広汽トヨタが2025年モデルとした発表した新型カムリ(筆者撮影)

トヨタと広州汽車の合弁企業である広汽トヨタは2024年1月、中国で主力のセダン「カムリ」の新型を発表し、予約販売を開始した。

10代目のビッグマイナーチェンジ版となる新型カムリは、インフォテインメントシステムディスプレイを12.3インチに拡大し、自動音声でエアコンの温度調整などができるコネクテッド機能で、消費者ニーズに対応しようとしている。


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特筆すべきは、ガソリン車が17.38万〜19.88万元、ハイブリッド車(HEV)が18.18万〜20.88万元と、いずれも大幅な値下げに踏み切ったことだ。

中国では、コネクテッド機能を備える電気自動車(BEV)がガソリン車の競合相手となっている中、中・高級車市場で日本車首位のカムリがコネクテッド化で中国勢のBEVに対抗できれば、日本車にとって、新たな展開になるだろう。

2023年の中国の新車出荷台数は、輸出の好調を受け、前代未聞の3009万台を記録した。一方、BEVを中心とする新エネルギー車(NEV)シフトが進行する中、HEVを除くガソリン車の販売台数の減少が続く。2023年の1311万台というガソリン車販売台数は、2017年比で約1000万台も少ない。


現行カムリは、日本で2023年まで販売されていたものと同様のデザイン(筆者撮影)

市場の変調は、ガソリン車を中心とする日系自動車メーカーの中国事業に影響を与えはじめ、メーカーの明暗を分けている。

2023年の日系自動車メーカー大手3社の中国販売台数は、日産が前年比16.6%減の79.3万台(ピークの2018年比では41%減)、ホンダは10.1%減の123.4万台(ピークの2020年比で24%減)となった。トヨタはHEVなどをラインナップする優位性を生かし、多様な需要に取り組んでいるため、販売台数は1.7%減にとどまっている。

はたして2024年の中国市場で、日本車は再興できるのか。各社の主力モデルの立ち位置から、今後の見通しを考えてみよう。

シルフィ1車種に依存する日産

まず、日産の課題は大衆向けセダンの「シルフィ」に過大依存し、有力車種が少ないことだ。

シルフィは、2018〜2021年に中国乗用車市場のトップモデルとなり、2023年の販売台数は37万台に達して、日系車の首位を維持している。それにともなって、日産の中国販売台数に占めるシルフィの割合は、2018年の30%から2023年の47%へと上昇した。

しかし、日産はシルフィのほかに人気モデルを生み出せていない。2番手モデル不在、といえるのだ。シルフィに次ぐ主力モデルは「キャシュカイ」「アルティマ」だが、それぞれ日系SUVの第7位、日系セダン第9位となっている。


中国で日産の最量販モデルとなるシルフィ(写真:日産自動車)

シルフィ、キャシュカイ、アルティマの3モデルを除くと、中国市場における日産ブランドの存在感は薄い。主力SUVの不振とディーラーの値引き販売に加え、中国における日産車のブランド力そのものが低下していると見られる。

日産の中では人気モデルのシルフィも依然、日系車の首位ではあるものの、中国新車市場全体のランキングでは、2022年からBYDの王朝シリーズ「宋」に抜かれ、2023年には、第4位に転落した。同モデルは“10万元切り”の低価格で販売しているため、さらに値下げする余地は少ないだろう。

兄弟車での「カニバリ」がホンダの課題

ホンダは、主力モデルが中国勢のBEVに対し、省エネ技術での差別化が難しくなっている。2023年の中国販売台数では、SUVの「CR-V」とセダンの「アコード」が、それぞれ東風ホンダ全体の35%、広汽ホンダ全体の29%を占めた。

中でもロングセラーのCR-Vの販売台数は、外資系ガソリン車タイプのSUVで第2位を維持しているものの、すでにテスラのBEV「モデルY」、BYDのPHEV「宋」に太刀打ちできない状況となっている。

