大卒と比べて中卒・高卒は「肺がん」や「脳血管疾患」の死亡率が高い 国内初の研究結果
国立がん研究センターは、国勢調査と人口動態統計をもとに、学歴別の全死因による死亡率を初めて推計しました。この内容について久高医師に伺いました。
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久高 将太(琉球大学病院内分泌代謝内科)
琉球大学医学部卒業。琉球大学病院内分泌代謝内科所属。市中病院で初期研修を修了後、予防医学と関連の深い内分泌代謝科を専攻し、琉球大学病院で内科専攻医プログラム修了。今後は公衆衛生学も並行して学び、幅広い視野で予防医学を追求する。日本専門医機構認定内科専門医、日本医師会認定産業医。
国立がん研究センターが発表した内容とは?
今回、国立がん研究センターが発表した内容について教えてください。
久高先生
今回紹介する研究は国立がん研究センターの研究グループが実施したもので、研究成果は学術誌「International Journal of Epidemiology」に掲載されています。
研究グループは、2010年の国勢調査と2010年10月~2015年9月の人口動態統計を活用し、約800万人分の人口データと約33万人分の死亡票をもとに、学歴と死亡率の関係を調査しました。その結果、短大・高専を含めた大学以上の卒業者と比べて、高卒者の死亡率は約1.2倍高いことが判明しました。また、中卒者の死亡率は大学以上卒業者の死亡率と比べると、全体で約1.4倍高くなりました。教育歴ごとの死亡率の差が大きい死因の上位は、「脳血管疾患」「虚血性心疾患」「肺がん」「胃がん」という結果になりました。
研究グループによると、「教育歴が死亡率に直接影響しているわけではなく、喫煙や塩分過多などの既知のリスク要因が社会経済状態によって異なることが、死亡率の差につながっていると推察される」とのことです。研究グループは今回の研究結果と今後の展望について、「諸外国では健康格差のモニタリングが政府統計により体系的におこなわれており、国際共同研究や格差縮小のための取り組みが実施されています。諸外国の事例を参考に、より代表性の高いデータを用いた健康格差のモニタリングと、疾病負荷が大きい集団を含めた全ての国民に届くよう、禁煙や生活習慣の改善・対策の立案が求められます」と述べています。
今回の研究が実施された背景は?
今回、国立がん研究センターが初めて学歴別による全死因の死亡率を出した背景には、どのような理由があったのでしょうか?
久高先生
研究グループが着目したのは健康格差という考え方です。健康格差とは、教育歴や職業、所得などの社会経済状態によって健康状態に系統的な差がある状態のことです。日本でも、2013年の「健康日本21」で初めて健康格差の縮小が全体目標に含まれました。
個人の健康に影響を与える社会的要因は「健康の社会的決定要因」と呼ばれており、健康格差を小さくすることは公衆衛生上の重要な課題でした。この健康格差をモニタリングする指標として、教育歴が国際的には広く用いられています。日本では政府統計による体系的なモニタリングや国際比較研究などはおこなわれているものの、教育歴ごとの死亡率の統計データはありませんでした。今回、研究グループは、国勢調査と人口動態統計が共通して持つ情報を用いてデータリンケージする方法を採用し、教育歴と死亡率の関連を死因ごとに分析して、日本の健康格差の実態を明らかにすることを目的に研究を実施しました。
国立がん研究センターが発表した内容への受け止めは?
国立がん研究センターが発表した内容についての受け止めを教えてください。
久高先生
教育歴ごとの死亡率の差が大きい死因には、喫煙や飲酒などの生活習慣が関与する病態が多いことが示されました。教育歴だけでなく、個人の健康リテラシーや所得などの経済因子を介して死亡率に影響を与えていると考えられます。教育歴を1つの参考として患者の健康教育などに濃淡をつけることも重要ですが、何より教育歴による不適切な差別につながらないよう患者に配慮した診療が求められます。
まとめ
国立がん研究センターは、国勢調査と人口動態統計をもとにして、学歴別の全死因による死亡率を推計したことを発表しました。海外では既に統計として運用されているデータですが、今回の取り組みが日本で初めてのことになり、大きな注目を集めています。
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