英、独など海外からも取材が殺到

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「退職代行モームリ」。この名を聞いたことがある人は多かろう。最近、新聞にテレビに雑誌にと出ずっぱりの運営会社代表。4月から取材を受け始め、その数60件を優に超えたという。ブームの最中、当世の労働事情をどう見ているのか。

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【写真を見る】土下座をしても会社を辞められないことも

 退職代行とは、労働者の退職意思を本人に代わって雇用者側に伝え、諸般の手続きを進めるサービスのこと。2022年3月から業務を始めた「モームリ」では、この4月だけで約1400人の代行を請け負った。昨年4月は146人。何とも目覚ましい飛躍である。

「30代以上が3割」

 運営する株式会社アルバトロスの代表取締役・谷本慎二氏(35)によると、

「これだけ需要があるのは、日本の労働環境が良くない表れですね。利用者はサービス業、飲食関係、製造業の工場勤務の方が多いです。品川、新橋などで働くようなオフィスワーカーは少ないです」

英、独など海外からも取材が殺到

 モームリの利用料金は正社員なら2万2000円、アルバイトで1万2000円。自分で退職の意思すら伝えられず、金を払って他人に頼るなんざ最近の若者は情けない、と小言を呟きたくもなるが、

「いえいえ、利用するのは若者だけじゃありません。30代以上の利用者も3割を超えているのです」(同)

 しかも、退職代行を利用する人たちには、それ相応の理由があるという。

「体感ですが、6割近くの方が会社に反対され、辞めさせてもらえないのです。3割はうつ病などを発症し、会社との対話が困難な方です」(同)

「毎日2〜3時間も会議室に閉じ込められ…」

 この点、たしかに雇用者はしつこく手強い、と語るのは20代の元NHK職員だ。

「自分は、後輩が退職する際に会社から猛反対されているのを目の当たりにし、退職代行を利用しました。その後輩は勤務時間中、毎日2〜3時間も会議室に閉じ込められ、上司から辞めないように説得されていたんです。彼のいる支局まで、担当の総務部長がわざわざ飛行機で説得しにやって来たこともありました」

52歳男性が土下座

 このような説得行為は2カ月にも及んだという。

「結局、後輩は職員証を上司に投げつけて退職しました。新人が立て続けに辞めると管理職が能力を問われますから、自分の場合はもっと強く引き止められると思ったんです。それで、どうにかうまく辞められないかとネットで検索。代行サービスの存在を知り、利用させてもらいました」(同)

 再び谷本氏に聞くと、

「なんとか退職しないように言いくるめてくる上司もいますし、絶対に認めないという上司もいます。事務系の仕事をしていたある男性は65歳で定年を迎えた後、パートとして働き続けていましたが、心身ともにきつくなって毎年のように退職を願い出ていたといいます。それでも辞められず、71歳の時に代行のご依頼をいただきました。建築関係の仕事をしていた52歳の男性は、退職の意思を3回も伝えたものの引き止められ、最後は“本当に辞めさせてくれ”と土下座までした。なのに社長が認めず、うちを頼ってこられたんです。どちらもうちが電話したら、退職が認められました」

“呪ってやる”と怒鳴られることも

 世にいわれる人材難。会社を去るのがこんなにも大変なら、退職代行がはやるのもうなずける。ところで、代行の際に会社側ともめることはないのか。

「たまに中小企業の社長から理不尽に怒鳴られることはあります。“殺すぞ”とか“呪ってやる”とか。スタッフには、極力気にせず淡々と業務をこなすように伝えています」(同)

 退職代行業もまた大変な職業なのである。スタッフが「もう無理……」とならないよう願うばかりだ。

「週刊新潮」2024年6月6日号 掲載