ホンダの電動車両(HEV、PHEV、BEV)の中国販売台数は2021年に23.3万台を記録したあと、伸び悩む形となり、2023年には前年比8.5%減となった。


ヴェゼルのボディを用いる東風ホンダのBEV、e:NS1(写真:本田技研工業)

「SPORT HYBRID i-MMD」を搭載するホンダのHEVは、ガソリン車と比較して、CO2排出量の低減や省エネを実現しているものの、走行中にCO2を排出しないBEVの増加により、中国で「技術のホンダ」を象徴するパワートレーンの優位性をアピールするのは困難となっている。

またホンダは、1つのプラットフォームをベースに内外装を変えることで、中国の合弁会社2社から新車をそれぞれ投入する兄弟車戦略を実施している。

クロスオーバーSUVの「CR-V」(東風ホンダ)と「ブリーズ」(広汽ホンダ)、グローバルミッドサイズプラットフォームを採用した「インスパイア」(東風ホンダ)と「アコード」(広汽ホンダ)、ハッチパックの「シビック」(東風ホンダ)と「インテグラ」(広汽ホンダ)のように、兄弟車が存在するのだ。

ガソリン車市場のパイが縮小する中、ディーラーの値引き競争を受け、ホンダの兄弟車同士でカニバリゼーションを起こしている現状がある。


e:NS1の兄弟車となる広汽ホンダ、e:NP1(写真:本田技研工業)

2023年には、東風日産がEGR バルブの不具合で、キャシュカイとエクストレイル、計118.8万台をリコールすると発表した。

また、走行記録装置の不具合により、広汽ホンダがアコードを22.4万台、東風ホンダはブレーキペダルセンサーのトラブルにより、CR-VのHEV 20万台以上をリコールしている。こうした大規模なリコールも、日産とホンダのブランド力に影響を与えたようだ。

中国製PHEVの価格破壊に打ち勝つには

日産とホンダが苦戦している中、トヨタは比較的堅調である。2023年に8万台以上を販売したモデル数を見ると、日産が3モデル、ホンダが5モデルであるのに対し、トヨタは10モデルであった。

また高級車では、ホンダのアキュラは撤退し、日産のインフィニティは年間販売台数が6000台未満。それに対し、全数を輸入するレクサスの販売台数は、前年比2.8%増の18万台に達し、ドイツブランドに次ぐ4番目の高級車ブランドとなっている。これはトヨタのブランド力を支える1つの重要な要素だ。

トヨタはSUVラインナップを増やし、ガソリン車の競合から確実にシェアを獲得している。特にファーストカー向けの「フロントランダー」は、優遇を加えると10万元を切る価格となり、2023年は前年比約2倍となる19.8万台を販売。日系SUVの第2位に躍進した。


フロントランダーは日本のカローラクロスにあたるモデル(写真:トヨタ自動車)

トヨタはブランド力と製品力で勝負する一方、価格戦略の見直しも行っている。一方で、価格が20万元を超えるモデルの販売台数を見ると、広汽トヨタと一汽トヨタがそれぞれ44.5%、49.8%で、他社よりも高い水準にある。今後、トヨタが値引き攻勢で販売台数を維持していくと、それが日系同士の新車販売に影響を与えるだろう。


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中国では電動化シフトが加速する中、中国勢PHEVの価格破壊が、日本車全体の競争力を一気に脅かした。日本車の販売不振が長引くと、ディーラーの経営悪化や不採算店の廃業が起こって間接的にメーカーの減産を後押しし、系列部品サプライヤーも事業縮小を余儀なくされる。

この先は、ガソリン車の需要が減少の一途を辿り、各社とも残存者利益をとるための値下げ競争が一層熾烈になると予測される。日系自動車メーカーが中国市場で戦っていくためには、機能・乗車体験・コスパを含むガソリン車とHEVの競争力を構築し、既存のファンをキープすることが最重要であろう。

(湯 進 : みずほ銀行ビジネスソリューション部 主任研究員、中央大学兼任教員、上海工程技術大学客員教授)