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定額減税が6月分の給与から開始されます。1人あたり年間4万円の減税を受けられますが、所得税と住民税で減税方法が異なり、また働き方などによって減税を受けられるタイミングが違うなど、しくみは複雑です。そのため恩恵を実感しにくいとの声もあるようです。いつ、いくら減税されるのかをまとめてみましょう。

所得税で3万円、住民税で1万円の減税

今回行われる定額減税は、年間に1人あたり所得税で3万円、住民税で1万円、合計4万円が減税されるものです。対象になるのは年収2000万円(所得1805万円)以下で国内に居住している人です。

たとえば夫婦と子ども2人がいる4人家族の場合には、減税額は家族合計で16万円になります。減税額は納税者が納める所得税と住民税から差し引かれ、年収103万円以下の配偶者や子どもなどの扶養家族がいる場合には、家族分も合わせて納税する人の税からまとめて減税されます。

減税は所得税と住民税それぞれで行われます。またいずれも、働き方によって減税の実施方法やタイミングが異なります。

会社員など給与所得者の場合には、6月以降の源泉徴収で減税されます。

会社員などの所得税減税について

所得税については、6月1日以降に支払われる給与・ボーナスに対する源泉徴収税額から、最大3万円×人数分(本人+扶養家族の人数。以下同様)の減税額が差し引かれます。

源泉徴収される税額が高ければ一度に減税額全額が差し引かれますが、6月支給分の給与・ボーナスだけで差し引けない場合には、控除しきれなかった減税額を繰り越して、7月以降の支給時にも減税されます。減税額が全額に達したところで、今回の減税は終了します。


国税庁「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」より

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一例として、4人家族で所得税の定額減税額が12万円、給与の源泉徴収税額1万1750円、ボーナスの源泉徴収税額9万3000円のケースをみると、6月の給与とボーナスにかかる税額はすべて減税されて天引き額は0円になります。

6月の給与は1万1750円、ボーナスは9万3000円、手取りが多くなるわけです。6月に引ききれない分は7月と8月の税額からも差し引かれています。所得や家族構成などによっては減税が数カ月にわたって続くため、毎月いくら減税されたのかがわかるように、6月以降の給与明細には減税額の明細が記載されることになっています


国税庁「給与等の源泉徴収事務に係る令和6年分所得税の定額減税のしかた」より

会社員などの住民税減税について

住民税については、通常は毎月の給与・ボーナスから源泉徴収されますが、今年6月に限り、すべての人の徴収がなくなります。7月以降は、7月から来年5月までの11カ月分の税額から減税額(1万円×人数分)を差し引き、差引後の税額の11分の1ずつが毎月天引きされます。


総務省「個人住民税の定額減税(案)に係るQ&A集」より

自営業者は確定申告が必要

フリーランスや個人事業主などで給与からの源泉徴収がない人は、毎月ではなく納税のタイミングに合わせて減税されます

自営業者などの所得税減税について

所得税は原則として来年2〜3月の確定申告で減税されます。納税額の計算時に、3万円×人数分を差し引いてから納税します。前年の所得や税額が一定以上であれば、確定申告前に納税額の一部を予定納税しなければならないことになっていますが、この場合は直近の7月に行う予定納税時に本人分の減税額3万円が差し引かれます。

ここで控除しきれない場合には、11月の予定納税や来年の確定申告に残りの減税額が差し引かれます。年収103万円以下の配偶者や子どもなど扶養家族分の減税分も予定納税で差し引くには、事前の申請手続きが必要です。手続き方法の詳細は今後、国税庁から発表される予定になっています。

自営業者などの住民税減税について

住民税については、通常は6月、8月、10月、翌年1月の4回に分けて納付するため、6月分の税額から減税されます。こちらは基本的に本人のほか扶養家族の分も合わせて減税され、控除しきれない場合には8月以降の納税時に繰り越されます。減税を受けるにあたって、自分で事前に手続きをする必要はありません。減税額は居住している市区町村が計算し、納税通知書などに記載されます。

