劉徳音氏(左)と魏哲家氏は、創業者の張忠謀氏からTSMCの経営を引き継ぎ、先端技術開発と業績拡大の両面で成果を上げ続けてきた(写真は同社のアニュアルレポートより)

半導体受託製造(ファウンドリー)の世界最大手、台湾積体電路製造(TSMC)の経営トップが6年ぶりに交代した。

6月4日に開催された年次株主総会で、2018年から董事長(会長に相当)を務めてきた劉徳音(マーク・リュウ)氏が退任し、総裁(社長に相当)の魏哲家(シーシー・ウェイ)氏が董事長を兼務する人事が承認された。

なお、TSMCは今回のトップ交代を半年前の2023年12月に予告していた。株主総会での正式決定を経て、創業者の張忠謀(モリス・チャン)氏が引退してから6年間続いた劉氏と魏氏の「ダブルトップ」時代にピリオドが打たれた。

技術と業績の両面で成果

退任した劉氏は1954年に台北市で生まれ、台湾大学を卒業後にアメリカに留学。カリフォルニア大学バークレー校で修士号と博士号を取得し、インテルやベル研究所での勤務を経て、1993年にTSMCに入社した。

後任の魏哲家氏は南投県の出身で、1953年生まれ。交通大学で修士号を取得した後、アメリカのエール大学で博士号を取得。テキサス・インスツルメンツ(TI)などに勤務し、TSMCには1998年に入社した。

劉氏と魏氏は2013年にTSMCの共同CEO(最高経営責任者)に就任。2人が主導する経営体制の下、同社は先端技術開発と業績拡大の両面でライバルの追随を許さない成果を上げ続けてきた。

市場調査会社のトレンドフォースのデータによれば、世界のファウンドリー市場におけるTSMCのシェアは(創業者の張忠謀氏が引退した翌年の)2019年1〜3月期の48%から、2023年10〜12月期は61%に上昇した。

その結果、第2位のサムスン電子との格差は約29ポイントから約50ポイントに拡大。劉氏と魏氏の二人三脚により、TSMCはファウンドリー市場における圧倒的な「1強体制」を築いた。


劉氏は董事長の在任中、生産拠点の積極的な海外展開を主導した。写真は建設が進むアメリカ・アリゾナ州の第1工場と第2工場(同社ウェブサイトより)

今回退任した劉氏は、在任中に生産体制の国際化に力を注いだ。その象徴と言えるのが、2020年5月に発表したアメリカのアリゾナ州への進出だ。

アリゾナでは現在、回路線幅2〜4nm(ナノメートル)の最先端プロセスに対応する2つの半導体工場を建設中だ。2024年4月には第3工場の建設を発表し、それらの総投資額は650億ドル(約10兆1854億円)を超える。

生成AIブームで成長加速

TSMCはアメリカのほか、日本の熊本とドイツのドレスデンでも工場の建設計画を進めている。日本では2024年2月に第1工場の開所式を行い、第2工場の建設も発表した。ドイツでは、建設主体となる合弁会社の設立が2023年11月にドイツ政府に認可された。

劉氏の退任により、TSMCの経営は魏氏の「ワントップ」体制に移行したが、短期的な事業戦略に大きな変化はなさそうだ。2023年以降の生成AI(人工知能)ブームが、最先端のAI半導体の製造を事実上独占している同社に多大な恩恵をもたらしているからである。


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TSMCの2024年1〜3月期の売上高は5926億4000万台湾ドル(約2兆8690億円)と前年同期比16.5%増加、純利益は2254億9000万台湾ドル(約1兆916億円)と同8.9%増加した。

同社は2024年のファウンドリー市場の規模が前年比14〜19%拡大し、半導体市場全体の成長率(約10%)を上回ると予想している。

(財新記者:劉沛林)
※原文の配信は6月5日

(財新 Biz&Tech)