東武鉄道日光線・南栗橋駅の改札口。リニューアルされて洗練された雰囲気に(撮影:鼠入昌史)

きわめておおざっぱに言えば、首都圏は東京都心を中心にして、放射状にベッドタウンが広がっている構造をしている。

間には川崎市や横浜市、さいたま市といったマンモス都市があるものだから実際にはもっと複雑ではあるが、シンプルにまとめればそういうことになる。だから、ベッドタウンもだいたい放射状にグラデーションのごとく進展していった。

外縁までやってくると、そうした首都圏の成り立ちを肌で感じることができるのだ。その1つが、東武日光線の南栗橋駅である。

終電後、途方に暮れる人も?

南栗橋駅は、東京の地下鉄から直通する列車の終点である。酔い潰れて最終電車に乗った人が、意に沿わずに連れていかれて途方に暮れる終点の駅でもある。おかげでだいぶ謎めいた印象を持たれているが、鉄道ネットワークという点からすると、首都圏の外縁の駅といってもよいのではないかと思う。

そんな南栗橋駅にやってくると、まず目に入るのは駅名標にある「BLP」の文字。いったいこれは、何なのか。そう思いながら駅を出て、少しだけ歩くとすぐに見えてきた。

【写真】東急田園都市線や地下鉄半蔵門線の電車の行き先としても知名度抜群、東武日光線の南栗橋周辺には何があるのか?(26枚)

「BLP南栗橋スマートヴィラ」はいままさに造成中といった雰囲気のまったく新しいニュータウン。東武鉄道やトヨタホーム、イオンリテールなどがタッグを組んで開発している住宅地である。最終的には172区画になるという。

「2023年度のグッドデザイン賞も受賞したんです。無人配送の実証実験をするなど、先進的なニュータウンとして開発しています。イオンスタイルもできましたし、BLPとは関係ないですが新しいマンションも建っています。南栗橋駅は終点とはいっても都心とつながっている駅ですから、少しずつ住民も増えていますね」


南栗橋駅西口で開発中の「BLP南栗橋スマートヴィラ」。まだ造成中の区画も多い(撮影:鼠入昌史)

駅長が語る沿線の特徴

こう話してくれたのは、東武鉄道東武動物公園駅管区南栗橋駅長の神山守さん。日光出身で、入社してからも日光線の駅での勤務歴が長い、いわば“エキスパート”だ。

最近では、10年にわたって東武動物公園駅で働いていたこともある。そんな神山駅長が、南栗橋駅長として管理しているのは、ほかに杉戸高野台駅と幸手駅。通勤電車ならば東武スカイツリーラインと呼ばれる区間を過ぎて、日光線に入り終点・南栗橋駅までが、神山駅長が預かる駅だ。


南栗橋駅の神山守駅長。駅名標にも「BLP」(撮影:鼠入昌史)

「杉戸高野台は、南栗橋と同じ1986年に開業した駅です。駅を中心に住宅地、団地などがあるようなベッドタウンの駅ですね」(神山駅長)

杉戸高野台駅周辺を地図で見てみると、確かに神山駅長の言葉通り、駅の周りは典型的なニュータウン的な住宅地が広がっている。実際に訪れてみてもそのままで、橋上駅舎の西口を降りると駅前にはいきなり大きなマンション。並木道を中心に、一戸建ての住宅が建ち並ぶ。

反対の東口は、駅のすぐ近くに国道4号が通り、向こうには団地群。その町の風景は、昭和の終わりころに開発されたニュータウンらしさを漂わせている。


杉戸高野台駅東口。小規模だが、緑にあふれているニュータウンの駅前広場(撮影:鼠入昌史)

「ニュータウンの駅」周辺には?

