by 李 季霖

世界最大の半導体専業ファウンドリであるTSMCは、本拠地のある台湾以外にアメリカや日本にも工場を建設しています。これは、TSMCの躍進を支えるアメリカ企業との提携を促進し、アメリカと中国の間で深まる貿易面の対立に対処するための取り組みでもあるのですが、工場を台湾から完全に移転させることは不可能であるとTSMCが結論づけたことが報じられています。

TSMC says it has discussed moving fabs out of Taiwan but such a move impossible | Reuters

https://www.reuters.com/technology/tsmc-says-it-has-discussed-moving-fabs-out-taiwan-such-move-impossible-2024-06-04/



TSMC mulled moving chip fabs from Taiwan over China threat • The Register

https://www.theregister.com/2024/06/04/tsmc_discussed_moving_chip_fabs/

New TSMC chairman CC Wei brands OpenAI's Sam Altman 'too aggressive for me to believe' | Tom's Hardware

https://www.tomshardware.com/tech-industry/new-tsmc-chairman-cc-wei-brands-openais-sam-altman-too-aggressive-for-me-to-believe

頼清徳氏が台湾総統に就任して以来、中国と台湾の間の緊張感は急激に高まっています。台湾海峡を挟んだ情勢の不安定さはサプライチェーンにとっても懸念事項となっており、TSMCもこれを認めています。しかし、TSMCの魏哲家会長は同社の年次総会後に行われた記者会見の中で、TSMCの半導体生産能力の80〜90%が台湾に存在することを考慮すると、工場を完全に台湾から移転することは不可能であると語りました。

魏会長によると、TSMCはこれまで一部の顧客と工場設備の移転について協議を続けてきたそうですが、最終的に移転は不可能であるという結論に至ったと明かしています。なお、魏会長は工場移転の可能性について協議した顧客の名前を明らかにしていません。

生成AIの流行により、AIサービスの提供で利用されるAI向けの高性能チップの需要が急騰していますが、AIチップの供給にTSMCは苦戦しています。TSMCはAI業界のリーダーであるOpenAIとも協議を進めていますが、魏会長はOpenAIのサム・アルトマンCEOについて、「彼は非常に攻撃的です。私には信じられないくらい攻撃的です」と語りました。



ロイターが接触した事情に詳しい情報筋によると、アルトマンCEOは2023年にTSMCと協議し、OpenAIが着実に増え続けるAIチップの需要を満たすのに十分なシリコンを確保するべく、30カ所ほどの工場新設を提案したようです。

協議そのものは友好的なものであったものの、TSMC側は「アルトマンCEOが提案した工場の数が多すぎる点」「求められる80%以上の稼働率で工場を稼働させることができないのではないかという点」の2点を懸念していると、情報筋は指摘しています。TSMCとOpenAIが協議した段階では、30以上の工場を建設するほどの需要がAIチップで発生するとは予測されていなかったというわけです。

なお、工場の候補地が台湾以外も含んでいたかどうかは不明です。



台湾の集積回路メーカーであるPSMCの黃崇仁会長は台湾で開催されたCOMPUTEX TAIPEI 2024の中で、「海外顧客が台湾の半導体企業に対して、台湾での製造をやめるよう圧力をかけているのでは?」と記者に質問された際に、「まだ誰も心配していません」「もちろん軍事行動や対立は常にあると思いますが、台湾はAIにとって非常に重要な土地であり、中国人もそれを理解しています」と言及しています。

一方で、AMDのリサ・スーCEOは、中国と台湾の関係悪化が業界にどのような影響をおよぼすのかという記者からの質問に対して、「当社はTSMCのような主要サプライヤーと多くの製造を台湾で行っています。また、台湾でのエコシステム構築を支援してくれるパートナーも数多くいます」「我々の観点から言えば、グローバルエコシステムを持つことが本当に重要です」と語りました。



これとは別に、アメリカはNVIDIAなどの半導体企業に対して、中国への高度なチップの輸出規制を行い、中国のAIやスーパーコンピューター分野への進出を妨害しています。この規制により、アメリカのチップ製造ツールを使用しているTSMCやその他の海外チップメーカーは、中国からの高性能チップの製造を受注できなくなっています。中国のAIチップ企業は、これに対応するべくより低性能なプロセッサを設計し、TSMCにチップ製造を依頼していることも明らかになりました。