WordやExcelといった仕事で使うソフトの「保存ボタン」はFD(フロッピーディスク)のアイコンになっている。FDは便利な記録媒体として長年使われてきた。テクニカルライターの宮里圭介さんは「1984年に標準化された3.5インチFDは、いまでも行政の現場で使われることもある。これほど長く使われたのは、それだけ普及していた記録媒体だったからだ」という――。
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フロッピーディスク。大きいものから8インチ、5.25インチ、3.5インチ - 筆者提供

■霞が関でも「脱フロッピーディスク」

2024年1月22日、経済産業省は所管する34の省令でフロッピーディスクなどの表記を廃止したと発表した。

ニュースリリース「記録媒体として、FD(フロッピーディスク)等を指定する規制等の見直しのため、経済産業省所管の省令の改正を行いました(デジタル原則)」

久しぶりに聞いた「FD」という言葉に懐かしさを覚えた人は少なくないだろう。

この発表は、デジタル庁が2022年6月に策定した「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」に沿ったもの。デジタル技術の活用を妨げる、古い制度やルールを見直そうというアナログ規制の一環だ。一括見直しプランの内容は多岐にわたるが、目的としているのは、人の介在を極力排除し、作業の合理化や効率化、自動化を推し進めることに他ならない。

■「FDはアナログ」は間違っている

1月の改正で行われたのは、名指しで記載されていた「フレキシブルディスク」(FDのこと)、「シー・ディー・ロム」といった記録媒体名の削除、もしくは、より抽象的な名称への変更だ。今までも拡大解釈によって他の記録媒体が認められることもあったが、それでも物理的な媒体を使うという根本部分は変わっていなかった。今回の改正で、ようやく手続きのオンライン化や、クラウドサービスなどの利用がしやすくなったわけだ。

少々脱線するが、「アナログ規制」という言葉と「FD」という部分だけを見て、「FDがアナログだ」と考えてしまう人がいるが、これは誤りだ。

そもそもFDに記録されているデータはデジタルであり、アナログではない。あくまで、FDを使った申請、つまり、物理的な記録媒体の受け渡しによる手続きが、アナログと呼ばれている部分となる。そのため、「FDではなくUSBメモリーを使え」というのは、少々的外れなアイディアといえるだろう。

ところでこのFD、40代以上の人には懐かしい記録媒体だが、40代未満の人にとっては、単語として聞いたことがある程度だということが多い。見たことも使ったこともない、という人が大半だろう。一体どんな記録媒体だったのだろうか。

■20センチ四方で柔らかい8インチFD

FDの特徴を端的に表すと、磁気記録可能な円形フィルム(ディスク)をカートリッジに収めたもの。FDというと、多くの人は固いプラスチックの外装をもつ「3.5インチFD」を想像するだろう。

しかし、この特徴をもつ記録媒体は、それ以前から多くの種類がある。最初に使われるようになったのは、IBMが1972年に開発した「Diskette」からだ。

これは、直径約200mmのディスクを封筒のような樹脂カートリッジで保護したもので、約203mm四方というかなり大型のものだった。その大きさから、「8インチFD」と呼ばることが多い。また、厚みは約1.8mmと薄く、下敷きのように手で簡単に曲げられる。

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IBMのDiskette - 筆者提供

■250KBでも「驚くほど大容量」だった

容量はフォーマット時250KBで、後に1.2MBまで拡張されたものの、それほど多くはない。ただし、それまで安価で交換可能な記録媒体として使われていたパンチカードなどと比べると、驚くほど大容量だ。

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パンチカード - 筆者提供

なお、容量だけでいえば磁気テープのほうが多いが、目的のデータへアクセスするのに物理的な早送りや巻き戻しが不要で、素早く読み書きできる点で8インチFDは優れていた。

コンピュータで利用されたというのはもちろんだが、紙と違って管理がしやすく、保存スペースを圧縮できるとあって、工作機械の制御データ保存用としても多く利用された。

有名なのは、西陣織などの布を織る織機だろう。また、更新が少ない単目的のシステムでは長く使われることがあり、米軍が核ミサイル運用から8インチFDの使用を停止した、というニュースを2019年に聞いて驚いた人も多かったはずだ。

■PCとともに普及した5.25インチFD

8インチFDをベースにし、より小型のFDとして登場したのが「Mini Floppy Disk」。米国のコンピュータ用周辺機器メーカーShugart Associatesが1976年に開発したもので、他のFDと区別するため、そのサイズから「5.25インチFD」と呼ばれることが多い。

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5.25インチFD - 筆者提供

直径約130mmのディスクを使い、約134mm四方とかなり小型化されたのが特徴だ。なお、ディスクを封筒のような樹脂カートリッジで保護している点や、厚みに関しては8インチFDとほぼ同じ。素直に小型化したような規格となっているため、容量も約80KBと少なくなっていた。ただし、技術の進化と共に容量は増えていき、特殊なものを除くと、8インチFDと同容量の1.2MBまで増加している。

8インチFDは基本的に外付けドライブによる利用だが、1980年代に普及したビジネス向けPC、個人向けのホビーPCでは、多くのモデルでこの5.25インチFDのドライブを内蔵していた。だれもがFDを使えるようになってきたため、ソフトの販売はもちろん、個人間でのデータ受け渡しもFDで行いやすくなった。また、薄くてコストが安かったこともあり、雑誌の付録に使われることも多かった。

