も、その全てが次の7話のあの訃報を受ける電話のシーンで全部分かるようになっていました。そういう芝居を池松さんがしていたのです。この一連の池松さんの演技は、何年もこの仕事をやってきましたが、かなりの衝撃でした。僕はいつも生方さんが書いた本を読んで、自分なりに解釈して、こういうお芝居が来るだろうとある程度予測しながらプロデュースをしているのですが、池松さんの芝居は、その向こう側にあるもっと深いものを教えてくれるんです。それは、もしかしたら生方さんが本を書いているときに感じていたものなのかもしれませんし、それとはまた違うものなのかもしれません。もはや、天才と天才が僕たちには見えない上空で対決しているような、そんな感覚で見ています。感心を通り越して感動しているというか、完全に池松さんの芝居に見入ってしまっています。
★Vol.5へ続く!(modelpress編集部)
◆「海のはじまり」最終話あらすじ
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