ノートを使った内省手法を実践・提唱する山田智恵さんは“自分にあるもの”を活かすことで、想像以上の未来にたどり着くことができると言います(写真:ViShark/PIXTA)

「英語を話せるようになる」「週に2回はジムに通う」など、目標を立てるだけで安心してしまい、結局達成できずに終わることも少なくありません。しかし、ノートを使った内省手法を実践・提唱する山田智恵さんは、「成功するために目標設定は必須ではありません。“自分にあるもの”を活かすことで、想像以上の未来にたどり着くことができます」と言います。その理由を聞きました。

※本稿は山田智恵著『最高の未来に変える 振り返りノート習慣』から一部抜粋・再構成したものです。

結局毎年同じ目標を書いている

私は、人生を良くするために、何度も目標設定をしてきた時期があります。毎年、新年にこんなことを書いていました。

・英語を話せるようになる!

・週に2回はジムに通って体力UP!

・自炊回数を増やして、健康的な食生活に!

・いろんな人と知り合って、刺激を増やす!

もしかして、あなたも似たようなことを書いたことがありませんか?

言葉だけではなく、ビジュアル化した方がいいと聞いて、自分の夢のイメージに近い写真をペタペタと貼るビジョンボードなるものを作ったこともあります。成功に近づくために必要なことだと思っていました。

ところが、あるとき私は、あることに気がついて、愕然としました。なんと、私は6年間、毎年同じ目標を書いていたのです。同じことを書き続けて、実現するどころか、行動もまったくできていませんでした。思わず、心の中で叫びました。

「意味ないじゃん!」

叶いもしないし、何より、自分がダメ人間に思えてくる。いったい目標って、何のためにあるんだろう……。ふつふつと怒りが湧いてきました。

その年から、私は目標設定をやめました。

「自分が考えたことしか実現できない」はウソ

そして、目標設定をやめた代わりに、ノートの振り返りに時間を使うようにしました。今日、自分にどんなチャンスがきたのか? ゴミのようにしか見えない経験でも何を得たのか真剣に考えたり、出会った人たちと何ができるだろうと想像を膨らませたりと、今「あるもの」を活かすことに集中しはじめたのです。

未来の行き先が見えないと怖く感じるので、つい目標を定めたくなるのですが、それを手放して運に任せようと決めました。

そうしたら、自分でもまったく想像もしていなかった未来が待っていました。大企業で昇進することも、本を書くことも、起業することも、講演が仕事になることも、自分のコミュニティを持つことも、自分にできるとは想像すらしていなかったことが、どんどん実現できるようになったのです。

よく「自分が考えたことしか実現できない」って言いますが、そんなことないと心底思いました。人生には、自分が考えてもいなかったことも起きます。

だから、力強く伝えたい。目標設定しなくても、「自分にあるもの」を見つけ出し、それを活かすことで、想像以上の未来にたどり着くことができます!

経営学で「エフェクチュエーション」という考え方があります。サラス・サラスバシーという経営学の博士が、優れた起業家の思考法を研究したところ、これまで考えられていた成功法則とは真逆の法則があることがわかったのです。

それは、「優れた起業家は、目標を設定し、そこから逆算して計画を作成する逆算型思考ではなく、手持ちの手段から新しいゴールを発見していく思考法である」ということです。

これは、「あるもの」を活かす思考と、とても似ている考え方です。自己啓発だけでなく、ビジネスの世界でも、こういった考え方が主流になってきています。

目標設定型の生き方がうまくいかなかった方には、自分に今「あるもの」を見つけ出し、それを活かす生き方をおすすめします。

そもそも目標というのは、自分の知っている範囲でしか立てられません。自分のまだ見ぬ可能性は、目標に入れられないのです。自分の知っている範囲で考えつく目標に固執することで、自分の選択肢を狭めてしまう可能性もあります。今の自分が持っている、たくさんの「あるもの」に目を向けてみましょう。

感情を詳しく表現できるとメンタルが安定する

私が実践する振り返り方法は、「書く」と「振り返る」を分けてやります。書くだけではなく、「書いたことを振り返る」ところが大切なのです。

なぜ、書くだけではダメで、振り返る必要があるのか? これには明確な理由があります。まずは、書くことの効果を理解しましょう。

書くことの重要な効果は、感情を言語化し、気持ちが整理されることにあります。泣いている赤ちゃんを想像してみてください。赤ちゃんが泣いたら、親は「あれ? 何か不快なことがあるのかな?」と異変を察知して、「お腹が空いたのかな?」「おむつが汚れたのかな?」と不快を生み出している原因を探ります。

