アルコール度数8%以上の缶チューハイ、いわゆる「ストロング系」は依存度が高いと研究者から指摘を受けている(写真:SA555ND/PIXTA)

「英断」ではなく、事実上の「撤退」ではないだろうか――?

26日、アサヒビールが、今後発売する缶チューハイの新商品のアルコール度数を8%未満に抑える方針であることが報じられた。

ストロング系とは? その危険性とは?

アルコール度数8%以上の缶チューハイ、いわゆる「ストロング系」は350〜500mlでありながら、100〜200円程度という低価格で、ジュースのようにごくごくと飲めて、すぐに酔えることからお金のない若者だけではなく、「早く出来上がりたい」大人たちからも人気を誇る。

ただ、当たり前だが、すぐ酔えるということは、それほどの代償を伴う。よく言われていることではあるが、500ml缶のストロング系(アルコール度数9%)に含まれるアルコールの量は1本あたり約36gで、これはテキーラのショットグラス約3.75杯分に相当するという(350ml缶1缶で日本酒1合分というデータもある)。

そのため、かねてストロング系の健康被害は専門家たちによって指摘されてきた。例えば、2019年に薬物依存研究の第一人者である国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部部長、薬物依存症センターセンター長である松本俊彦氏は自身のFacebookで「ストロングZEROは『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか」と投稿している。

そのため、今回のアサヒビール(以下、アサヒ)の「健全で持続可能な飲酒文化を目指し、高アルコール商品の展開を控えることにした」(共同通信の26日配信の記事による)というコメントに対して、SNSなどでは「英断」という声も上がっている。

ただ、2年前までストロング系を毎日浴びるように飲む生活をしていた筆者からすると、どうしても同社のコメントは「負け惜しみ」にしか聞こえなかった。

というのも、渋谷や新宿に転がっているストロング系などのRTD(購入後、そのまま飲める缶チューハイなどを指す「Ready to Drink」の略)の缶を見ればわかるのだが、そこに落ちているのはサントリーの「-196℃ ストロングゼロ(以下、ストロングゼロ)」、コカ・コーラの「檸檬堂」、キリンの「氷結 ストロング」である。

今回の主題である「アサヒのストロング系」で現在、市場に出回っているのは、実はセブンイレブンとのコラボ商品であるアルコール度数9%の「クリアクーラーSTRONGレモン&ライムサワー」だけなのだ。しかも、販売経路はセブンイレブン一社に限られているため、ほとんど飲まれていないのが実態であり、かねて同社はサントリー、コカ・コーラ、キリンなど他社に後塵を拝していたわけである。


(画像:セブンプレミアム公式HPより)

そのため、今回のアサヒの表明は2020年にオリオンビールが「ストロング系の製造をやめた」ような気概はなく、むしろ「撤退」と見るのが正しいだろう。

昨年4月には「売上1.5倍」目指すと宣言していた

実際、2023年4月11日に配信された「日経クロストレンド」の「アサヒビール、RTD4商品を一挙投入 2025年までに売上1.5倍へ」という記事では、「残念ながら当社は現在、RTD事業において確固たる地位を築けていない。また、市場を席巻するような強い価値を持つブランドも持ち合わせていない」と、同社の松山一雄氏はコメントしている。

ただ、記事のタイトル通り、同社は昨年からアルコール度数7%の「アサヒ GINON」、3〜7%の「アサヒ グレフルマニア」と「アサヒ 横丁ダルマサワー」を展開している(「7%と8%未満の違いは……?」という疑問は残る)。

むしろ、同社は2021年頃からストロング系よりも、アルコール度数4%で、ぶどうやりんごの果汁が10%以上も含まれている「贅沢搾り」シリーズを「主力ブランド」に位置づけているため、今後はこうした8%未満のRTDに力を入れていくことは間違いない。

とはいえ、今回のアサヒの終売の報道を受けた世間の反応を見る限り、改めてストロング系が「危ない飲み物」として認識されていることがわかった。それにもかかわらず、いまだに人気を誇り、気軽に購入できてしまうのはなぜだろうか?