そして、この駅にはもう1つ大きな特徴が。

「私立の中高一貫校があって、とくに高校は1500人くらいの生徒数。ですから、朝の通学時間帯は生徒さんたちで大変にぎわいます」(神山駅長)

電車で通勤する人は、だいたい都心方面一辺倒の流れ。ただ、通学の場合はそうでもなく、都心方面からやってくる人も少なくない。こうした特徴は郊外に行けば行くほど顕著になるようだ。だから、朝の日光線は必ずしも「下りなら空いている」とは限らない。


杉戸高野台駅も南栗橋駅と同じ2面4線の駅だ(撮影:鼠入昌史)

杉戸高野台・南栗橋という1986年生まれの2つの駅に挟まれているのが、幸手駅だ。開業したのは日光線と同時の1929年と、一気に古くなる。ただし、幸手市の代表駅でもあって、立派な駅舎は2019年に橋上化されたばかりだ。

「幸手駅は近くに日光街道の宿場町がありまして、町を挙げて観光にも取り組んでいるんです。いちばんおすすめなのは、毎年春、桜のシーズン。駅の北東にある権現堂堤の桜です。歩くと40分くらいかかるのですが、桜の時期には渋滞ができることもあって、宿場町を歩いて向かう人もたくさんいます。桜の手前には菜の花も。駅の改札の向かいにはその様子が大きな写真パネルになっているので、ぜひ見てください」(神山駅長)


2019年にリニューアルした幸手駅の橋上駅舎(撮影:鼠入昌史)

宿場町の玄関口

神山駅長のそんな言葉に導かれて幸手駅を訪れてみると、確かに見目麗しい桜と菜の花のコラボレーションが、改札の向かいに広がっていた(写真ですけどね)。パネルの脇には駅ピアノ。「桜の時期に、誰かが『春よ、来い』なんて弾いていると、とてもいいんです」と神山駅長である。

いずれにしても、幸手駅は神山駅長が管理する3駅の中でいちばん歴史が古い。日光街道幸手宿にはじまる町の玄関口で、いかにも地方都市らしい駅前風景が広がっている。

とくに旧宿場町に近い東口。駅前広場は大きくも立派で、そこから東に延びる大通りはどことなく懐かしさも残る商店街だ。まだ鉄道のなかった時代、旅人たちが足を休めた宿場にルーツを持つ、古い町。こうした町が、首都圏郊外の小都市の原点なのである。


幸手駅改札前の自由通路。菜の花と桜の写真パネルが出迎える(撮影:鼠入昌史)

そして、再び南栗橋駅に。

「やっぱり都心から来る通勤電車の終点ですからね。駅に着いたら折り返しの車内点検もしています。忘れ物も結構多いですし、夜になると寝ている方も……。運転上の拠点ですから、いろいろなことがあります。車両基地のほかにも乗務員の詰め所もありますから、南栗橋駅を利用している人の多くは、実は東武鉄道の社員であることも……。ですが、駅の周りの開発が進んでいるので、これからに期待ですね」(神山駅長)

なお、南栗橋駅はあくまでも日光線の途中駅の1つ。たまたま運転上の終点になっているだけだ。ところが、この駅の構内にゼロキロポストが置かれているのだという。いったい、何のため?

「研修のための訓練線が設けられていて、そのゼロキロポストなんです。東口を出て、少し線路沿いを歩いていただくとフェンスの向こうに見ることができますよ」(神山駅長)


南栗橋駅の構内には訓練線のゼロキロポスト(撮影:鼠入昌史)

首都圏の発展が凝縮

ちなみに、南栗橋駅と杉戸高野台駅、つまりいちばん歴史の古い幸手駅以外の“ニュータウン”2駅には、通勤時間帯に特急が停車する。このあたりは、ベッドタウンとしての進化の帰結ということなのだろうか。

改めて、杉戸高野台駅から電車に乗ってみる。古い団地も見える車窓はすぐに田園地帯に移り、古い宿場にルーツを持つ小都市・幸手の市街地へ。そして再び田園地帯を抜けたと思ったら、目下開発のただ中という先進的な住宅地。東京都心から離れれば離れるほど開発の時期も遅くなる。それが、このグラデーションを生んでいるのだろう。

ともすれば、神山駅長が管理するこの3駅は、首都圏の発展が凝縮されたような区間と言えるのかもしれない。


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(鼠入 昌史 : ライター)