赤ちゃんは言葉を話せないので、泣くことで不快を伝えようとしますが、実は、生まれたばかりの赤ちゃんは、そもそも自分が何を不快に感じているか自分では特定できていないそうです。お腹が空いているのか、眠いのか、痒いのか、自分では認識できていません。

赤ちゃんの気持ちを代弁すると、「何が気持ち悪いのかわからないけれど、なんか不快! 助けて!」といった感じでしょうか。

考えてみてください。これって、赤ちゃんだけの話でしょうか? 大人にも似たような状況はよくあると思いませんか?

嬉しいことも、危機的な状況も、心が動いたありとあらゆることを「やばい」の一言で表現したり、腹が立ったことを「なんか、ムカつく!」だけで終わらせていることは、多くの方が経験していると思います。

いったい何に心が動いているのか、それは悲しみなのか、怒りなのかを自分でもわかっていない。これは、何が不快かを自分でもわかっていない赤ちゃんと同じなのだと思います。自分の感情をより詳しく表現できる人の方が、よりストレスに強いという研究結果があります。感情を詳しく表現できると、脳が混乱せず、メンタルが安定するのです。自分の感情をより細かく特定していくことに、書くことが役立ちます。

何を恐れているのか言語化することで、緊張から解放された私の事例をご紹介します。あるとき、私は著名な大学教授と対談する機会をいただきました。この対談の1週間前から、私はとても緊張していました。1週間の内、3回も先生が夢に出てくるほど、常に対談のことで頭がいっぱいでした。でも、私は「あ〜、緊張する〜」というところで止まったままで、いったい何に緊張しているのかまで考えていませんでした。

当日、緊張しすぎてお腹が痛くなってきたので「私は、いったい何にこんなに緊張するのか? いったい何を怖がっているのか?」を書き出してみることにしました。まず、頭に浮かんだのは、これでした。

みんなの前で話せるかが心配?

まぁ、それもなくはないのですが、いつも一人で話しているときとは違う緊張だったので、もっと他にも理由があるなと考えました。次に思い浮かんだのは、これです。

先生と盛り上がらないことが心配?

これは、これで心配だなと思いました。ただ、なんだか、まだ確信にたどり着いていない感じがする。さらに考えて、盛り上がらないってどういうことだろう? と考えてみたら、こんな答えが出てきました。

先生の話したことを、私が理解できずに、反応できなかったら困る!

ここまでたどり着いて「これだ!」と納得しました。先生に難しい話をされて、私が理解できずに、ポカンとしてしまうと、その場をどうやって進めればいいかわからなくなってしまいます。こうなることが一番怖いことだ! と緊張の原因を突き止めることができました。

何が怖いのかを言語化する

次に、ここまで言語化できると、「じゃ、実際にそうなったらどうする?」と考えてみることができます。


もし理解できなかったら、「わからなかったので、もう少し詳しく教えてください」って言ってみよう。そんなことで先生は怒るわけがない。こう決めたら、「じゃあ、何も怖いことはない!」と思えて、心が落ち着いたのです。結果、対談は盛り上がり、とてもいい経験になりました。

「なんだか、緊張する!」で止まっていたときは、いったい何が怖くて緊張しているのかわからずに、頭が混乱している状態でした。でも、何が怖いのかを言語化して、突き止めたおかげで、「じゃあ、どうする?」という次のことを考えることができたのです。

毎日、書き出すことで、言語化は上達していきます。最初の頃は「やばい」の一言しか書けなかった人も、もっと詳しく書きたくなって、自然と「何がやばいのか」「なぜやばいと感じたのか?」など言語化の粒度が高くなっていきます。自分の考え・想いをよりクリアに言語化していけるようになります。

これが書く効果です。書くだけでも、頭と心がスッキリします。この効果のために書き続けている方も多いと思います。それくらい大切な効果なのです。みなさんも、ぜひ、まずは日々の出来事や感情をノートに書きだすところからはじめてみてください。

(山田 智恵 : 株式会社ダイジョーブ代表取締役)