そのNレンジの使い方、間違っているかも?

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今や日本の路上を走るクルマの約9割が、オートマチック(AT)車となっています。クラッチ操作やギアチェンジがいらないAT車は、ストップ&ゴーが多い日本の道路環境においては非常に快適だと言えます。

しかし、操作がイージーゆえにメカニズムを誤解している人も少なくありません。そのひとつが「N(ニュートラル)」レンジの使い方です。

マニュアルトランスミッション(MT)車のH形シフトゲートの場合は、上下に配置された各ギアポジションの中立位置がニュートラルになります。しかしAT車の場合は、Dレンジの上にNレンジが設けられています。

停車するたび「N」に入れるのはOK?NG?

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誤った使い方の代表例として、信号などで停車した際に、セレクターレバーをNレンジに入れる人をときどき見かけます。しかし、これにはデメリットしかありません。

まず、Nレンジに入れることでアイドリング回転数が若干上がるため、燃費が悪くなります。

加えて、D↔Nの往き来を繰り返すため、トランスミッション系に少なからずダメージを与えてしまいます。さらに、誤発進などのミスに繋がると指摘する人もいます。

MT車で停止した場合、ミッションをニュートラルに入れますが、これは多くの場合、クラッチペダルを踏み続ける煩わしさから解放されるのが目的です。

一方、AT車にNレンジがあるのは、車両にトラブルが発生して自走できなくなった時に一時的に移動させるため。あくまでも、エマジェンシー用として考えられています。

下り坂で「N」に入れるのはOK?NG?

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誤った使い方としてもうひとつ挙げられるのは、下り坂でNレンジに入れる行為です。

筆者も若かりし頃、ガソリンを節約するため、下り坂でNレンジに入れて走行をしたことが何度かありました。おそらく同じことをしている人がいるのではないでしょうか。しかし、これもデメリットが多い行為です。

まず下り坂の場合、ATはDレンジに入っていることで、初めてエンジンブレーキが利きます。Nレンジで“空走”状態で走ると、ブレーキへの負担が大きくなり、「べーパーロック現象」や「フェード現象」を発生しやすくさせ、非常に危険です。

また、走行中にNレンジに入れるとミッション系の回転ロスからは解放されますが、アウトプットシャフトは動き続けます。この時、ギアが回転していないことで、アウトプットシャフトに十分な油圧がかからない(油量が十分でない)状態となり、パワートレーン系トラブルに繋がることも考えられるのです。

実はNレンジに入れても燃費は良くならない!

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誤解をしている人もいるようですが、走行中にNレンジに入れたからといって、決して燃費は向上しません。

最近のクルマは、基本的に作動のほとんどをECU(クルマのコンピュータ)が制御しています。

例えば、下り坂で余計な動力を必要としないとECUが判断した場合、エンジンに供給される燃料は抑え気味になります。しかしNレンジに入れると、ECUが正確な走行状態を判断しくくなり、燃費や安全の面でかえってマイナスになります。

もちろん、インプットシャフトとアウトプットシャフトの回転に大きな差が出た状態でいきなりトルクコンバーターのクラッチをつなぐわけですからため、ミッションへのダメージもあります。

つまり、AT車の場合は、エンジンを始動してDレンジに入れたら、後退や駐車する時以外は他のレンジをセレクトすることは不要なのです。坂道発進でクリープによる前進、もしくは空走による後退を止めたい場合は、最近のクルマのほとんどに装備されているブレーキホールド機能を活用しましょう。

また、駐車時はNレンジ+パーキングブレーキではなく、必ずPレンジに入れて駐めましょう。急な坂道では、サイドブレーキよりも制動力が強く、安全です。

またセレクターレバーはNレンジからDレンジに簡単に動くため、誤発進の要因となって危険です。ちなみに降雪地帯や寒冷時ではサイドブレーキの凍結トラブルを防止するため、Pレンジのみというのが基本です。

今回は、AT車のNレンジについて進めてきましたが、昨今のHVなどではNレンジを多用すると走行用電池に充電されないという事象も起こるようです。車両の取り扱い説明書をよく確認し、思い込みでは操作が必要です。