K-1スーパーバンタム級現役王者の金子晃大(左)と「金子から練習中に暴行された」と訴える元アマチュア選手のAさん(右)

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 K-1の現役チャンピオンに穏やかならぬ話である。練習仲間だったアマチュアの元キックボクシング選手が「3年前、練習中に一方的に暴行され、鼻と顎を骨折させられた」と警察に訴え出たのだ。チャンピオンは取材に「故意ではなく練習中の事故だった」などと反論している。(前後編の前編)

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「格闘家の拳は凶器です。こんな練習が許されていいはずがない。まさに顔面崩壊です。息子はあの男と出会ったばかりに精神もボロボロになって変わり果てて帰ってきた」

 父親は開口一番こう怒りをぶちまけた。今年4月、アマチュアのキックボクシング選手だったAさん(30代前半)は父親に伴われて取材に現れた。2人が見せてくれた十数枚の写真は度肝を抜くものだった。

K-1スーパーバンタム級現役王者の金子晃大(左)と「金子から練習中に暴行された」と訴える元アマチュア選手のAさん(右)

【写真26枚】「K-1の現役チャンプから暴行を受けた」と訴えるAさんの「顔面崩壊画像」と「一方的に殴られる練習動画」。チャンプ側の「反論LINE・動画」も

元の顔がわからないくらい「パンパンに膨れ上がった顔面画像」

 1〜2年前にAさんが自撮りしたという画像は、元の写真と見比べても同一人物だとわからないくらい変形していた。どれくらい殴られたらこんな酷い状態になるのかと思うくらいパンパンに顔面が膨れ上がった画像も。

 腫れが引いた現在のAさんの顔も目元や頬が浮腫み、鼻が崩れ、以前とは別人になっていた。この取材の3カ月後の7月、Aさんは1週間入院して脇腹の骨を鼻に移植させる手術を受けた。さらに顎に入ったままのプレートを外す手術も控えているのである。

 Aさん自身はこう語り出した。

「このすべてが、私がK-1の現役チャンピオンから練習にかこつけて暴行を受けた後に自撮りした画像です。私は2年半もの間、彼に人間サンドバッグ扱いされてきました。そればかりでなく、いいようにパシリとして利用され、金まで巻き上げられてきたのです」

 2人は被害届を提出しに千葉県警習志野警察署に行ってきた足で取材に応じたのである。

2人きりの自主トレに参加するうちに「対等」から「上下」に関係が変わった

 父子が“加害者”として名指しした人物が、K-1のスーパーバンタム級現役王者である金子晃大(27)だ。

 金子は16年、K-1と同じ団体が主催するK-1の登竜門的格闘技イベント「Krush」でプロデビュー。18年6月にKrushバンタム級王座についた。19年からK-1に参戦し、22年にはスーパーバンタム級王座を戴冠。その後2回の防衛に成功中で、甘いマスクと実力を兼ね備えたK-1の顔と言える人気選手である。

 2人の出会いは2015年に遡る。格闘家を目指していたAさんは20代前半の頃、世田谷区・三軒茶屋にあるK-1系列のジムの門を叩いた。そこで先に入会していたのが金子だった。

「私の方が5つくらい年上だったこともあり、最初は互いに君付けで呼び合い、ミットを持ち合って練習する関係でした。その後、私は別のジムに移籍。いったん彼との関係が途切れたのですが、20年夏頃、金子から『自主トレに参加しないか』と誘われ加わるようになりました」(Aさん)

 上述したようにすでにこの頃、金子はK-1でプロデビューしていた注目選手だった。そんな選手と一緒に練習すれば強くなれると思ったAさんは、金子の知人も含めた4人で千葉県習志野市の金子の自宅近辺にある公園で走り込み練習などに励んだという。だが、

「数カ月すると他の2人が脱落し、私と金子2人きりになってしまいました。そこから徐々にそれまでの対等な関係から、金子が上、私が下という師弟関係に変わり、命令口調で指示されるようになったのです」

 実際、実力差が大きかったためその関係を受け入れたAさん。だが、意に反して金子の態度は増長していくばかりだったと語る。

「2人きりの練習が始まって数カ月もすると、彼は練習に『マススパーリングを取り入れよう』と言い始め、実行しました。ただそれは練習という名のイビリでした」

「下から顎を思いっきり蹴られた」と主張するAさん

 マススパーリングは実戦形式でやる練習で、通常は相手に怪我をさせないため16オンスの大きいグローブとヘッドギアなどの防具をつけてジム内で行われる。

 だが、金子は公園で試合用の薄い8オンスのグローブを用いて、防具なしのAさんに本気で殴りかかってきたとAさんは話すのだ。

「相手が格上なのでこっちはまぐれでしか当たりません。もし当たってしまっても、その数倍殴り返されることは明白だったので、私の方は手を出せず、動く“人間サンドバッグ”になるしかなかった。やるたびに体はボロボロになりました。何度もこの練習は辞めたいと言ったのですが、彼は『だったら本気の実戦やってみるか』などと凄んでくる。仕返しが怖くてやられっぱなしでした」

