子の自己肯定感育む「親の言葉かけ」誤解なき方法
子どもの自己肯定感を高める子育て、声かけのコツとは?(写真:mits / PIXTA)
子育ての悩みは尽きないもの。そのような中、全国各地で母親対象のカフェスタイル勉強会「Mama Café」を年間130回以上主催し、1万人以上から相談を受けてきた石田勝紀さんと、NHK「すくすく子育て」元キャスターで、親子コミュニケーションアドバイザーとして講演や企業セミナー講師を務める天野ひかりさんがこのほど、教育ニュースレター「Discover Edu!」のイベントで対談。子どものやる気を引き出す関わりや、具体的な声かけについて語り合いました。対談の様子を2回にわたってお届けします。
「自己肯定感」に関する悩みが大半
石田:天野さんはNHK「すくすく子育て」のキャスターとして子育てに関するお悩みをたくさん聞く中で「自己肯定感」に関するものがとても多かったそうですね。
天野:はい、20年間子育てに関するお悩みを聞いていると、みなさんのお悩みは実はたった1つなんです。
それは、「親の言うことを聞いてほしい」。
つまり「勉強しなさい」って言ったら勉強してほしいのに、してくれない。「ゲームやめなさい」って何回言ってもやめない。
それで「私の言うことを聞いてほしいのに言うことを聞いてくれない。どうしたらいいですか?」っていうご相談なんですよね。
でもよくよく聞くと、本当の願いは、自分で考え行動できる子に育ってほしいということ。それなのに、毎日していることは、願っていることと真逆なんです。
石田勝紀さん(右)と天野ひかりさん(出所:Discover Edu!)
それはもったいないですよね。親がすべきなのは、子どもが自分で考える力そのものを認めていくこと。つまり、自己肯定感をちゃんと育んでいくこと。
そういう言葉かけを毎日していくことが、実は本当の親の願いを叶えていくことになるんじゃないかな?と思い、その自己肯定感を育てるための言葉かけをご提案する活動をしています。
石田:私も塾を経営していく中で、子どもたちの自信のなさを感じていました。それはどうやら勉強で潰されてしまっているせいだと。
親や教師からいろいろ指摘され、できないところの指摘ばかりされていて、「自分はできない人間だ」って思い込んでいた。だから、「勉強で潰されたものは勉強できるようにさせれば自信がつくんじゃないか」と考えたんです。
それで成績アップするように指導していったら、彼らの気持ちも変わっていきました。やがて自己肯定感という言葉が世の中に出てきて、日本人の自己肯定感の低さが問題視されるようにもなりました。
一方、自己肯定感は、自己有用感や自己効力感と混同されがちですよね。
天野:そうなんです。それらは「誰かの役に立っているから自分はすごい」とか、「何かがすごくできるから自分がすごい」という肯定で、つまり条件付き。
一方、自己肯定感は、弱い面も含めたありのままの自分を受け止める心の状態。それを育てられるのは、幼少期からの親の言葉かけなんです。
石田:丸ごと、ありのままの姿ですよね。
あとよくあるのが、自己肯定感が高いと、現状に満足してチャレンジしなくなるという誤解ですよね。自己肯定感があってこそ、次のステップに行けるのですが、この部分を誤解されている方がいらっしゃる。
天野:自分に満足しているわけではなくて、自分の苦手な部分も受け入れて、じゃあどうすればいいか考えることができるのが自己肯定感。
苦手なことは人に助けを求めたり、別の方法を考えて、自分の可能性を信じてチャレンジできる。周りの人と共に成長していける土台が自己肯定感なんです。
ですから、まずは親の声かけで、子どもの自己肯定感を育んでいただけたらと思います。
間違うことを嫌う子どもへの声かけ
石田:そんな声かけに関する質問もいただいています。「子どもが問題を間違えることを極端に嫌がる」というお悩みです。
「『間違えて残念だね。でも間違えたときこそチャンス。これが解けるようになったら、また一歩成長できるね』と前向きな言葉をかけても、癇癪を起こし『もうやだ!今日の勉強終わり』と投げ出してしまいます」
これはどのような声かけをしたらいいでしょうか?
天野:お母さんの言葉かけは本当に完璧で、教科書に載っているようなお手本ですね。お子さんも間違えるのが良くないことはわかっている。
こういった言葉が効かなくなってきているのは、お子さんの成長が次の段階に入ったので、親の言葉かけもバージョンアップしていくといいのかなと思います。
間違えたところに触れず、「できた問題」に注目するのがいいでしょう。「よくこの問題解けたね。去年できなかったのに1年間努力したんだね。すごいね」という言葉かけを心がけていただくといいですね。
自分のこととして考えるとよくわかります。
たとえば夕飯作りでがんばって5品作りました。でも宅配便が来たりあれこれあって、5品のうち、2品が失敗してしまいました。
そのとき家族に「あれ、このお味噌汁、ちょっと濃いね。でもママだったら大丈夫。明日には成長できるよ、また明日がんばろうね」と言われるとします。
次の日も「あれ、この肉じゃが、ちょっと固いね。でも大丈夫、失敗こそがチャンスだよ、次はうまくいくからがんばろうね」と言われたらどうでしょう(笑)。
最初はがんばれても、だんだん「もう今日は作りたくない!」ってなりませんか?
それよりも「このタケノコご飯おいしいね。お味噌汁はちょっと濃いけど、タケノコご飯はすごくおいしいね!」と言われたほうが、ずっとやる気になりますよね。
バツはいらない、マルだけでいい
石田:なるほど。料理もおいしいところを褒めて、それ以外は見ないようにするのは大事ですもんね。子どもの勉強についての声かけもそれと同じですね。
あとは、間違いを嫌がるのは、マルとバツの印象が関係しているのかもしれません。バツという形はいかにも「お前バカ」と言われているような感じがしますからね。
私は、小学校高学年くらいまではマルだけでいいと思っています。
僕がやっていたのは、子どもたちに間違いを発見させて、それがわかったらマルが増えるというもの。そういう感じにすると、子どもたちも間違いを正そうという姿勢が根付いてきますよ。
天野:なるほど。間違えるって、自分ができてないところを発見する第1段階ですものね。バツじゃないですね。
石田:中学生くらいになると、もっと理屈が通用するので、「マルはもともとできていたから成長していない。間違ったものができるようになった瞬間に頭が良くなっている」と説明します。
バツ、つまり間違いは宝なんだと。そうすると間違いを積極的に認めて自分で修正し出します。
天野:いいですね。昭和・平成の時代は正解が1つでしたが、これからは正解は1つじゃない。いろんな解があっていい。
そういう子どもたちを育てていかないとAIに勝てる子には育たない時代に入ったので、テストの問題もバージョンアップしていく必要がありますね。
(石田 勝紀 : 教育デザインラボ代表理事、教育評論家)
(天野 ひかり : フリーアナウンサー、NPO法人親子コミュニケーションラボ 代表理事)