YouTubeなどには字幕のついた動画があふれているが、本当にわかりやすくなっているのだろうか。スタンフォード大学オンラインハイスクール校長の星友啓さんは「すべてを文字起こしした動画はむしろインプットの妨げになることが分かっている」という――。

※本稿は、星友啓『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える 脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)の一部を再編集したものです。

■「動画の字幕」実は逆効果

YouTube動画には、インプットに効果的なものとそうでないものがあります。

例えば、動画の「字幕」には要注意です。

これは少し意外かもしれません。字幕があることで、「聞く」に「読む」が追加され、耳で聞いたことを文字で再確認できるので、なんだかインプットの効果が上がりそうな感じもします。

実際、動画の重要ポイントやキーワードなどが、文字として表示されているような場合には、インプットの効果が上がることが確認されています(※1)。

しかし一方で、ナレーションを全て文字に起こした字幕は逆効果になってしまいます(※2)。なぜなら、音声からの情報にプラスして字幕を出すことで、動画から発信される情報量が増えすぎて、私たちのワーキングメモリーがパンクしてしまうからです。

写真=iStock.com/Debalina Ghosh
「動画の字幕」実は逆効果(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Debalina Ghosh

■字幕に気を取られて理解度が落ちる

つまり、字幕をつけると、必要ない部分の情報も文字情報として動画に出てきてしまい、それにワーキングメモリーの容量を無駄にとられてしまうので、うまく集中できずに理解度そのものが落ちる傾向があるのです。

映画の字幕に気をとられ、登場人物の表情を見逃したり、その場の雰囲気が理解できなかったりするというのも、似たような理由からだと考えることができます。

新しいことをインプットするときは、字幕をONにして情報量を無駄に増やしてしまわないように気をつけましょう。

■「かわいいキャラクター」は使わないほうがいい

ワーキングメモリーに無駄な負荷をかけてしまいかねないのは、字幕だけではありません。

例えば、学習動画に内容とは無関係なかわいいキャラクターなどが使われていることもありますが、これも逆効果です。

関係ないキャラクターにワーキングメモリーが使われてしまって、理解度が落ちてしまいかねないからです。

■「リアル過ぎる映像」も逆効果

また、内容と関連していることであっても、インプットの妨げになることがあります。

例えば、カブトムシの生態を学ぶためにYouTube動画でインプットしようとしたとしましょう。

芋虫が蛹(さなぎ)になって成虫になる「変態」のプロセスが、音声で説明され、それと同時に、ものすごくリアルな8Kで撮ったカブトムシのドアップ映像が流れるとします。

そんな動画であれば、カブトムシのリアルな映像でイメージが湧きやすくなり、学習効果が上がるように感じますが、しかし実は、これも逆効果なのです。

写真=iStock.com/ergeyIT
「リアル過ぎる映像」も逆効果(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/ergeyIT

■「図式化したシンプルな画像」のほうが学習効果が高い

カブトムシのリアルな映像よりも、図式化したシンプルな画像を使うほうが、学習効果が高い、という研究結果があります(※3)。

図式化したシンプルな画像は、インプットすべき詳細に焦点を当てて、その説明に重要な点だけを抜き出しています。

一方、実際のカブトムシ自体の8K映像では、「すごくきれいで、いい色で強そうだな」など、そのリアルさに圧倒されて、ワーキングメモリーの無駄遣いにつながってしまいかねません。

つまり、インプットすべき内容と関係がないディテールが目に入ってしまい、大事なことが記憶に残らなくなってしまうのです。

内容と無関係なキャラクターや、無駄にリアルすぎる動画は、効果的なインプットを目指す上ではなるべく避けるのが賢明です。

インプットしたい内容に関する動画を選ぶときに、参考にしていただけたらと思います。

■「スクショでメモ」や「ChatGPTで要約」には要注意

さて、もう1つ、マルチメディアを使ったインプットについて気をつけるべきことをお話ししておきましょう。メモをとる習慣についてです。

「スクリーンショット」(スクショ)や「ChatGPT」が使える今の時代、メモをとることは不要になってしまったような気もします。

オンライン動画やオンラインイベントでは、気になった重要点をスクショで「カシャ!」。

メモをとる十分な時間もないし、記録ならば写真が一番間違いない。さらに、YouTube動画やオンラインの記事などでも、ChatGPTなどの生成AIツールを使えば、一瞬で要約が出せます。それらを画像として残しておけば、内容のまとめを簡単に記録しておくことができます。

【スクショ記録】も【ChatGPT要約】も、学んだ内容を後から見直したり復習したりするのに、非常に正確で効率的な記録法であると言えるでしょう。

しかし、情報の「インプット」という目的からすると、十分な注意が必要です。

写真=iStock.com/mapo
「スクショでメモ」や「ChatGPTで要約」には要注意(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mapo

■記憶しようとする気持ちがなくなる「グーグル効果」

【スクショ記録】も【ChatGPT要約】も、それだけでは効果的なインプットにつながるどころか、インプットの質を下げてしまいかねないのです。

これらは、どう活用するかが大変重要です。詳しく解説していきます。

まず、「グーグル効果」(Google effect)を押さえておきましょう。

何かを「ググって」調べたとき、その内容はいつでもまた「ググれる」。そう思ってしまうと、調べたものを記憶しようとする気持ちがなくなってしまい、結果としてせっかく調べたことが記憶に定着しません。