 こうした練習後の顔を自撮りしたのが、先に挙げた「パンパンの顔」だったという。

 そして、自主トレが始まって3カ月程が経過した21年10月。Aさんはとうとう大怪我を負った。

「いつものように殴られっぱなしで地面に四つん這いになって倒れた時、下から顎を思いっきり蹴り上げられたのです。あまりの衝撃と激痛でしばらくうずくまりました。ただいつものことだったので金子は平気な顔。『よし、今日の練習は終わり。お前は走ってから帰れ』と言い残して去っていった」

1週間入院、全治1カ月の大怪我を負ったAさん

 だが、この時ばかりは顔の腫れは一向にひかなかった。3日経っても激痛が続き夜も寝られない状態で、近所の歯科医から紹介された総合病院で診てもらうと、顎が骨折していた。後に鼻の骨も折れていたことも判明した。

 下記は警察にも提出された診断書だ。

〈傷病名 右側下顎角部、左側下顎前歯部骨体部骨折

付記 2021年10月4日にキックボクシングの練習中に、相手の蹴りが顔面に直撃し受傷。10月7日疾痛改善せずかかりつけ歯科受診し、10月8日に当院紹介され初診した。手術を目的に10月11日入院し、12日に全身麻酔下にて両側下顎骨骨折観血的整復固定術を施行した。症状軽快にて10月20日に退院。以後は外来にて経過観察。全治約1カ月を要した〉

 1週間入院し、顎をプレートで固定させる手術を受けなければならないほどの大怪我だった。

 だが、それを金子に報告しても意に介さない様子で「そのくらいの衝撃はあったろうな」と答えただけだったという。そして退院後も地獄のような「練習」は再開されたと続ける。

「あんなのは練習ではありません。最終的には彼のストレス解消の捌け口にさせられました。金子は容赦無く、プレートの入ったままの顎を殴り蹴り続けた。今もこの通り鼻と耳は潰れ、顔は浮腫んだたままです」

金子の反論

 昨年末、金子と袂を分かち親元に帰ってきたAさんは親にすべてを打ち明けた。そして、事件のあった場所を管轄する千葉県警習志野警察署に被害を申告したのである。

 8月中に金子に任意の事情聴取は行われ、近く県警は書類送検する予定だ。今後、検察庁が起訴か不起訴か判断することになる。

 金子はどう答えるか。21日、トレーニング施設から出てきたところを直撃すると、警察の事情聴取を受けていることを認め「故意に怪我させたわけではなく、練習中の事故だった」と話した。

「警察にも話しましたが、僕には練習中に彼が怪我を負って病院に行った記憶しかありません。3年くらい前のことですから。彼は、うずくまっているところを私が下から蹴り上げたと話しているようですが、そんなことは格闘技では反則なので絶対にしません。なぜ古い話が突然蒸し返されたかわからない。実際、彼はしばらくすると戻ってきてその後も良好な関係のまま、一緒に練習をしていたのです。ただ結果として怪我をさせたことについては申し訳ないと思っています」

 実力差があるのに、なぜ怪我を負わせかねない8オンスのグローブで、しかも公園内で2人きりのスパーリング練習をしたのかという質問には、

「8オンスグローブでやる練習は、一緒にジムで練習していた時から2人でしていました。彼はアマと言っているようですがプロに上がってもおかしくないくらいの実力がありました。階級も私より3階級上です。彼も格闘技をやっていた以上、怪我するリスクを理解していた上で一緒に練習していたはずです」

 Aさんが提供した「暴行後の自撮り画像」を見せても、

「彼は他のジムにも通っていたので、他で負った傷だと思う」「私は彼を傷つける目的で一緒に練習をしたことなど一度もありません」などと否定した。

 そして、こう繰り返すのであった。

「3年も前の話を突然引っ張り出されて、突然、警察に被害を訴えられて非常に戸惑っています」

 確かにAさんには、なぜ怪我した後に被害を訴え出ず、2年以上も行動を共にした後になって被害を訴え出したのかという疑問が残る。

後編では、事件後も「暴力で支配され洗脳させられていた」「日払いで稼いだ金を上納させられました」と訴えるAさんの主張、それに対する金子の反論を双方の「証拠LINE・動画」と共に伝える。

※この記事のなかで、今回の報道と無関係な方の情報が掲載されていました。記事作成時に確認が行き届かず、ご迷惑をお掛けしてしまったことをお詫び申し上げます。

デイリー新潮編集部