大晦日にお正月…年末年始に注意すべき疾患を知っていますか? 【医師が予防法を伝授】

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家族や親族で集まったり、大事な人と過ごしたりと、多くの人々が楽しみにしている年末年始。「ハメを外して飲みすぎた」「揚げ物やお菓子を食べ過ぎた」「夜更かししてしまった」など、いつもと違う生活習慣で過ごすことが多くなります。そんなときに起こりやすいのが、予期せぬケガや病気の発症。年末年始は、ケガや病気が起こりやすいだけでなく、病院自体が休みなど不測の事態を招く可能性もあります。そこで今回は、年末年始の過ごし方が招く疾患とその予防法について日本救急医学会救急科専門医の丸山先生に解説していただきました。

監修医師:
丸山 潤(医師)

群馬大学医学部卒業。群馬県内の高度救命救急センター救急科及び集中治療科に2022年まで所属。2022年より千葉県の総合病院にて救急総合診療科および小児科を兼務。乳児から高齢者まで幅広い患者層の診療に努める。
【保有資格】
医師/医学博士/日本救急医学会救急科専門医/日本集中治療医学会集中治療専門医/DMAT隊員/日本航空医療学会認定指導者(ドクターヘリの指導者資格)/JATECインストラクター/ICLSインストラクター

年末年始の過ごし方 暴飲暴食や夜更かしが招く疾患とは?

編集部

大晦日やお正月など、年末年始になるとついつい食べ過ぎてしまいます。毎年体重が増えると感じているのですが、体重を戻せば問題ありませんか?

丸山先生

私たちの身体は一時的な体重の増減に対して、ある程度耐えられるように出来ています。ですので、年末年始で増えた体重を健康的な生活を送ることでゆっくり戻す分には問題ありません。しかし、年末年始に急激に体重が増え、その後、ダイエットで急激に体重を減らすことは体にとって大きな負担になるので、慌てて食事を抜くなど極端なダイエットはやめましょう。

編集部

正月太りを早く解消させたいのですが、なぜ急に体重を減らすのがいけないのでしょうか?

丸山先生

まず、乱れた食事(高カロリー・高脂肪・高糖質)を続けると、脂肪の蓄積、血糖値の乱高下、消化器系の負担が増大し、糖尿病や心臓病のリスクが高まります。その後、無計画なカロリー制限や糖質制限を行うと、低血糖による頭痛・めまい、ケトン体発生による口臭・体臭の悪化、便秘を引き起こす可能性があるのです。さらに、栄養不足で筋肉量が低下し、ダイエットに成功しても、太りやすい(リバウンドしやすい)身体になってしまいます。

編集部

では、どのくらいのペースで体重を減らすのがよいでしょうか?

丸山先生

3~6ヵ月かけて体重の3%程度減量するようにしましょう。体重50kgの方なら3~6ヵ月かけて1.5kg減量することになります。無理なダイエットは行わず、健康的な食生活・運動習慣を意識して自然と適切な体重に戻るまで待ちましょう。

編集部

年末年始は食事だけでなく、寝る時間も遅くなりがちです。睡眠時間のズレによる疾病や不調はありますか?

丸山先生

夜更かしや不規則な生活習慣は、体内時計を乱してさまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。具体的には、ホルモンバランス・分泌リズムの乱れ、疲労、集中力の低下、うつ症状の発症リスクの増加などが挙げられます。たった2日間の寝不足(4時間睡眠)だけでも、食欲を抑制するホルモンであるレプチンの分泌低下、食欲を刺激するホルモンであるグレリンの分泌増加が知られています。これにより、食欲が高まり暴飲暴食につながります。 加えて、乱れた食事や深酒、喫煙で睡眠の質が下がり、悪循環となります。大晦日など、どうしても夜更かししてしまう日もあると思いますが、睡眠不足の日が続くことがないよう注意し、睡眠前の数時間は睡眠を妨げる刺激を減らすよう心がけましょう。

参照:
厚生労働省 e-ヘルスネット. 睡眠と生活習慣病との深い関係

年末年始、こんな疾患が起こりやすい よく起こるものは?

編集部

年末年始によく起こる疾病にはどんなものがありますか?

丸山先生

年末年始は宴会や祝いの席が増えるので、「急性アルコール中毒」のリスクが高まります。若い人であっても、久しぶりに友人同士で集まった場面では昏睡状態になるほど飲酒して、救急車で搬送されるケースが多々あります。「酒は飲んでも飲まれるな」と言われるように、雰囲気に酔って飲みすぎないよう注意しましょう。

編集部

外へ出かけることも増えると思いますが、外出時に気を付けることもありますか?

丸山先生

外出時は感染症に注意です。特に、冬はインフルエンザや新型コロナウイルス感染症の流行が多くなります。そして、さまざまな地域から親族が一同に会する年末年始は、一気に感染が広がるリスクがあります。自分や子どもに発熱・咳など風邪症状がある場合は、人が集まる場へ行くのを控えるのが無難です。

編集部

暴飲暴食や夜更かし以外にも注意すべきことはありますか?

丸山先生

年末年始だけでなく、冬は室内での暖房器具の使用が増加します。特に石油ストーブ使用時に窓を閉め切って換気を怠ると、無色透明で無臭の一酸化炭素が室内に充満し、「一酸化炭素中毒」を引き起こすことがあります。一酸化炭素中毒の症状は頭痛、めまい、嘔気から始まり、重症の場合は意識を失って呼吸が止まってしまいます。そして、後遺症で認知症のようになってしまう症例も報告されています。

編集部

「一酸化炭素中毒」にならないための解決策はありますか?