【2024年1月29日17時30分追記】一部、表現を修正しました。

そこで本稿では、いちユーザーとしてストロング系を嗜み、専門家たちに取材を重ねてきた筆者が、どのようにしてストロング系が広まっていったのかを振り返っていきたい。

調査会社インテージによると、「ハイボールを含む缶酎ハイ市場はコロナ下で拡大し、23年は5333億円だった。そのうち度数8%以上の商品は25%程度を占める。17年の40%強からは大きく減少したものの、需要は根強い」という(販売金額ベース)。

現在のストロング系の代表的な商品は冒頭でも紹介したサントリーの「ストロングゼロ」、コカ・コーラの「檸檬堂」、キリンの「氷結 ストロング」だが、アサヒもこれまで「ハイリキ9」「スパークス」「もぎたて」「ウィルキンソン・ハード」など、さまざまなストロング系を世に出してきた(2020年末時点で79品目)。

「もぎたて」シリーズは他社製品よりも甘く、これはあくまで筆者の印象だが、酒というよりも、グミを液状化させた駄菓子のような味だった(編注:あくまで筆者の主観です)。それゆえ、数あるストロング系の中でも「甘口」好きのユーザーからの人気はあったものの、競合他社には太刀打ちできず、気づけばコンビニやスーパーの陳列棚から消えてしまっていた。

ストロング系を含むRTD市場の勝ち残りというのは、それぐらい熾烈なのである。

2017年にはNHKが危険性を報じる

ところで、調査会社インテージによる「缶チューハイ市場に占める高アルコール商品の割合」が、今より4割もあった2017年というのは、NHKの『ニュースウォッチ9』で”ストロング系缶チューハイ”の危険性が報じられた年でもある。

当時、数あるストロング系の中でもサントリーの「ストロングゼロ」は一大勢力になっており、インターネット上では「ストロングゼロ文学」やいらすとやのキャラクターがストロングゼロを飲んで、あらゆる不安から逃れる画像がミーム化してしまい、ストロング系は「飲む福祉」などと話題になった。

さらに、2018年末には芥川賞作家の金原ひとみ氏が文芸誌『新潮』(新潮社)で、厳しい現実から逃れるために、アルコール度数9%の缶チューハイ「ストロング」に依存していく女性編集者を描いた短編小説『ストロングゼロ』を発表している。

ただ、ストロング系の歴史は「ストロングゼロ」から始まるわけではない。RTD市場では2001年からキリンが「氷結」シリーズを缶チューハイとしてヒットさせていた。発売当初のアルコール度数は3〜5%程度だったが、2008年に「氷結 ストロング」というアルコール度数8%の「ストロング系」のハシリとなる缶チューハイの発売を開始。

そして2009年、サントリーはアルコール度数8%の「ストロングゼロ」を発表。折しもリーマンショックとデフレの時期と重なり、同社は「1本で十分酔えること」を目指して、2014年には度数を9%に変更。ちなみに、その前年の2013年にはキリンも「氷結 ストロング」のアルコール度数を8%から9%に変えている。

80年代には8%の缶チューハイが登場していた

こうして、熾烈なストロング系の覇権争いの火蓋が切り落とされたわけだが、さらに歴史をさかのぼれば、1984年に誕生した日本初の缶チューハイである宝酒造の「タカラcanチューハイ」は発売当初から、アルコール度数は8%だった。さらに、その前年の1983年に、サントリーは「タコハイ」という最近復活した甲類焼酎を炭酸で割った代物を出しており、本商品もアルコール度数は7%だった。

つまり、RTDタイプの缶チューハイは誕生当初から、すでにストロングだったわけである。そのため、2010年代に急にアルコール度数9%の"凶悪な酒"が誕生したわけではない。

とはいえ、アルコール度数が1%上がるだけでも、飲む側の「すぐに酔える」という期待感は高められるのだろう。

そんな、消費者たちのニーズに応えようとしたのか、2018年にはサンガリアからアルコール度数12%の「SUPER STRONG」が登場。しかし、「多分エタノールってこんな味なんだろうな」(編注:あくまで筆者の主観です。エタノールは実際には入っていません)と思わせるようなアルコールの濃さと、販売経路がローソンとポプラの2社に限られていたことなどから、早々と市場から姿を消してしまった。

