(写真:yu_photo/PIXTA)

「数学なんて将来役に立たないし」と、学生の頃テスト前にぼやいていた人は多いでしょう。しかし実は、「世の中のほとんどのことは統計と確率で読み解ける」としたらどうでしょう? 小学生の算数教室などの出前授業を実施し、中高生に実用的な数字・数学を伝えている佐々木淳さんの書籍『“1 ミリも難しくない”統計学 スマホゲームのガチャでSSRを引く確率は?』より一部抜粋・再構成してお届けします。

ギャンブルの「ツキ」とは何か?

今日はツイている。今日はツイていない。ギャンブルをして勝ち続けているときは、「運がよかった・ツキがあった」と感じます。反対に、負けが続くと「運が悪かった・ツキに見放された」と思います。このようなツキの正体とは、一体何なのでしょうか?

例えば、コインを1000回投げれば10回連続で表や裏が出ることは一度くらいあるかもしれません。コイン投げで10回連続で表や裏が出るように、偏った・バラついた場合も含めて、平均すると500回近くは表が出て、500回近くは裏が出ることになります(つまり、表・裏の出る確率は1/2)。この現象を大数の法則と言います。大数とは大きな数のことで、コインを投げたり、サイコロを振ったりするなどの試行回数を増やせば増やすほど、私たちが予想する数値に近づいていくのです。

コイン投げのシミュレーションをした結果を見ると、投げた回数が少ないとき、例えばコインを投げた回数が10回のときは、表の割合が0.3、裏の割合が0.7のようにバラつくこともあります。しかし、10回から100回、100回から500回、500回から1000回とコインを投げ続けると、表・裏の出る確率は0.5(1/2)に近づいていくのです。


(出所)『“1 ミリも難しくない”統計学スマホゲームのガチャでSSRを引く確率は?』

世にあるギャンブルの運営者は、実はこの大数の法則による結果を活用して、ギャンブルを長くやればやるほど運営側が儲かるように、入場料や使用料を設定しています。

しかし、このコイン投げのシミュレーションの結果通り、意外とバラついて連続で表や裏が出ることもあります。同じギャンブルを長時間継続してやらない場合、このコイン投げの例のように、結果がバラつくこともあります。つまり一部だけ見れば、大きく勝つことも大きく負けることもあるということです。

結果がバラついて、大きく勝った現象にフォーカスしたのが「ツキ」の正体なのかもしれません。

ギャンブルの損得を判断する「還元率」と「控除率」

ギャンブルにおいて、「みんなはどのくらい儲けているのか」が気になるものです。もちろん個人での損得は個人に聞かないとわかりませんが、ギャンブルに参加した人のトータルの損得を測る指標はあります。「期待値」「還元率」「控除率」です。

期待値とは平均のことです。裏表が公平に出るコインを10回投げた場合を考えてみましょう。表・裏が出る確率は1/2なので、「大体表が平均5回出て、裏が平均5回出るかな?」と予想すると思いますが、この値が期待値です。

宝くじのように、賞金額とその賞金が当たる確率(賞金の本数)がわかっているものは、具体的にこの式に当てはめて期待値を計算できます。

期待値=当せん金×当せんする確率

ギャンブルにおいて還元率とは、賭け金に対して手元に戻ってくる払戻金の平均の割合を言います。期待値がわかれば、還元率を求めることができます。また、プレイヤーの賭け金の総額とプレイヤーの手元に戻ってくる払戻金の総額の割合を計算することで、還元率を求めることもできます。

宝くじの還元率は?

宝くじであれば、「当せん金の合計金額÷売上の合計金額」で計算することができます。 例えば、1万円賭けて平均7500円返金されたのであれば、7500÷10000=0.75、つまり還元率は75%となります。

還元率の反対の意味を持つ用語が控除率で、先ほどの例では1万円賭けて平均2500円返金された場合、控除率は25%となります。この控除率は、胴元と呼ばれるギャンブルの主催者、ギャンブルの運営側に渡る割合です。

なお2022年度の宝くじの還元率は、宝くじ公式サイトによると、販売実績額8133億円で当せん金の合計金額が3758億円なので、3758÷8133=0.462。つまり46.2%です。還元率が高いほど、より多くのリターンを得ることができます。


(出所)『“1 ミリも難しくない”統計学スマホゲームのガチャでSSRを引く確率は?』

ただし、同じくじでも、ナンバーズ、ロト6、スポーツくじのtotoなどは宝くじと異なります。同じ番号に複数の人が賭けられるため、1等賞が1人とは限らず、複数人出る場合があるのです。そのため、還元率が設定されていて、還元率を基に払戻金が分配されます。

例えば、スポーツくじのtotoなどの払戻金の総額は、法律によって売上総額の50%と決められているので、売上総額が1000億円(令和2年度は1017億円)の場合は、購入者への払戻金の合計は500億円となります。予想が的中したときに、払戻金の合計額(先ほどの場合は500億円)から、オッズ(払戻倍率)によってどのくらいの金額が購入者に払戻しされるのかを算出していきます。

還元率と控除率を合わせると100%となりますが、変換される金額は常にきれいな整数値で計算されるわけではありません。つまり、還元される金額には端数があるのですが、この端数も胴元に渡ります。1人1人の控除の端数は小さいものですが、チリも積もれば山となります。

他にも、宝くじやスポーツくじは換金されない未換金のくじが多々存在しています。これらの未換金の額も、チリも積もれば山で相当な額となっています(宝くじの場合、令和3年度に確定した未換金の総額(時効当選金)は112億円です)。

