毎年値上げされるiPhone。そのカラクリとは(写真:UPI/アフロ)

大人になってからも、何かを計算することに対して、苦手意識を持ち続ける人も多いでしょう。一方で、計算ができるようになると、世の中の見え方が大きく変わります。『東大式 数値化の強化書』を上梓した、現役東大生の永田耕作氏が、具体例を挙げながら数値化の面白さ、有用性について紹介します。

ハンバーガーも牛丼も値段が上がる

ここ最近の日本では、物価高騰が進み、さまざまな商品や、サービスの「値上げ」が進んでいます。

街中にある飲食店の状況を見てみましょう。人気ファストフード店のマクドナルドでは、2019年9月までハンバーガーが100円(税込み)で提供されていましたが、今では170円(税込み※一部店舗を除く)で販売されています。

ほかの飲食チェーンの状況も見てみると、人気牛丼チェーンの吉野家では、今から10年前の2014年には並盛の牛丼が1杯280円(税込み)で提供されていましたが、今では468円(税込み※店内価格)で販売されています。

食べ物のジャンルを問わず、直近10年で物価が1.5〜2倍に跳ね上がっている計算になるのです。

この値上げの大きな原因の1つとして、円安の影響が挙げられます。食べ物だけではなく、スマートフォンの値段も上がっています。

日本でも利用者が多い、Apple社のiPhoneは毎年新作が発表されていますが、年々値上げしているというニュースを耳にする方も多いでしょう。

しかし実は、商品自体の値段が大きく上がっているわけではないのです。

調べてみると、iPhoneの値段は2021年9月に発売した「iPhone13」(128GB)も、最新の「iPhone15」(128GB)も同じく799ドルであることがわかります。

機種が新しくなるにつれて、大きな容量の端末が作られているため、その容量に応じて、値段が上がることはありますが、iPhoneの基本の値段は変わっていないのです。

では、なぜ日本で買うと高くなってしまうのか。その理由も、紛れもなく「円安」にあります。

日本円とドルの為替の推移を調べてみると、iPhone13が発売された2021年は1ドル114円台で推移しており、当時の価格で9万円ほど。2024年は150円台に突入したことで、iPhone15は12万円近くに跳ね上がってしまいました。

値上げの原因を考えるうえで、このように数値を分析するのは非常に重要です。iPhoneが「値上げ」したのではなく、実際は円の価値が下がっただけなのです。

定食屋が値上げ!どちらの選択を選ぶ?

さて、ここまではなぜ「値上げ」されるのかを考えてみました。ここからは、値上げにどのように対処するのか、私たち人間の思考方法を深掘りしてみましょう。

まずは、こちらのクエスチョンを考えてみてください。

クエスチョン

あなたは会社員で、昼休みに毎日会社の近くにある定食屋でランチをしていました。その定食屋は、メニューの値段が一律900円だったのですが、今月から物価高騰に伴い値上げが行われ、1000円となりました。このとき、あなたは次のうちどちらの選択を選びますか?

選択肢A
値上げをしてしまったため、行きつけだった定食屋には行かずに、コンビニのご飯(1日平均500円)でご飯を済ますようにする

選択肢B
引き続き定食屋に通うことを続け、その代わり月平均で2回行っていた飲み会(1回平均5000円)を1回に減らす

いかがでしょうか。そもそも、飲み会月平均2回を、多いと捉えるか、少ないと捉えるかで話は変わってくるかもしれませんが、おそらく意見がわかれるクエスチョンでしょう。

選択肢Aでは、値上げした定食を食べずに、値上げ前の値段よりも安く済むコンビニのご飯を選択しているので、先月よりも出費を抑えることができる計算になります。そのため、選択肢Aは一見とても合理的に見えます。

しかし、選択肢Bもきちんと数値化してみると面白い事実に気づけるのです。定食屋の値上げ幅は100円であるため、その月の平日に毎日通ったとすると、

5日×4週間×100円 = 2000円

となり、定食屋で使うお金は先月までよりも2000円増えることになります。

しかし、その代わりに1回5000円の飲み会を減らしているので、差し引きして3000円出費が抑えられる計算になるのです。つまり、選択肢AもBも、値上げに対抗した節約を行っていることになります。

Aのほうが出費は抑えられるが…


もちろん、選択肢Aのほうがより大きく出費を抑えられることができます。しかし、これは本当に望んだ選択なのでしょうか? 一度考えてみましょう。

もしコンビニのご飯で十分満足できるのであれば、値上げする前からもともとコンビニのご飯を選択していた、と筆者は考えます。数値化の醍醐味は自分にとってどの要素が必要か考え、自分なりの数値化を行うことです。

今回であれば、毎日コンビニのご飯を買うほうが、お財布事情を考えるとよさそうだと思ってしまいがちですが、総合的に検討すると、月2回の飲み会の頻度を減らすほうが、栄養バランスや味の美味しさなどの生活の満足度は高まる可能性もあるのです。

いかがでしょうか。数学と聞いて苦手意識を持っていた人も、「勉強」というよりは、日常の生活のクイズだと考えると、楽しく計算できたのではないでしょうか。

「数値化」のメソッドは、さまざまな場所で活用することができます。その具体的な例は、先般上梓した『東大式 数値化の強化書』で紹介しているので、興味を持った方はぜひご覧になってみてください。

(永田 耕作 : 現役東大生・ドラゴン桜チャンネル塾長)