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取引先で仕事中にお腹が痛くなった同僚が、現場を一時的に離れてトイレに行ったことを理由に解雇された──。こんな相談が弁護士ドットコムに寄せられた。

相談者の会社では、定年後に継続雇用された同僚を含め、全社員に対して、支給スマホの位置情報を休日含め「24時間365日常時ON」にしておくよう指示し、休日の緊急業務を近くにいる社員に向かわせるという運用をしているという。

同僚は、その位置情報で現場を離れたことが会社に知られたようで、相談者や他の社員が、トイレに行くための離脱だったことや、その日の業務自体は問題なく終えており、取引先への悪影響も一切なかったと説明したものの、相手にされず同僚は解雇されてしまった。

相談者としては、トイレに行ったことを理由に解雇したことには疑問がある上、会社がずっと社員の位置情報を管理していることにも不快感があるようだ。会社側の対応は問題ないのだろうか。労務問題に詳しい正込健一朗弁護士に聞いた。

トイレ離脱で解雇「無効の可能性かなり高い」

──今回のケースにおける解雇は問題ないのでしょうか。

前提として、本件解雇が、当該会社の就業規則に定める解雇事由に該当するかどうかをまず確認する必要があります。

そのうえで、就業規則の規定に照らして解雇事由に該当する場合でも、解雇が有効と認められるためには、(1)客観的合理的理由と(2)社会通念上の相当性が必要となります(労働契約法16条)。

相談内容からは、職場を頻繁に離れていたということではないようですので、1回きりの事案として検討します。

今回のケースでは、トイレに行くための一時的な職場離脱であり、業務に支障も生じていないとのことですので、(1)客観的合理的理由が認められるとは考えにくく、また、(2)単発の職場離脱で即解雇というのは社会通念上の相当性も認められません。

なお、解雇された方は定年後再雇用とのことですので、再雇用の形態が、たとえば1年ごとの更新などの、期間の定めのある労働契約であった場合には、解雇は「やむを得ない事由」がなければできません(労働契約法17条1項)。

1回限りのトイレに行くための離脱が「やむを得ない事由」に当たることは通常はあり得ないと思われますので、この場合でも、本件解雇は無効と考えられます。

●勤務時間外の位置情報取得は「プライバシー侵害」

──スマホで常に位置情報を把握し、いざという時に緊急業務に向かわせるという運用についてはどうでしょうか。

スマホ等のGPS機能による労務管理は、すでに勤怠管理等で用いられています。

労働者には職務専念義務があるため、かかる労務管理も、目的が正当であり、その目的に必要な情報のみを取得するなどプライバシーに配慮した運用であれば、法的には問題ないとは言えます(労働者の反発を招くなど事実上のデメリットにも配慮する必要はあります)。

ただし、会社の指揮命令権は勤務時間外には及ばないため、スマホのGPS機能を「24時間365日常時ON」にするという運用は、プライバシー侵害等として違法であり、不法行為(民法709条)を構成する可能性が高いと言わざるを得ません。

実際に、労務提供義務のない時間帯に会社支給の携帯電話をナビシステムに接続させて居場所確認をしていたことを不法行為として、労働者の会社に対する慰謝料請求を一部認容した裁判例があります(東京地裁平成24年5月31日判決)。

この事案でも、会社側は緊急連絡が目的との主張をしましたが、「従業員に労務提供義務がない時間帯、期間において本件ナビシステムを利用して原告の居場所確認をすることは、特段の必要性のない限り、許されない」と判示されました。

今回のケースでも勤務時間外の位置情報の把握は違法となると考えます。

【取材協力弁護士
正込 健一朗(しょうごもり・けんいちろう)弁護士
弁護士社会保険労務士として、主に使用者側の労務問題に取り組んでいる。紛争案件だけでなく、セミナー・研修や社内規定整備・制度構築さらには企業文化醸成による予防法務にも力を入れている。経営法曹会議会員。
事務所名:正込法律事務所
事務所URL:https://shogomori.com/