写真=iStock.com/mapo
なぜ「ググった情報」は翌日に忘れてしまうのか(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/mapo

こうした現象は「グーグル効果」と呼ばれてきました。「グーグルでいつでも調べられるからいいや」と思って記憶に留まりにくくなるというわけです。

■自分の脳で咀嚼することが必要

同様に、「完全にスクショで記録した」「ChatGPTでいつでも手軽に内容を見返すことができる」と思うことで、学んだ内容を記憶するモチベーションが下がってしまう可能性があります。

【スクショ記録】や【ChatGPT要約】の「グーグル効果」には、十分な注意が必要です。

より根本的には、【スクショ記録】や【ChatGPT要約】は、注意して使わないと、インプットする内容に対する脳のエンゲージメントを奪ってしまいかねません。

しっかりと理解して記憶に留めておくためには、インプットする内容を自分の脳で咀嚼(そしゃく)することが必要であるのに、ワンクリックで情報が記録されてしまうと頭を使う必要がありません。

■脳のゴールデンタイムを逸している

一方で、メモやノートをとることは、記録を残しておくこと以上に、学んだ内容をしっかりと頭に入れて脳を動かす働きがあり、効果的なインプットには欠かすことができないのです。

にもかかわらず、【スクショ記録】や【ChatGPT要約】をすると、つい安心してしまい、メモやノートをとらないことがしばしばあります。

そのことで、私たちは自分の脳のゴールデンタイムを逸してしまっています。

もちろん、【スクショ記録】や【ChatGPT要約】を、記録用に使うこと自体は全く悪いことではありません。

例えば、後々になって一度インプットした情報にアクセスしたいとき、スクショや要約がデジタルに残っていれば、簡単に検索できたりもするでしょう。膨大な関連情報の中から、全て人力で目を通して探すのは骨が折れます。

■動画を見る前の「プレビュー」のために使う

しかし、【スクショ記録】や【ChatGPT要約】を使った場合や、もともと録画や写真などで学んだ内容の記録がある場合でも、脳をエンゲージする手軽な方法としてノートをとる習慣は併用するほうがいいでしょう。

【ChatGPT要約】は、動画を見た後のための記録として使わずに、動画を見る前の【プレビュー】のために使うと、インプットのクオリティーを向上させることができます。

「読むインプット」の前に目次や見出しなどを【プレビュー】しておくと、メタ認知がアップしてインプットのクオリティーが上がります。

同様に【ChatGPT要約】で動画全体の内容をざっくりと把握することは、「読むインプット」の【プレビュー】と同様の効果が得られます。

また、自分がインプットしたい内容のYouTube動画を探す場合にも有効です。

現在では動画を視聴することなく、動画の内容をまとめてくれる生成AIのツールなども登場しています。

星友啓『スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長が教える 脳が一生忘れないインプット術』(あさ出版)

そうしたツールを使えば、動画のタイトルやサムネイルからだけでは内容がわからなかった場合でも、自分の探している動画の内容を素早く把握できます。

そのため、大事な時間を費やして見るに値する動画なのかを見極めるツールとしても、【GPT要約】を活用することができるのです。

【GPT要約】は動画を見始める前に使うか、見た後に使うかで、効果に大きな差が出てきます。

脳のエンゲージメントでインプットの質を上げる目的ならば、動画を見始める前に使うのが賢明です。

※1 Ritzhaupt A.D., Barron A. (2008). “Effects of Time-Compressed Narration and Representational Adjunct Images on Cued-Recall,Content Recognition, and Learner Satisfaction.” Journal of Educational Computing Research, 39(2):161-184.

※2 Pastore R. (2012). “The effects of time-compressed instruction and redundancy on learning and learners’ perceptions of cognitive load.” Computers & Education, 58(1):641-651.

※3 Menendez D., Rosengren K.S., Alibali M.W. (2020). “Do details bug you? Effects of perceptual richness in learning about biological change.” Applied Cognitive Psychology, 34(5):1101-17.

----------
星 友啓(ほし・ともひろ)
スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長
哲学博士、EdTechコンサルタント。1977年東京生まれ。東京大学文学部思想文化学科哲学専修課程卒業。その後渡米し、Texas A&M大学哲学修士、スタンフォード大学哲学博士を修了。同大学哲学部の講師として教鞭をとりながらオンラインハイスクールのスタートアップに参加。2016年より校長に就任。現職の傍ら、哲学、論理学、リーダーシップの講義活動や、米国、アジアにむけて教育及び教育関連テクノロジー(EdTech)のコンサルティングにも取り組む。全米や世界各地で教育に関する講演を多数行う。著書に『スタンフォード式生き抜く力』(ダイヤモンド社)、『全米トップ校が教える 自己肯定感の育て方』『脳を活かすスマホ術 スタンフォード哲学博士が教える知的活用法』(共に朝日新書)がある。
----------

(スタンフォード大学・オンラインハイスクール校長 星 友啓)