「廃線」が超人気アトラクションに! 線路を“自力で走る”ガッタンゴーを体験 まるで「快速列車」気分!?
利用者減で廃止された鉄道路線が一転、いまや押しも押されぬ“人気アトラクション”となっているのが、その廃線を活用した「ガッタンゴー」です。鉄道ファン目線で体験してきました。
廃線活用の成功例? 「鉄道車両気分」になれるアトラクション
夏休み後半戦や9月の連休、どこに行こうかなあ、と悩んでいる人も多いのではないでしょうか。そこで、涼しげで楽しくて、家族で楽しめて、鉄道ファンも大満足(重要)なレールマウンテンバイクバイク「ガッタンゴー」をご紹介します。
奥飛騨温泉口駅のガッタンゴーと、KM-100形(左奥)。センターのシートには、「観覧シートセット」チャイルドシートのレンタル・取付けも可能。予約画面から選ぶので、乗り込む前にはすでに装着されている(遠藤イヅル撮影)。
レールマウンテンバイクとは、「鉄道のレールの上を走る自転車」です。「軌道自転車」「レールバイク」「自転車型トロッコ」などとも言われます。人力のほか、動力を用いるものもあり、保線の現場で使用されることもあります。
このレールバイクを廃線跡に走らせる観光スポットは全国に点在しており、岐阜県飛騨市(一部富山県)の旧神岡鉄道神岡線跡を活用した「ガッタンゴー」もそのひとつです。
神岡鉄道は高山本線の猪谷駅から奥飛騨温泉口駅までを8駅・19.9kmで結んでいた第3セクターの路線でした。1984(昭和59)年に国鉄神岡線を引き継いで開業しましたが、神岡鉱業の硫酸輸送がトラックに切り替わったことで売り上げが激減。2006(平成18)年に廃止されました。
その後、沿線の中心である旧神岡町の市民グループがレールバイクを走らせることを提案。「ガッタンゴー」と名付けて2007年から試験運行、2012年からは本格的に運行がスタートしました。現在では予約しないと乗れないような、大人気スポットに成長しています。筆者も、沿線の最高気温が35度という盛夏に体験してきました。
ガッタンゴーには、2つのコースがあります。ひとつが神岡線の終点、旧奥飛騨温泉口駅から旧神岡鉱山前駅までの往復約5.8kmを走る「まちなかコース」、もうひとつが漆山駅から二ツ屋トンネルまでの往復約6.6kmを使用する「渓谷コース」です。ホームページには「初体験の方はまちなかコースをオススメ」とあるので、「まちなかコース」を予約しました。
車両のタイプはいくつかあるのですが、2台の電動自転車の間に座席を備え、最大で3人乗れるメイン車両「ハイブリッド車 + 観覧シート」を選択。料金は1車両で4000円です。なおこの車両の場合、大人2人で漕ぐことが必須となります。
出発するのは、午前9時から12時までと、13時半から16時半までの間に1時間おき。今回は11時発の便を選びました。
レールの継ぎ目音に興奮 気分はまさに鉄道車両!
集合は奥飛騨温泉口駅。駐車場は広く、じゅうぶんな台数が停められます。廃線前そのままの雰囲気を残す駅舎は、ガッタンゴーの基地となっており、ここから出発した車両は神岡鉱山前駅まで行って折り返し、この駅に戻ってきます。
駅舎内で受付をすませ、ヘルメットを装着して待合室で出発を待ちます。なお出発20分前には受付を済ます必要があります。
時間が来ていよいよ乗車です。電動自転車2台を連結した車両にまたがり、前車との距離が50mほど離れたところでいざスタート。スロープを勢いよく下りると、そこはもう「ほんとうの鉄道だった路線」のレールの上です。電動自転車のアシストは強く、さらに往路は下り勾配なのでレールバイクは快調に進んでいきます。
レールの継ぎ目を越えるたび、本物の鉄道車両のような「ガタン」という音がします。筆者はレールバイク初体験。乗る前は「自転車かあ」と思っていたのですが、とんでもない! かなり「鉄道車両」感が強く、感動してしまいました。
前述の通り、この日はとても気温が高い日でしたが、山深く緑が多いエリアなので風は涼しく、漕いでいるとさほど暑さは感じず、むしろ爽やか。目の前に広がる深い緑の中、レールの上を快走することが、こんなに気持ちがいいとは思いませんでした。
前輪は固定されているので手を離してもOK。ペットボトルホルダーの装備はありがたいが、折り返すまでトイレがないので、その点は要注意(遠藤イヅル撮影)。
そんなハイテンションのなか数分進むと、小さな駅が左側に現れました。旧飛騨神岡駅です。廃駅とは思えないほどに整備されています。
駅を通過するとトンネルに突入です。トンネル内はひんやり涼しい! 継ぎ目の音はさらに大きく響き、ディーゼルカーの車内で聞く音そっくりに。実際の鉄道車両に乗っているような気分も盛り上がります。
トンネルを抜けると急に視界がひらけ、旧神岡町を見渡せる高架線の上を走ります。景色のコントラストがはっきりしていて、ここで歓声をあげる人も多いことでしょう。高架上には旧飛騨神岡駅がありますので、まるで快速列車の気分(笑)で通過しました。
勾配をいく列車の気分になれる!
駅を過ぎて再びトンネルに入るのですが、このトンネルはカーブしているため先が真っ暗。自転車のオートライトでは少々心もとなく、ドキドキします。
トンネルを出て右側に巨大な神岡鉱業のプラントが見えてくると、ガッタンゴーの終点である旧神岡鉱山前駅に到着です。片道2.9kmはあっという間! もっと乗っていたいほどでした。
係員が車両の向きを入れ替える間、出発までしばしの休憩です。遠く見える神岡鉱業を眺めたり、旧駅舎で涼んだりしてめいめい過ごしたあと、復路のスタート時間となりました。
奥飛騨温泉口駅まで戻るルートは上り坂です。登れるかな、とちょっと不安になりましたが、アシストが強いのでちょうど良い負荷に。往路は興奮していろいろ見られなかった(笑)のですが、帰りはあれこれ設備を眺める余裕が出てきました。
それなりの勾配を持つ区間ですので、鉄道路線ならば「勾配標」があるはず、と考えて探したら、やはりありました。撮影できた勾配標は「下り」向きでしたが、その区間では9パーミルの下り勾配があったようです。このほか、朽ちた信号機も残っていました。
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旧奥飛騨温泉口駅の駅舎内には、神岡鉄道に関する資料を展示(遠藤イヅル撮影)。
往復に要した時間は約45分。暑かったですが、とても心地よい体験でした。ズバリ、めちゃ楽しかったです。鉄道路線を自力で走るのが、こんなに嬉しいものだったとは!
ガッタンゴーの魅力は、家族や友人でワイワイ楽しめることだと思います。そして鉄道ファンにもオススメです。気分はまさに神岡線を走っていたKM-100形「おくひだ号」です!
なお車両にはペットボトルホルダーがありますので、ペットボトルは必ず一人1本持って乗ること、スマホは落とすと戻ってこないので、ネックストラップなどで落下防止対策を行うとよいでしょう。