「2024年 未来の眺めが、 東京から変わります。 」のキャッチコピーで開催された東京都主催のイベント(筆者撮影)

東京都は2024年4月27日から5月26日にかけて、未来の都市像を体感できる「SusHi Tech Tokyo 2024」を開催した。

SusHi Tech(スシテック)とは、Sustainable High City Tech(サスティナブル・ハイ・シティ・テック)を指す複合イベントであり、寿司に特化したものではない。


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ただし、イベントに参加する独自キャラクターの「ロボコ」が、関連動画で自虐的に寿司を強調していたり、SusHi Tech Tokyo 2024のロゴマークに寿司のイメージがあるなど、洒落っ気のあるマーケティング手法という面もある。

国内外を問わず、広い世代から東京に目を向けてもらおうという、主催した東京都の戦略だ。

リーダーたちの議論から一般向けの体験展示まで

SusHi Tech Tokyo 2024の意義は、「持続可能な都市を高い技術力で実現し、都市課題の解決に向けた挑戦や東京の多彩な魅力を国内外に発信すること」としている。

構成要素は大きく3つあり、1つめは小池都知事が中心となり、世界5大陸の都市リーダーが次世代の都市について議論する「シティ・リーダーズプログラム(5月15〜17日、於:ホテルニューオータニ東京)」。

2つめは、アジア最大規模のグローバルイノベーションカンファレンスと銘打つ「グローバルスタートアッププログラム(5月15日〜16日、於:東京ビッグサイト)」。

3つめが、主に一般向けの「ショーケースプログラム」で、日本科学未来館、江東区青海〜有明のシンボルプロブナード公園、有明アリーナ、そして海の森公園のエリアの4カ所で行われたもの。

【写真】SusHi Tech Tokyo 2024の現場から

ショーケースプログラムの各所での開催日程は少しずつ異なったが、筆者は4カ所が同日開催となった唯一の日曜日である5月19日に取材を行った。午前10時から午後4時ごろにかけて、丸1日めぐった形だ。

まず、りんかい線国際展示場駅を下車し、東京ビッグサイト方面に歩いた。すると、屋外フードコートがあり、そこからシンボルプロムナードと呼ばれる屋外路を進む。途中、環境への配慮をした食品、アート感覚を強めたファッションなどの小規模ブースがあった。

その先は、自動運転車や小型モビリティの試乗体験エリア。ただし、搭乗可能なモビリティの数は少なかった。


シンボルプロムナードで実施された自動運転EVバスの乗車体験(筆者撮影)


電動パーソナルモビリティの体験コーナーもあった(筆者撮影)

さらにシンボルプロムナードを進むと、廃材利用による各種オブジェが並ぶ。ここは、ゆったりとした気分で鑑賞することができた。

その奥手には、東京都が推奨する電力確保の取り組み、「H:へらす/T:つくる/T:ためる」からなるHTT取組推進宣言企業の登録申請を紹介するブースや、トヨタの立ち乗り式モビリティ「C+walk T」を使う、参加費無料のスローレジャーライド「おさんぽ(OSAMPO) 」の体験コーナーなどがあり、人気を博していた。

燃料電池バスで行った「海の森エリア」は?

日本科学未来館に入ると、通常の展示とは別に1階の一部をSusHi Tech専用スペースとしていた。

ここでは漫画家・手塚治虫氏のキャラクターがアンバサダーとなり、子どもから年配の方まで広い世代に向けて、ロボットやドローンなどを実際に体験できるコーナーを設置。日曜日でもひどく混雑することはなく、比較的余裕を持って各種の体験をすることができた。


子どもが楽しめるコンテンツやワークショップも多数、実施されていた(筆者撮影)

そのほか「空飛ぶクルマ」の展示もあったが、開発や今後の利活用の可能性について具体的な説明はなく、ものたりなさを感じた。

日本科学未来館の次は、無料の燃料電池バスで約30分移動して、 海の森エリアへ。結論からいえば、ここでの体験は期待はずれだった。

SusHi Techのホームページには、「次世代の街づくりについて、ビジネスパーソンにも興味を持ってもらう内容」としていたが、現場にはそうした実機の展示がほとんどなかったのだ。建屋の中に各社のブースがあるが、説明員がいないブースも目立つほど。

外のオープンスペースには、レンタル方式の2輪車体験などもあるが、体験者数は極めて少ない印象だった。

仮に、次回SusHi Tech開催を企画するならば、主催者は今回の海の森エリアでの内容を反省し、抜本的な変更を考えるべきだろう。

最後に、有明アリーナに入った。ここにはモビリティやライフスタイルなど、多様な体験ができる展示があり、SusHi Tech会場の中でもっとも充実した内容に感じた。


バスケットボールのフリースローを行うロボットを実働展示(筆者撮影)

だた、昨年の「ジャパンモビリティショー2023(於・東京ビッグサイト)」で実施された、次世代の東京を体感する「Tokyo Future Tour」と比べると、予算感や規模感にかなりの差を感じてしまったのも事実だ。

真の「Techへの期待」を

こうして終日、SusHi Techの各種展示の現場をめぐってみたわけだが、「東京の未来は見えたか?」と聞かれても、素直に「YES」と言えない印象であった。

“都市の未来”というと、一般的には高度な技術がいまよりも拡充するイメージを持つかもしれない。特に目に見える形としては、空飛ぶクルマ、自動運転、自動配送ロボットが活躍する風景などであろう。または、“緑地化が進む”といった、環境意識への高まりかもしれない。


災害支援などで役立つアシストスーツの試着体験の様子(筆者撮影)

だが、そうしたいわゆる「アトムの世界」や「エヴァンゲリオンの世界」といった空想イメージが、未来の東京のイメージに合致するようには思えない。

未来のTech(テクノロジー)というと、目新しいハードウェアを思い浮かべる人が少なくないかもしれないが、それよりも、人の心の中の変化を呼び起こすような領域での新しいTechへの期待が高まるのではないか。

また、その中核では、街や社会におけるさまざまなデータの総括的な管理の重要性が増すのではないか。

SusHi Techというリアルな現場を体験したからこそ、日常生活では見えにくい「社会の中身」に対する意識が高まったように感じた。

そのうえで、次回SusHi Tech開催の必要性について、東京都には熟考を求めたい。

【写真】筆者が見たSusHi Tech Tokyo 2024

(桃田 健史 : ジャーナリスト)