危険な要因は、度数より「ごくごく飲めること」

そんなストロング系特有の危なさとして、「アルコール度数が高いから悪酔いする」というものがある。しかし、度数の高い酒は日本酒やウイスキーなどいくらでもある。ただ、「危険」な原因は「ジュースのようにごくごくと飲める」ことである。

厚生労働省が定義する「生活習慣病のリスクの高い飲酒量」は男性で1日あたり純アルコール量40g以上、女性で20g以上だ。量の算出方法は「摂取量(ml)×度数/100×0.8(比重)」となっている。冒頭で説明したが、500ml缶のストロング系(アルコール度数9%)に含まれるアルコールの量は1本あたり約36gのため、女性はたった1本で危険水域に達することとなる。男性でもギリギリだ。

通常、アルコール度数の高い日本酒やウイスキーは「チビチビ」と嗜むものだが、ストロング系は「一気に飲んで現実逃避するために使われている」とされている。ウイスキーや日本酒をラッパ飲みしようとしても、ツンと鼻にくるアルコールの匂いで一気に飲むことは難しいが、ストロング系は液糖(ガムシロップ)や、アセスルファムK、スクラロースといった人工甘味料が、濃いアルコールの飲みにくさを軽減しているのだ。

ということは、500ml缶を2缶飲んでしまえば、テキーラを7杯半飲むのと同じ量のアルコールを体内に入れてしまうことになる。そんな量を飲めば確かに急性アルコール中毒に陥る可能性は十分あり、健康被害が心配されてしまうのも当然の話だ。

ただ、ストロング系最大の問題点は「安さ」であろう。例えばパブやバーでテキーラを7杯も飲もうと思えば、1杯500円くらいと考えれば3500円はかかる。それが、ストロング系であればテキーラ1杯分の値段である500円さえあれば事が足りるのだ。だからこそ、居酒屋に入る金もないような若者がこぞって飲んでしまうわけである。

最近は「トー横キッズ(歌舞伎町にある新宿東宝ビル周辺の路地裏でたむろをする若者)」がストローを刺して飲むお酒として、ストロング系もフィーチャーされている。しかし、問題点はその場の危険性や酒の度数ではなく、そのような場所にしか居場所を求められない者たちの背景に何があるのかということである。ストロング系に関しても、それらを飲まざるをえないという点に着目しなければならない。

そして、これは酒飲みである筆者の主観だが、ストロング系の台頭は純粋に「コンビニで購入できる安くておいしい酒」がストロング系しかなかったからではないかと考える。

ストロング系が流行する以前、コンビニでは「第三のビール」や「発泡酒」が缶ビールの代わりに売られていた。しかし、酒の味を知らない若者だってこれらが「ビールのまがい物」であることぐらいわかっていた。

それに、これらは度数も低いため何本も飲まないと酔えないのだが、何本も「おいしくない」酒を飲みたいわけではない。それがストロング系であれば1缶飲めばもう「出来上がる」ことができるのだ。

さらに、味もレモンやぶどう、ライム、それに甘口か辛口と種類も豊富なため、お酒にまだ慣れていない若者にも飲みやすい。そうなればビールのまがい物である、第三のビールや発泡酒に手が伸びなくなるのは当然の話だ。

つまり、国が酒税法でやたらとビール会社を締め付けた結果が、ストロング系を生み出した一因だ……と言い切るのはやや主観が過ぎるかもしれないが、とは言え筆者の主張に、部分的に納得する人も少なくないのではと思う。

毎日ストロング系を浴びるように飲んでいた筆者

こうした歴史がストロング系にはあるため、今回のアサヒの報道に関してはなんだか冷ややかな目で見てしまうのかもしれない。ストロング系の台頭は良くも悪くも世間のニーズに応えた結果であるため、それを飲料メーカー自らが否定するのは、いかがなものなのだろうか?

一方で、ストロング系の健康被害は間違いなくあるだろう。当たり前のことではあるが、「お酒は節度を守って楽しむもの」である。

そこで、1月30日配信の後編ー「ストロング系」毎日10缶飲んでた私に起きた異変ーでは、毎日ストロング系を浴びるように飲んでいた結果、筆者の体にどのような”異変”が起きたのかをご紹介したい。

(※後編記事へのリンクは、公開後に見られるようになります)


(筆者撮影)

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)