副業収入がある場合は本業で減税されるのが基本

副業がある場合の所得税減税について

副業などで2カ所以上からの収入がある場合、本業が会社員であれば基本的にはその勤務先の給与明細上で減税されます。

本業の会社では年末になると1年分の給与をもとに所得税を計算し直して、毎月天引きされてきた源泉徴収税額との差額を年末調整しますが、そのときに定額減税を引ききれないと判明するケースもありえます。

その場合には、来年2月からの確定申告で副業を含めた所得にかかる所得税を計算し、そこから定額減税額を差し引きます。本業の源泉徴収のときに減税しきれていなかった分が還付されます。

副業がある場合の住民税減税について

住民税については、納税方法の設定により取り扱いが異なります。本業の給与から天引きする「特別徴収」を選択している場合には、副業も含めすべての所得に対する住民税が給与天引きされ、定額減税もここで差し引かれます。

もう一つの方法である「普通徴収」は、自営業の人などと同様に年に4回自分で納税する方法です。副業収入が給与以外の場合や確定申告時に普通徴収を希望した場合などには、住民税は自分で納めます。

普通徴収の場合は、直近6月に納める税額から定額減税分が差し引かれ、引ききれない分は8月以降に繰り越されます(※市区町村によって取り扱いが異なる場合があります)。

すべての人に共通の調整給付について

所得税や住民税の税額よりも定額減税額が上回って引ききれない場合には、減税しきれない金額が給付金として支給されます。所得税で引ききれなかった減税分も住民税で引ききれなかった減税分もまとめて市区町村が計算し、「調整給付額」として支給されます。対象者には今月頃から通知が届く予定です。

所得税と住民税で減税しきれなかった不足の合計額のうち、1万円未満は端数として1万円単位で切り上げます。たとえば不足額が1万円以下の場合は給付額は1万円、1万5000円であれば給付額は2万円になります。

調整給付は2023年の所得税と住民税の課税状況をもとに、今年分の税額から定額減税で引ききれないと見込まれる金額を推計して支給されます。今年分の所得税額は年末に確定しますので、年内に収入が下がって税額が下がった、子どもが産まれ扶養家族が増えて減税額が増えたといった理由で結果的に給付が不足した場合には、来年以降に追加で給付されます。

住宅ローンやふるさと納税への影響はない

税が軽減される措置には、住宅ローン控除やふるさと納税制度などもおなじみですが、今回の定額減税による影響は今のところありません。

定額減税は住宅ローン控除をした「後」の税額から差し引かれ、定額減税と住宅ローン控除の両方により税が軽減されます。定額減税を理由に住宅ローン控除の減税額が減ったり、適用できなくなるようなことはありません。

ふるさと納税による税の軽減も、定額減税と併用できます。もともと、所得税については税額を計算する前の所得額が控除されるしくみ(所得控除)のため、計算上、定額減税によるふるさと納税への影響はありません。

住民税については、税額からふるさと納税による控除が差し引かれますが、定額減税はふるさと納税の税額控除後の金額から減税されます。

また、ふるさと納税により税額控除の限度額は所得割額の2割(特例控除分)とされていますが、今年度は定額減税「前」の税額の2割とされました。このため、定額減税が原因でふるさと納税による減税額が少なくなることはありません。

ただし来年度についてはこの適用がなくなるようです。仮に来年にも定額減税が行われる場合には、定額減税「後」の住民税額をもとにふるさと納税の減税上限額が決まり、ふるさと納税での減税額が少なくなる可能性も考えられます。

定額減税は今年限り?

なお、今回の定額減税は物価高騰対策として、現時点では今年限りの措置とされています。しかし、「物価上昇を上回る所得の向上が実現するまでの間、国民の可処分所得を下支えするためのもの(自民党)」であり、来年以降の実施については政府与党内でも意見が分かれているようです。

一時的にでも税負担が軽減されるのはありがたいことですが、勢いの止まらない物価高、補助金の終了によって今月利用分(7月請求分)からの値上げが確実視されている電気代など、家計への負担は増すばかりです。

減税が今回限りであれば、生活向上の特効薬になる期待は薄いと言わざるをえません。今後の動向を注視しながら、減税以外の支援策も含め少しでも家計が底上げされていくことを願います。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)