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職員に対するパワハラ疑惑などで調査されている兵庫県の斎藤元彦知事をめぐり、県議会の調査特別委員会(百条委員会)が実施した県職員アンケートで、疑惑の中身が次々と報じられ連日話題となっている。

アンケートの中間報告には、「目撃、経験等により実際に知っている」と回答した人の自由記述として、次のような内容が記載されていた。

・一回しか行かない視察先で備品の長靴は拒否して新品の長靴を準備させた
・怒るとバンバン机を叩きだす。部長からメッセージ送っても既読スルーで無視、放置。後日、秘書課からフォローとなる
・雨が降り出したとき、知事が濡れないように傘を差し出すのが遅いと舌打ちされたと聞いた
・現場視察時の対応として、事前に鏡を準備しないと罵倒される。鏡も全身鏡と三面鏡を用意しないといけない
・工事用ヘルメットを被りたくないと言ったので、復興工事を止めさせた

伝聞による疑惑内容などを含めると、「知事のパワーハラスメントについて」の自由記述は計74ページに及ぶ文量でまとめられている。報道によると、中間報告以降に寄せられた回答には、「出張先のホテルで予約が必要な夕食を急きょ取りたいと言って断られ、『俺は知事だぞ』と激怒した」との疑惑なども記載されているという。

疑惑の段階を出ていないとはいえ、県職員からこれだけの声が寄せられていること自体、異例といえるだろう。斎藤知事は自身の辞職を否定したと報じられている一方、不信任決議案を提出する動きも出ているようだ。

斎藤知事への厳しい声は日に日に増している状況だが、仮に都道府県知事を辞めさせようとした場合、どういった方法や手続きがあるのだろうか。澤井康生弁護士に聞いた。

●リコールのハードルは「相当高い」

──都道府県知事を辞めさせる方法や手続きにはどのようなものがありますか。

都道府県知事を辞めさせる方法・手続きとして、いわゆる「不信任決議」と「リコール」があります。

議会で知事の不信任決議がされた場合、知事は、辞職するか、通知を受けた日から10日以内に議会を解散するかを選択しなければなりません(地方自治法178条1項)。知事が議会解散を選択しなければ、10日が経過した時点で失職します(同2項)。

もっとも、知事が議会の解散を選択した場合、知事は辞職しなくて済むかというとそうではありません。

議会の解散後初めて招集された議会で再び不信任の議決がなされると、知事は失職することになります(地方自治法178条2項)。

したがって、不信任決議により知事が辞職を選択しない場合であっても、議会解散後に再度不信任決議を成立させることで、知事を失職させることができます。

リコールは、住民が知事を辞めさせる方法です(地方自治法81条)。

選挙権を有する者の3分の1以上(40万人以上の場合は別に計算式あり)の署名をもって知事の解職を請求し、解職の投票を行います。投票の結果、過半数の同意があった時に知事は失職することになります(同83条)。

──不信任決議やリコールで辞めさせるというのは現実的に可能なのでしょうか。

1回目の不信任の議決については、議員数の3分の2以上の者が出席している必要があり、かつ、4分の3以上の者の同意が必要です(地方自治法178条3項)。

これに対し、議会を解散した後の2回目の不信任決議の場合、定足数は同じですが、過半数の者の同意で足りるとされています。

兵庫県議会の議員定数は86人とそれほど多くはないことから、不信任決議を成立させることは不可能ではないと思われます。

一方、リコールの請求を行うためには、兵庫県は有権者数約451万人(2024年6月1日時点)で、計算上約66万人以上の署名が必要となってしまいます。この数の署名を集めるのは相当ハードルが高いと思われます。

●百条委員会に知事を辞めさせる権限があるわけではない

──百条委員会は最終的にどんな判断をする機関なのでしょうか。知事を辞めさせる権限などはないのでしょうか。

百条委員会とはその名のとおり、地方自治法100条により設置される機関です。

同委員会は、普通地方公共団体の事務に関する調査を行うことができ、選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができます。

出頭又は記録の提出の請求を受けた者が、正当な理由なくこれを拒んだときは、6カ月以下の禁錮または10万円以下の罰金とされていることから、間接的な強制力があります。

国会において各議院に国政調査権が認められていますが(憲法62条)、これの地方議会バージョンといったところです。

百条委員会は、地方自治体の事務について、疑惑・不祥事を調査し、その事実の有無などについて判断することが可能です。ただし、あくまで調査のための機関なので、百条委員会が知事を辞めさせる権限を持っているわけではありません。

百条委員会で事実関係を調査し、その調査結果に基づいて、議会による不信任決議につなげるという流れになります。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身で警視庁刑事としての経験も有する。ファイナンスMBAを取得し、企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験や金融コンプライアンスオフィサー1級試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。陸上自衛隊予備自衛官(2等陸佐、中佐相当官)の資格も有する。現在、早稲田大学法学研究科博士後期課程在学中(刑事法専攻)。朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。毎月ラジオNIKKEIにもゲスト出演中。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/