酔っ払いはアウト「令和の飲み放題」こう変わる
外食業界が本格回復する中、居酒屋チェーンの回復ペースは緩やかだ(撮影:今井康一、編集部)
歓送迎会シーズンに入り、居酒屋では久方ぶりの宴会が増えている。しかし宴会プランにセットで付いてくる「飲み放題メニュー」に異変が起きている。
「低アルコール・ノンアルコール飲料を拡充する」という方針を掲げるのは、チムニー、SFPホールディングス(HD)、鳥貴族HD、ワタミ、コロワイドの大手居酒屋チェーンだ。飲み放題のメニュー変更を実施あるいは予定している。
背景の1つにあるのが、厚生労働省が公表した「健康に配慮した飲酒に関するガイドライン(以下、ガイドライン)」。ガイドラインでは、1日あたりのアルコール摂取量は20グラム程度が適切と記載し、一時多量飲酒(1回の飲酒機会で60グラム以上)については急性アルコール中毒を引き起こす可能性があるため「避けるべき」と言及している。
飲み放題は続けるが・・・
飲み放題プランの多くは2時間制で、利用者の多くは元を取ろうと何杯もお酒を注文することになる。たとえば、アルコール度数5%のビールは中ジョッキ(500ml)で純アルコール量が20g、アルコール度数15%の日本酒1合(180ml)では21.6gになる。
つまりガイドラインを考慮した飲み方をすると、中ジョッキの生ビールで乾杯し、2杯目に日本酒1合を飲んだら、それ以降は低アルコールかノンアルコールを飲むことになる。ガイドラインの公表を受けて、東洋経済は居酒屋チェーン7社に「飲み放題を実施する方針に変更はあるか」アンケートを実施したところ、すべて「現時点で飲み放題を取りやめる予定はない」との回答だった。
冒頭の5社は、低アルコール・ノンアルコール飲料を拡充していると回答。鳥貴族は、2021年から全アルコール商品に純アルコール量をメニューに記載するほか、SFPHDやチムニーでは、多量飲酒(飲み過ぎ)を注意喚起する掲示物などを店内に設置する予定という(下図参照)。
厚生労働省は「ガイドラインは個人に向けたもので、飲酒の影響やリスクを正しく知ってもらうことが目的だ」とする。直ちに飲み放題がなくなることはなさそうだ。
変わる宴会の姿
これまで居酒屋の宴会といえば、大人数で集まってワイワイと飲んで盛り上がるイメージがあるが、昨今は事情が変わりつつある。「以前は居酒屋に入ったら、とりあえずビールを注文し、その後は同じアルコールを飲み続けるお客さんが多かった。しかし現在は多様なアルコール商品やノンアルコール商品の需要も高くなっている」(大手居酒屋幹部)。
もともと飲み放題は集客のための施策だ。客は値頃感のある価格で、定められたメニューの中から自由に飲むことができる。また一律料金のため会計での煩わしさが軽減されるといったメリットもある。
しかし、こうした従来の飲み放題では、集客への訴求力として十分ではなくなってきている。コロナを経て飲み会に関する認識は大きく変化した。飲み会の頻度が減っただけでなく、注文する商品にも変化がある。
ビールやハイボールだけでなく、サワーやカクテルなど多様なアルコール商品に加えて、低アルコールやノンアルコールの商品の需要は増加している。これらを飲み放題メニューにも反映するのは自然な流れとなっている。
外食産業は回復基調にある中、居酒屋業界を取り巻く環境はなお厳しい。日本フードサービス協会によると2024年2月の居酒屋業界の売り上げは、コロナ前の2019年比で67.2%と回復途上にある。
特に大人数の宴会需要は戻っていない。飲み会の存在意義すらも疑問視されるようになっている中で、居酒屋業界全体の売り上げを伸ばしていくことは容易でなくなってきている。
居酒屋からレストランへシフトも
実際にコロワイドはグループ全体に占める居酒屋店舗の割合を下げている。2019年3月末の居酒屋比率約20%から、2023年3月末は約10%へ半減している。引き続きレストラン業態の「牛角」などを積極的に出店する方針だ。
ガイドラインを踏まえると、飲み放題メニューの存在が問われても不思議ではない。令和の時代に飲み放題をどう展開するのか、居酒屋チェーンの姿勢やアイデアが問われることになりそうだ。
(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)