丸山先生

外気が入ると寒くなるため不快かもしれませんが、囲炉裏や石油ストーブを使用する際は十分な換気を徹底しましょう。万が一体調不良を自覚した場合は、すぐに外で新鮮な空気を吸って病院を受診してください。一酸化炭素の血中濃度測定が必要になるので、総合病院の救急外来(救急科)への受診をおすすめします。

編集部

そのほか、なにか気を付けることはありますか?

丸山先生

年末年始は毎年大掃除をされる方もいらっしゃいます。いつも掃除しない部分を不自然な姿勢で掃除したり、重い荷物を片付けたりすると、ぎっくり腰を引き起こす可能性があります。反対に、重いと思い込んでいた物が意外と軽かった時にも、ぎっくり腰になる可能性があります。ぎっくり腰の予防としては、正しい姿勢で荷物を持つことを心がけましょう。膝をしっかり曲げて腰を落とすようにしゃがみ、荷物を体に密着させて持ち、立ち上がってください。ぎっくり腰になってしまった場合は、絶対安静です。湿布を貼り、痛み止めを飲んでゆっくり療養しましょう。

編集部

ご高齢の方が気を付けるべき疾患はありますか?

丸山先生

お正月といえば“お餅”ですが、お餅は柔らかく粘り気があるため、喉に大変詰まりやすい食材です。餅が喉に詰まって気道が完全に塞がり、窒息で救急搬送されるケースが、年末年始になると非常に多くなります。 高齢のご家族や小さなお子さんにお餅を食べさせる際は、粘り気が弱く喉に詰まりにくいお餅を選ぶ、噛み切れるよう一口サイズにしたものを準備するといった対策が大切です。

編集部

ほかに高齢者の方が気を付けることはありますか?

丸山先生

冬の時期はヒートショックのリスクも増えます。ヒートショックとは、急激な温度差によって血圧が大きく変動し、心臓や血管に負担がかかる現象のことをいいます。高齢者は、循環器系や自律神経系の機能低下により、血圧や心拍数の変動に適切に対応することができないため、ヒートショックを起こしやすい傾向があります。ヒートショックの症状は、軽度であればめまいや立ちくらみ程度で少し休むと回復しますが、重度になると心筋梗塞や脳卒中、溺水など、命にかかわる病気を発症します。

編集部

どうすればヒートショックを予防できますか?

丸山先生

ヒートショックを起こしやすい場面は入浴時です。入浴時のヒートショック対策としては、入浴前に脱衣所や浴室を暖める、湯温を41度以下にする、入浴時間を10分程度に制限することが推奨されます。また、浴槽からの立ち上がりは急な動作を避けるよう心掛け、食後や飲酒後、医薬品の服用後の入浴も避けましょう。そして、入浴の際は家族や同居者に声をかけておくことで、何かあった際の安全対策となります。

医師が教える 年末年始も健康に過ごすために意識したいこと

編集部

年末年始に発病しないように注意すべきことを教えてください。

丸山先生

年末年始は楽しい時間を過ごす一方で、乱れた食生活や飲酒、変わった生活リズムが体に負担をかけることが多いです。健康を保つためには、早食いを避けて食事をゆっくり噛み、胃腸の負担を減らすことが大切です。また、飲酒の際は適量を心掛け、過度な摂取は控えましょう。そして暖房が効いた室内では乾燥しやすいため、こまめに水を飲んで乾燥を予防してください。それから、屋内と屋外の寒暖差に注意して、冷えから体調を崩さないよう対策を取りましょう。

編集部

初詣など外出時の感染対策を詳しく教えてください。

丸山先生

外出時には不織布マスクを着用し、人混みや密閉された場所は避けるようにしましょう。そして、外出後の手洗いうがいを徹底することがとても大切です。手指の衛生を保つためにアルコール消毒薬をミニボトルに詰めて持参することも検討してみてください。また、冷たい外気で喉が乾燥しやすいので、トローチや飴を利用して保湿を心掛けることもおすすめです。何か違和感や体調不良を感じた場合は、早めに医療機関を受診するようにしましょう。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

丸山先生

年末年始は家族や友人との貴重な時間を過ごすものです。楽しいひとときを健康に過ごすためにも、上記の対策を心掛けることをおすすめします。みなさまの健康と安全を心より願っております。良い新年をお迎えください。

参考文献:

・一般社団法人 日本肥満学会. 肥満症診療ガイドライン2022.
http://www.jasso.or.jp/contents/magazine/journal.html

・厚生労働省 e-ヘルスネット. 睡眠と生活習慣病との深い関係.
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-008.html

・あしたの暮らしをわかりやすく 政府広報オンライン. 餅による窒息に要注意!喉に詰まったときの応急手当は?
https://www.gov-online.go.jp/useful/article/202212/2.html

・消費者庁. 冬季に多発する高齢者の入浴中の事故に御注意ください! -自宅の浴槽内での不慮の溺水事故が増えています-.
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_safety/caution/caution_042/

編集部まとめ

家族や友人、大切な人と過ごす年末年始こそ、病気や不調にならないように気を付けたいですよね。でも、いつもと違う食事や生活習慣になりがちで、不調に悩む人も一定数います。新年を気持ちよく迎えるためにも、今回お話いただいたポイントを意識して、今年の年末を過ごしてみてください。

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