慈江道の江界市にある英才教育施設「学びの千里の道学生少年宮殿」を視察した金正恩氏(2019年6月1日付朝鮮中央通信)

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軽口を叩いて管理所(政治犯収容所)行き――北朝鮮では以前からあったことだが、昨今は国の締め付けがいっそう強化され、国民は恐怖に震えている。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋によると、富寧(プリョン)郡の邑(郡の中心地)在住の30代のパク・ジョンヒョンさんが今年1月、保衛部(秘密警察)に逮捕された。その容疑は次のようなものだった。

年明け早々のある日、彼は帰宅途中で飲食店に立ち寄り、友人3人と酒を飲んでいた。そして、店の主人の子どもが、お菓子の入ったビニール袋を受け取って喜んでいるのを見て、彼はこんな一言を発した。

「太陽が365個になればお菓子を毎日受け取れるぞ」

その翌日、彼は逮捕された。

このお菓子セットは、1月8日の金正恩総書記の生誕記念日に、全国の子どもたちに配られるもので、太陽とは金正恩氏のことを指す。その質、味を巡って口さがない人たちがあれこれ言う。時には政治的事件に発展することもあったが、大きな問題になることはさほど多くはなかったようだ。しかし、国民の言動を監視して密告する「スパイ」が増えていることに、彼は気づいていなかったようだ。

(参考記事:金正恩命令をほったらかし「愛の行為」にふけった北朝鮮カップルの運命

パクさんの姉は朝鮮労働党富寧郡委員会と保衛部に数回押しかけ、「将軍様(金正恩氏)の家系が代々わが国をお導きになるという話のどこが悪いのか」と抗議した。

パクさんはもともと話が上手く冗談好きで、マル・ジョンヒョン(言葉ジョンヒョン)とあだ名されるほどで、危なっかしいと思われていたようだ。「マル・ジョンヒョン」が「マルパンドン」(言葉の反動分子、反政府主義者)扱いされ、もはや生きて帰ってこれまいと誰もが諦めていたが、奇跡的に2カ月あまりで釈放された。

抗議してくれた実の姉が、10年の兵役を終えた除隊軍人で、昨年までの6年間、建設ボランティア部隊の突撃隊で国家的な建設事業に携わり、誠実に働いたことなどが考慮されたようだ。

そもそも党委員会や保衛部に抗議に行き、その行為そのものが処罰の対象にならなかったことを考えると、この姉弟は成分(身分)が良好な、日本のネット用語で言うところの「上級国民」に相当するのかもしれない。言い換えると、成分が悪いとされる人が下手に声を上げると、どういう目に遭うかわからないのだ。

無事に釈放されたとは言え、2カ月間、相当な拷問に遭ったことは想像に難くなく、そのトラウマから、マル・ジョンヒョンもすっかり無口になってしまったことだろう。

道内最大都市の清津(チョンジン)でこの話を伝え聞いたという別の情報筋は、最近になって情報員(スパイ)の活動が活発になっていることを指摘した。

情報筋の友人は少し前に、地域担当の保衛指導員から呼び出された。そして数日前、「人々は毎年生活水準がよくなっているというが、なぜ自分たちはずっと貧しいままなのか」と知人らの前で語った事実を突きつけられた。

幸いにして、友人と保衛指導員は仲が良かったため、「今後は人の多いところでは言葉に気をつけろ」との忠告で済ませてもらえたが、3〜4人で立ち話をしているときに、口をついて出た言葉が密告されたようだ。

情報筋は、「道端はスパイだらけだ、今後数年は気をつけよ」と聞いていたが、「これほどとは思わなかった。衝撃を受けた」と述べている。

「ちょっとした会話でも注意しなければならない、いくら親しい友人だからと言っても信じられない世の中になったことに衝撃を受けた」

以前から安全部や保衛部は、国民の中にスパイを紛れ込ませ、言動や行動を監視してきた。企業や機関内の労働党の書紀(トップ)は、安全部(警察)のスパイが誰かは知っているが、保衛部のスパイについては知らされていない。

一方で一般国民は、実際に誰を通じて話がバレたかを推測し、スパイと目した人を徹底的に避けるなどして、誰がどこまで信頼できるかを見定めて話をするものだった。しかし、最近ではスパイの数が多く、手法も巧妙になっているようで、言いたいことをぐっと我慢して暮らすしかないようだ。