子どもに「求められてない助言」をする親の勘違い
子どもが「自分で決められる子」になるために、思わず叱ってしまう前に考えるべきこととは(写真:Ushico/PIXTA)
今日着る服、何をして遊ぶか、遠足のおやつに何を持っていくか、宿題をいつやるか……。
日常の中の小さなことから、どんな学校に進学するか、どんな部活に入るか、将来目指す職業など、人生を左右する大きな決断まで、子どもが大人になる過程では「自分で決めること」が数えきれないほどあります。
「自分で決められる子」になるために親がかかわれることの一つがコミュニケーション力を育てること。年間500本以上の論文を読む著者が厳選した世界の研究を根拠としてまとめた『自分で決められる子になる育て方ベスト』より一部抜粋、再構成してお届けします。
思わず叱ってしまう前に考えてほしいこと
「今日ね、友だちと一緒に階段から上ばきを落としてみんなで大笑いしてたら、先生にすんごい怒られたんだよー。でも楽しかったんだー!」
学校から帰ってきた小学2年生の息子からこの話を聞いた母親は、思わずこう答えました。
「そんなことして下にいる人に当たったりしたらどうするの! 危ないことしちゃダメって、いつも言っているじゃない!」
確かに階段の下に人がいたら危ないし、やってはいけないことです。その場に学校の先生がいたら、同じように注意してくれたでしょう。「今叱らないと、同じことをして誰かに怪我でもさせたら大変!」と気が気じゃないと思います。
こうした「思わず叱ってしまう」場面にも、アクティブリスニングの観点から子どものコミュニケーション力を伸ばすチャンスがあります。
ここに潜む問題点は、息子の詳しい話を聞かずにお母さんが「アドバイス」してしまっていること。
大人同士の会話で考えてみましょう。大人は置かれている立場が違うため、まずは相手の話を聞き、状況を理解しようと努めます。前後の事情を聞かずにいきなり叱りませんよね。
しかし、これが自分の子どもや家族といった距離の近い人になるほど、私たちはついアドバイスをしたくなってしまいます。
特に自分の子どもに対しては、親自身に子どもだった経験のない人はいないため、過去の自分の経験に基づいて、「子どもはこうでないといけない」「これをしてはいけない」などと、無意識の思い込みから「求められていないアドバイス」をしてしまいがちなのです。
アクティブリスニングで大切なことは、話をしている相手の状況や話の内容に理解を示し、共感してしっかり聞き込むことです。
ここに、話し手の話が正しいか間違っているか、いいことか悪いことかといったジャッジをするという行為は含まれていないのです(もちろん親として物事の善悪や危険な行動について指導しなければいけないという点を置き去りにしているわけではないので、ご安心ください)。
注意する前にまずは「気持ち」を要約
それでは、今回のケースではアドバイスの前にどのように答えたら良かったのでしょうか。ここでポイントになるキーワードが「パラフレーズ」です。
パラフレーズとは、アクティブリスニングの聞き方のテクニックの一つで、聞いた話をまとめて言い換えたり、要約したりする手法を指します。
今回のケースでは、叱りたくなるところをぐっと我慢し、まず話を最後まで聞きます。先日配信の「親子の会話は『子9割:親1割』がちょうど良い訳」で解説した原則と同じです。次に、パラフレーズの技法を使うと、こうなります。
「そうだったのね。みんなで一つのことで笑い合えて楽しかったね」
子どもが「楽しかった」と話していた内容を要約して、言いたいことを最後まで話させるのです。一通り子どもの話をしっかり聞いてあげた後は、「でも、下に人がいたらどうだったかな?」といったようにその行動が「客観的にどうだったのか」を聞いてみましょう。自分から「危なかったから良くないことだった」「次は気をつける」と言ってくれるはずです。
自ら考え、答えを見つけ出すこの過程が、コミュニケーション力を高め、自分で決められる子に近づくための一歩となるのです。
(画像:『自分で決められる子になる育て方ベスト』より)
「今日の体育で、リレーのバトン落としちゃったの。私が落とすまでは一番だったのに、私のせいで負けちゃった……。もう学校行きたくない。みんなの顔見たくないよ……」
来週に控えた運動会のクラス対抗リレーを楽しみにしていた次女。練習でうまくいかなかったようで、落ち込んでいます。そこで、励ますつもりでこう声をかけました。
「わかるよ。ママもリレーのバトン落としたことあるよ。しかも落としたバトンに乗っちゃって派手に転んで、学校中から大爆笑されちゃったよ。でも、そんなの大したことないよ! ママだってその後も楽しく学校に行けたんだから! 大丈夫大丈夫!」
この言葉を聞いた次女、一層心を閉ざしてしまった感じがします。なぜでしょう……。
こんな相談を受けたことがあります。
いいお母さんですね。きっと明るく楽しいご家庭なのだろうと思います。
でも今回のケースには、実はアクティブリスニングで「ハマりがちな落とし穴」が隠れています。
親の「よくあること」は、子どもの「一大事」
前回のケースで、アクティブリスニングには「共感が大事」とお伝えしました。今回のケースでは、共感を示せているように思えます。
しかし、ここに「ハマりがちな落とし穴」があります。それは、安易に「わかるよ!」と言ってしまうことなのです。
親からすると数十年の人生経験から「些細な失敗」と思えても、子どもにとっては、「人生最大の事件」だと感じていることは少なくないものです。
子どもの頃を思い返してください。クラスメイトとの小さなケンカも、宿題をやり忘れてしまったことも、大事件に感じていませんでしたか?
しかも問題は、「わかるよ」「大丈夫!」これらのフレーズです。子どもを励ましたいときに、つい言いがちな言葉ですが、これも子どもにとって逆効果になる可能性があります。
(画像:『自分で決められる子になる育て方ベスト』より)
簡単に「わかるよ」「大丈夫!」と言ってしまうと、「そんな簡単なことじゃない!」「親はどうせわかってくれない!」などと、共感ではなく「軽く考えているだけ」と感じられてしまうこともあるのです。この共感のようでいて共感ではない言葉が、子どもが心を閉ざしてしまう原因にもなりかねません。
共感+深掘りで気持ちが通じる
こんなときには、アクティブリスニングで話を聞くときに役に立つテクニック、「話を深掘りする質問」を使ってみるのがおすすめです。
今回のケースで深掘りする質問をしてみると、こうなります。
「それは辛かったね。ママも子どもの頃に似たような状況で辛い思いをしたことがあるよ」
これが最初の一言です。まずは「共感」ですね。「辛い」という気持ちに共感していることをはっきりと示してあげるのです。
気持ちに共感してあげた後は、「深掘りする質問」です。「辛いと思うのは、どうしてかな?」といった、内面を深掘りするような質問が効果的です。
親から日常的に「共感+深掘り」で質問されている子どもは、自然と友だちと話をするときに、「共感+深掘り」のステップを踏むことに慣れていきます。親が子どもに「共感+深掘り」の順で話す習慣を身につけると、子どものコミュニケーション力も育つのです。
「共感+深掘り」は次のような応用も利きます。例えば、「習い事の練習をやりたくない」と言っているような場合。
「みんな遊んでるし、練習しないで遊びたいよね」といったように、まずは「やりたくないという気持ちはわかる」という共感を示します。
そのうえで、「でもせっかく半年頑張ってきたピアノの発表会が明後日あるんだから、今日は練習した方がいいんじゃないかな」と、しっかりと伝えましょう。共感したうえで理由を説明する方が、子どもは受け入れやすいのです。
(柳澤 綾子 : 医師、医学博士)