【スラムダンク】三井がグレた怪我の正体は? 不良に必要だったリハビリを解説

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2023年8月31日をもって9ヶ月のロングラン劇場上映が終了を迎えた『THE FIRST SLAM DUNK』。同映画や漫画、アニメ『SLAM DUNK』(スラムダンク)の中で神奈川県屈指のシューターとして描かれている湘北高校の三井寿は、高校1年生のときに膝の怪我に見舞われ、一度は引退し、不良の道を歩むことになりました。その発端となった膝の怪我について、Medical DOC編集部が、整形外科医の告野英利先生に話を聞きました。時間が限られた学生時代に長期離脱を伴う怪我との向き合い方、周囲のサポートの大切さとは?

※本記事は一部ネタバレを含みます。ここで述べる疾患名などは、SLAM DUNKにおける描写を基に医師が見解を述べているだけであり、作中における事実ではありません。

三井寿を一度引退に追いやった膝の怪我の正体

編集部

三井寿が高校1年生の時に負った膝の怪我は何だと思いますか?

告野先生

作中の描写では、練習中に赤木(剛憲)のマークを振り切ろうとした瞬間、三井は突然の膝の痛みで動けなくなります。急な方向転換をキッカケに膝に過度なストレスがかかり、前十字靱帯を損傷したものだと思われます。その後一旦痛みは改善し、治ったかのように見えたものの、病院を抜け出して前十字靱帯損傷が残った状態でプレーに復帰したことで、膝関節の不安定性が誘引となり、半月板損傷からのロッキング(激痛により膝が動かなくなってしまう現象)に至ってしまったのではないかと考えます(はじめの入院がそもそも手術のための入院であれば、術後早期に勝手に動いたことによる再受傷という可能性も考えられます)。

編集部

まず、前十字靱帯損傷とはどのような怪我になりますか?

告野先生

前十字靱帯損傷はスポーツによる膝外傷の中でも頻度が高く、バスケットボールやサッカー、スキーなどでのジャンプの着地や急な方向転換、急停止時に発生することが多いとされています(非接触損傷)。受傷時は激しい痛みやブツッという断裂音(ポップ音)を伴うことがあります。また、靭帯からの出血により関節内に血液がたまり、関節の腫れが生じ、強い痛みが出現します。損傷による出血が少ない場合には、痛みや腫れが少ないこともあります。受傷後は徐々に症状が改善し、数週間で歩けるようになりますが、膝の不安定感や膝が抜けるような感じ(膝くずれ)が生じることもあります。

編集部

半月板損傷はどのような怪我になりますか?

告野先生

半月板損傷は、体重が加わった状態でのひねりや衝撃によって、半月板だけが損傷するものと、前十字靱帯損傷などに合併して起こるものがあります。運動時痛や膝を曲げ伸ばしした際の引っ掛かり感といった症状が出現します。また、前十字靱帯単独損傷の後遺症で膝に緩みが生じ、それが誘因となって半月板を損傷するケースも多く見られます。半月板の断裂部位が大きく、関節内に半月板の一部がはまり込んでしまうと、膝がある角度から伸ばせない状態(ロッキング)となり、激痛及び可動域制限が起こり、歩行ができなくなる場合もあります。

編集部

怪我を負った後の三井寿にはどのような治療の選択肢がありましたか? 手術は必要でしたか?

告野先生

前十字靭帯は血流が乏しく、一度切れてしまうと自然治癒の可能性はほぼありません。中高齢者には保存治療(疼痛に応じてリハビリテーションを行う)が選択されることもありますが、保存治療では前十字靭帯の機能回復は期待できないため、特にスポーツに復帰したい方には手術が勧められます。したがって、その後復帰を果たした三井のケースでも手術が選ばれていると思います。

編集部

どのような手術になるのでしょうか?

告野先生

手術は前十字靱帯再建術と呼ばれ、自分の体のある一部の腱(太ももの裏の腱や膝のお皿の下の腱を用います)を使って、本来の前十字靭帯の付着部に膝の下の骨である脛骨と上の骨である大腿骨から骨にトンネルを掘り、そのトンネルの中に、採取した腱を束にして通し、ピンと張った状態で両側を金属などに固定します。関節鏡という細いカメラと細い手術器具を用いた、小さい傷で行う低侵襲な手術になります。

編集部

半月板損傷はどのような治療になりますか?

告野先生

半月板損傷もあったとするならば、そちらに対する治療も同時に行われた可能性があり、損傷形態に応じて、損傷した部分を切り取る切除術と、損傷した部分を縫い合わせる縫合術の2種類が使い分けられます。こちらも通常関節鏡を使って行います。

三井寿が復帰するまでに必要なリハビリテーション

編集部

三井寿の復帰において、リハビリテーションは重要になりますか?

告野先生

術後のリハビリテーションは非常に大切です。ここでは三井が復帰後にあれだけ活躍していることから、手術を受けていると考えられそうなので、その前提で話させていただきます。術後のリハビリの役割は、再建靱帯を保護しながら、可動域を獲得し、脚の筋力をつけて、再受傷予防へとつなげるというものです。不十分なリハビリは、筋力低下や筋力のバランスが悪くなってしまったり、可動域制限が残ったりします。また、何より再受傷のリスクとなります。

編集部

リハビリテーションのプロセスや取り組む内容について教えてください。

告野先生

リハビリテーションのプログラムは、医療機関や手術中の所見(損傷の大きさや手術部位の強度)によって多少異なることもあるため、一般的なものをお話します。まず、術後数日より膝の曲げ伸ばし訓練を始めます。はじめは痛みがあるため、自分で動かすのではなく、機械やトレーナーに動かしてもらうところからとなります。動かせるようになってきたら、自分でも動かす訓練をします。また、その時期は免荷と言って、脚に体重をかけないように松葉杖などで、荷重を逃すことが必要です。2~3週間かけて徐々に体重をかけていき、3週間程度で正常な歩行機能の獲得を目指します。(半月板縫合術を行っている場合は、屈伸動作や過度な力が加わることで再断裂のリスクが高まるため、免荷や可動域制限の期間が少し長くなることがあります)

編集部

その後はどのようなことを行うのでしょうか?

告野先生

それが終わったら、今度はより積極的なリハビリへと移り、可動域を広げたり、膝周りの筋力の増強などに努めたりします。術後3ヶ月程度でジョギングができるようになれば順調です。そこから少しずつ運動強度を上げていき、術後6ヶ月ごろにはスポーツごとの種目別運動を復帰に向けて行っていきます。順調に行けば、術後8~9ヶ月で様子を見つつ、スポーツ復帰となります。

編集部

復帰には時間を要するのですね。

告野先生

はい。非常に時間がかかるため、青少年アスリートなどにとっては、特にもどかしい気持ちとなる期間でしょう。しかし、正しく競技復帰し、再受傷などを予防するためには、大変重要なプロセスなのです。三井の場合、時系列はわかりませんが、もしかしたら不良をしながらも真面目にリハビリを行っていたのかもしれません。

編集部まとめ

あくまでフィクションについての想像の話ですが、人気作品を通したことで前十字靭帯損傷についてイメージがしやすかったのではないでしょうか。どんな怪我だったのか、どのようなリハビリテーションが必要だったのか、などを想像することでスラムダンクという作品をより堪能することができるかもしれません。また、三井が非行に走しらせないために、医療従事者や周囲の人間にできることについても別記事で解説していますので、ぜひそちらもご覧ください。

引用:井上雄彦『SLAMDUNK』新装再編版(集英社)

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