全国の小学校にグローブを配布した大谷翔平選手にならって、われわれG2P-Japanの本を、全国すべての高校に配布します! この封筒に入って届きます。

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全国の小学校にグローブを配布した大谷翔平選手にならって、われわれG2P-Japanの本を、全国すべての高校に配布します! この封筒に入って届きます。

連載【「新型コロナウイルス学者」の平凡な日常】第48話

「次のパンデミック」に備えるために、感染症研究を底上げしたい! それに興味を持ってくれる若い人たちを増やしたい! 筆者は、大谷翔平選手が日本全国の小学校へグローブを寄贈するというニュースに触発され、著書『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』を、全国すべての高等学校に1冊ずつ寄贈することを決めた。

* * *

■え!! 大谷翔平が全国の小学校にグローブを!?

2023年11月、驚きのニュースが全国を駆け巡った。

メジャーリーガーの大谷翔平選手が、全国すべての小学校に、グローブを寄贈する、というのだ。

2023年始めのWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)での大活躍、メジャーリーグ・アメリカンリーグのMVP受賞、そして、フリーエージェントになったことによる移籍先(当時はまだロサンゼルス・エンゼルスに所属。その後、ロサンゼルス・ドジャースに移籍)にまつわる報道など、ただでさえ彼の一挙手一投足に耳目が集まる時期であった。そこに、このニュースである。

日本全国に小学校は約2万校ある。それらすべてに、グローブを3個ずつ配る、という。つまり、約6万個。ひとつ3万円くらいするグローブだそうで、単純計算でなんと約18億円の費用を費やしたことになる。

それが自腹なのか、スポンサー契約をしているスポーツメーカーからの支払いなのかまではわからないが、とにかく驚きをもって伝えられるに値するニュースである。

しかも、その動機が素晴らしい。この報道とほぼ時を同じくして、「野球しようぜ!」という直筆のメッセージとサインが、本人のインスタグラムに掲載された。つまりこのグローブには、「野球に興味を持ってほしい!」という大谷選手のメッセージが込められているのである。

世界的スーパースターによる、こんな粋な計らい。これによって日本全国のほぼすべての小学生が「大谷翔平」の名前を知っただろうし、「グローブ」あるいは「野球」というものに触れるきっかけができたのは想像に難くない。日本でもアメリカでも、競技人口が減りつつあるという野球。それに歯止めをかけるための行動である。

むむむ。従事する人口が減りつつある分野。どこかで聞き覚えのある響き......。

......そう、私が常々頭の片隅に置いている、私自身が身を置く、感染症の研究分野である。

「次のパンデミック」に備えるために、感染症研究を底上げしたい! それに興味を持ってくれる若い人たちを増やしたい! というのは、現在の私の感染症研究に対する大きなモチベーションのひとつになっている。

大谷選手の報道について、あるG2P-Japanのメンバーとテキストチャットしていたときのこと。私が大谷選手の行動を手放しに絶賛していると、

「それなら、発売されたG2P-Japanの本を配ればいいじゃん」

と、彼が話した。それはもちろん冗談である。いやいや、何億円なんていう費用がいったいどこから出てくんねん、と、私は軽くあしらっていた。

――と、ある夜。床に就いて、睡魔がやってくるのを待っているとき、このときのやりとりのことがふと頭をよぎった。

小学校は2万校なのに対して、高校はおそらくもっと少ないはず。グローブはひとつ数万円らしいけど、G2P-Japanの本はもっと安い。そして、3つも必要なく、各校ひとつにすれば......。

あれあれあれ、もしかしたら、そんなに非現実的な、天文学的な数字にはならないんじゃ......??

私は上体を起こし、枕元にあったiPhoneで、日本全国にある高校の数を調べてみた。約5000。やはり、小学校の4分の1。

それじゃあもし、各校に1冊ずつ、G2P-Japanの本を配ることにすれば......!?

■日本全国のすべての高校に、G2P-Japanの本を寄贈します!

大谷選手によるグローブ寄贈の報道の直後のこと。幸運なことに、私が申請していた日本学術振興会が公募する「国際先導研究」という大型の研究費が採択された。この研究費が支援するのは国際共同研究の推進に加えて、「若手研究者の育成」(27話)。そう、この研究費があれば、この作戦に必要な費用は充分に捻出できるはずだ。

――と、このような経緯で、私たちG2P-Japanの本『G2P-Japanの挑戦 コロナ禍を疾走した研究者たち』(日経サイエンス社)を、日本全国のすべての高等学校、および、中等教育学校(中高一貫)、計4979校に、1冊ずつ寄贈することを決めた。

これを思いついた後、私はまず、G2P-Japanのコアメンバーにこの案を相談した。全員の快諾を得た後、「国際先導研究」の担当者に、この案の実現可能性を確認した。「その本の配布をきっかけとして、この研究課題に参画する若手研究者たちが、感染症研究の重要さを高校生たちに伝えるための講演活動をするのであれば」、ということを条件に承諾を得た。

そして、日経サイエンス社にこの案を伝え、この作戦は現実のものとして動き始めた。私はこの本の著者のひとりであるが、この購入によって著者に1円も入らないよう、配布する4979冊の本は、「著者割引」という形で購入した。

この活動の意図は、大谷選手によるグローブ寄贈と同じ。つまりこれはすべて、感染症研究の大切さと面白さ、そして、「次のパンデミック」への備えの重要性を、若い人たちに伝えるためのものだ。

この本を全国の高校に配り、それをそれぞれの学校の図書室に並べてもらうことができれば、理論上すべての高校生がこの本を手に取る機会が生まれる。その中でもし、この本に描かれているウイルス学者たちのドラマに、心を躍らせる生徒さんが出てきてくれたら......。

少子化とはいえ、現在の日本全体での高校生の総数は1学年あたり約100万人。もし0.001%の生徒さんだけでもこの本に興味を持ってくれたら、1学年あたりその人数はなんと1000人にもなるのである。

今の中高生たちは、新型コロナパンデミックによってその青春の一部が奪われてしまった子どもたちである。パンデミックで情報が錯綜し、社会が混沌とする中で、科学に基づいた正しい情報をリアルタイムに社会に届けるために、死にものぐるいで奮闘を続けてきたウイルス学者たちがいたことを知ってもらえたら。そしてその姿に共感して、心を震わせてくれる生徒さんがひとりでも出てきてくれたら、それに勝る喜びはない。

ウイルス研究は大事だし、重要だし、ドラマに満ちている。大谷選手のグローブと同じように、これを機会に、ウイルス研究に興味を持ってくれる若者がひとりでも増えることを願ってやまない。

――この想い、届け!!

文・写真/佐藤 佳