ただし、公営ギャンブルも宝くじなども公益が目的ですから、胴元に返還されるといっても、それらの金額は公共の目的に使用されます。公営ギャンブルや宝くじについては、次で詳しく説明します。

お得なギャンブルの還元率と潜むトラップ

ギャンブルをするなら、楽しむだけではなく儲けたいと思うのが心情でしょう。そこで気になるのが、還元率です。 ギャンブルの還元率は、それぞれのギャンブルによって違います。例えば、宝くじとカジノのルーレットでは還元率が2倍ほども違うのです。ここでは、この還元率に隠されたトラップについて解説します。

と、その前に、そもそも日本ではギャンブルが禁止のはずです。では、なぜできるのでしょうか? 日本には公営ギャンブルや富くじという、事業主体が省庁や地方公共団体で、控除された額を公益として利用することを目的にしたギャンブル・エンターテインメントがあります。省庁などが監督し、収益金を表のとおり公の事業目的のために利用するため、例外的に認められているのです。


(出所)『“1 ミリも難しくない”統計学スマホゲームのガチャでSSRを引く確率は?』

しかし裏を返せば、そうした公的な目的があるため還元率は低くなります。還元率が最も低い宝くじは、購入者に還元される賞金や運営に必要となる経費を除いた40%弱が、都道府県の公共事業などに還元されています。宝くじで夢を買うなどと言われますが、購入者に還元されないだけで、他の誰かの夢に還元されているのかもしれないのです。

反対に、カジノのルーレット、パチンコなどの民営のギャンブルは、公共事業に還元するわけではなく、プレイヤーに還元している分、還元率が高いです。つまり、公営と民営では民営のほうが還元率は高いということです。

また、プレイヤーの意思決定の幅が広いものほど還元率が高く、意思決定の幅が狭いものは還元率が低くなります。

「還元率が高い」という名のトラップ

宝くじやスポーツくじは還元率が低いのですが、低いなりのメリットはないのでしょうか? 実は、還元率が低くてもメリットはあります。正確には、宝くじやスポーツくじより還元率が高いほかのギャンブルには、隠れたデメリットがあるのです。それは税金で、目に見えないステルス・デメリットと考えられます。

例えば、競馬やオートレースなどの公営ギャンブルは、所得税法34条で一時所得とされているため、所得税の課税対象となります。そのため、公営ギャンブルで高額当せんした場合、還元率に税金を考慮すると、宝くじ・スポーツくじとそれほど変わらない分の悪いギャンブルになります。

場合によっては還元率が100%を超えるブラックジャックでさえ、税金を考慮すれば、還元率は100%を下回ってしまうのです。宝くじやスポーツくじは還元率が低く、その還元率の低さから厳しいことをおっしゃる方もいますが、宝くじ・スポーツくじはいずれも税金がかかりません。当せん金が7億円であっても、税金がかからないのです。

ロト6は、1から43の数字から6つの数字を予想するくじです。1枚200円で、キャリーオーバー(前回の払い戻しがない場合)を含めると、当せん金額の最高額はなんと4億円と、夢が膨らむ賞金額です。とはいえもちろん、宝くじと同様にほとんど当たりません。6つの数字とボーナス数字一つの計7つの数字のうち6つが的中したとき、つまり2等賞で当せんしたときの賞金は、理論上約1500万円となります。また、1から31の数字から3つの数字を選ぶミニロトもあります。

ナンバーズには2種類あり、「ナンバーズ3」は3桁の数字、「ナンバーズ4」は4桁の数字を予想します。また、選んだ数字とその並ぶ順番が的中しないと、払い戻しのない(つまり外れの)「ストレート」。数字の組み合わせが当たっていれば、順番が異なっていても払い戻しになる買い方の「ボックス」があります。 ボックスとストレートでは、ストレートのほうが当せん確率は低いため、賞金も高くなります。

他の人とかぶらない数字とは?


ナンバーズ3のストレートを例に見ていきましょう。ナンバーズ3で当せん者に払い戻される金額は、その回の売上額と当せん的中の枚数によって決まります。売上額を的中した人の数で割り算して求められた金額が、ストレート的中の賞金額となるわけです。

つまり、的中する枚数が多ければ多いほど賞金額は減り、的中する枚数が少なければ少ないほど賞金額は増えるシステムです。的中枚数が少ないほうが有利になるわけなので、他の人と違う数字で賭けたほうが賞金は高くなりそうですが、そんなことができるでしょうか?

私たちは、普段ランダムな3桁の数字を考える機会はあまりないので、ついつい好きな3桁の数字を選んでしまいます。例えば私は、4月29日生まれなので429という3桁の数字を意識せず何となく使ってしまいますし、ギャンブルのときならば、ラッキーセブンの777は縁起がよさそうなのでついつい選んでしまいがちです。

つまり、必然的に誕生日やギャンブルの当日、ゴロがいい数字、ゾロ目の数字などは多くの人が選びそうな数字になるということ。予想する人が多くなり、結果賞金額は低くなる可能性があります。そのため、みんなが買いそうな数字を選ばない、逆張りをしてみんなが選びそうにない数字、ゴロの悪い数字を選んで買う方法も、戦略の一つとして留めておくのもよいかもしれません。

ちなみに、「ランダムな数字が思いつかない」という人は、「ランダムな4桁の数字を出すガチャ」や「ランダム3桁数字ジェネレータ」などのWebページを活用する手もあります。また、生成系AIであるChatGTPやBingAIを活用する方法も考えられますね。

(佐々木淳 : 下関市立大学教養教職機構准教授)