■3.5インチFDで欠点を克服し、さらに小型化

5.25インチFDはそれなりに小型で安価ではあったが、ディスクの一部が露出しているため、ホコリやゴミが入りやすい、指でディスク面に触れてしまう、ディスク面に傷が付きやすいといった欠点も多かった。また、ほぼ正方形となるため、向きや裏表関係なしにドライブに入ってしまうというのも問題だ。

こういった欠点をなくし、さらに小型化したFDとしてソニーが開発したのが、「Micro Floppy Disk」。一般に「3.5インチFD」と呼ばれているもので、1980年に独自規格として開発。その後、1984年に標準化され、多くのメーカーが製造・販売するようになった。

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3.5インチFD - 筆者提供

主な特徴は、ディスクの露出を防ぐシャッターの装備、多少力を加えたくらいでは曲がらない丈夫なカートリッジの採用、ドライブに入る向きが決まっていることなど。中のディスクは直径約90mm、サイズは約90×94mmとやや縦長で、カートリッジが丈夫になったぶん、厚みは約3.3mmに増えている。

■1.44MBを超える容量の規格は普及せず

3.5インチFDは、AppleやIBMが採用したことで普及が進み、ホビーPC、ワープロ専用機などでも採用されることが増えていった。少し変わったところでは、電子楽器、デジカメなどでもFDを利用するものが登場している。

ワープロ専用機などでは容量が720KBのFD、PCでは容量が1.2MBや1.44MBのFDがよく使われた。これより容量が大きな規格もあるが、ほとんど使われることはなく、残念ながら普及しなかった。

■個人向けPCのメインストレージ的存在に

古くはFDからOSを起動し、データもFDに保存するという使い方がされており、とくに個人向けのPCでは、メインストレージに近い扱いとなっていた。Microsoft Officeソフトなどの保存アイコンがFDの形になっているのも、データ保存先の象徴として認識されていたことの名残だ。

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Wordソフトとペイントソフトの保存アイコン。FDの形になっている - 編集部作成

ただし、1990年代になるとHDDが低価格化し、個人向けのPCでもHDDが普及したため、FDの出番は減少。さらに、Windows 3.1が登場すると、音楽や画像が多く扱われるようになり、徐々にデータサイズが巨大化。FDでは容量不足になるシーンが増え、あまり使われなくなっていった。

■容量不足になっても「受け渡し用」として活躍

それでも、どんなPCでも大抵FDドライブを装備していたため、だれもが使える記録媒体としての強さは変わらない。1990年代でも、プリンターやスキャナーなどの周辺機器、拡張ボードなどでは、ソフトやドライバーの提供がFDで行われていたし、共通に使えるデータの受け渡し用メディア……リムーバブルメディアとしての活躍の場は残っていた。

行政手続きといった公的なものでは、だれもが使えるというのは非常に重要となるため、PCであれば大抵使えたFDが長く使われていたというのも当然だろう。とくに、書類のようなサイズの小さいデータであれば、FDで十分な場合が多かった。

ちなみに、3.5インチFDおよびFDドライブはどちらも2010年ごろに生産終了、2011年に販売終了となっている。登場から30年近くも製造が続いていたことからも、FDがいかに使われていたかがうかがえる。

■3.5インチFDに替わるリムーバブルメディア

容量不足からFDが使いにくくなったといっても、リムーバブルメディアの需要がなくなるわけではない。3.5インチFDに替わる記録媒体として登場し、比較的使われたのが、光磁気ディスク(MOディスク)やZip、リムーバブルHDDといった100MB程度の記録媒体だ。

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3.5インチMO - 筆者提供

FDと比べ高速で大容量、大型化していたデータもそのまま保存できるとあって、これらにお世話になった人も多いだろう。ただし、FDと比べるとドライブもメディアも高価。相手も対応ドライブを所有している必要があるため、データの受け渡しに使う場合は、事前の確認が必要だった。

その点光ディスクのCD-Rは、書き込みにこそ専用ドライブが必要だったものの、650MBと大容量で、読み出しはCD-ROMドライブでいいという手軽さがメリットだった。1990年代半ばには、CD-ROMドライブを標準装備したPCが多く登場していたこともあり、別途ドライブを購入することなくデータを受け取れたわけだ。

■主流はCD-R、DVD、そしてUSBメモリーへ

FDと同じく、標準で使える状態にあるというのは強い。CD-Rは1度しか書き込めないというデメリットはあったが、メディアの価格が下がるにつれ利用者が増加。CD-R対応ドライブを搭載したPCが増えていくと、他のリムーバブルメディアを圧倒していった。

続くDVDでは容量が4.7GBにまで増え、変わらず光ディスクが強さを誇っていたが、2000年過ぎから登場したUSBメモリーが徐々に台頭していく。当初は高価で容量が少なく存在感が薄かったものの、USBポートに挿すだけで使え、ドライブすら必要ないという手軽さで人気に。フラッシュメモリーの価格が下がると低価格化と大容量化が進み、広く使われるようになった。

今ではクラウドストレージを使うシーンも増えたが、データの受け渡しでUSBメモリーを使うことは少なくない。USBメモリーをだれかに渡すことがあれば、昔もこんな感じにFDでデータの受け渡しをしていたのかな、と想像してみてほしい。今まで聞いたことがあるだけだったFDが、きっと身近なものとして感じられるはずだ。

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宮里 圭介(みやさと・けいすけ)
テクニカルライター
PCをメインに、周辺機器やデジタルガジェット、ソフトなどのレビューや解説を得意とするライター。PC専門誌、テクノロジーメディアなどで活躍。古いリムーバブルメディアに興味があり、個人的に収集している。
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(テクニカルライター 宮里 圭介)