北海道女子大生死体遺棄で「頼まれて殺害」と50代男性…殺人より罪の軽い「嘱託殺人」になるか?
女子大学生(22=小樽市)の遺体を札幌市の自室に放置したとして、男性(53)が死体遺棄の罪で逮捕・送検された事件は、男性のものとみられるツイッターアカウントに、事件への関与をほのめかす投稿も見つかり、2人のつながりや経緯について捜査がすすめられている。
10月3日に外出した女性は行方不明となったのち、8日午後に男性のアパートで遺体として発見された。死因は頸部圧迫による窒息死で、亡くなったのは4日ごろとみられている。
そんな中、共同通信(10月13日配信)によると、男性は「女性から依頼されて首を絞めて殺害した」と供述していることがわかったという。
このように「依頼されて殺害」した場合、嘱託殺人は成立するのだろうか。本間久雄弁護士に聞いた。
●今後検討されていく被害者の「真意」とは
--どのような場合に嘱託殺人罪が認められるのでしょうか。
刑法202条は「人を教唆し若しくは幇助して自殺させ、又は人をその嘱託を受け若しくはその承諾を得て殺した者は、6月以上7年以下の懲役又は禁錮に処する」と規定しています。
殺人罪(刑法199条)の法定刑(死刑又は無期若しくは5年以上の懲役」より軽いのは、生命は絶対的価値を有しており、生命を絶つことについてたとえ本人の同意があったとしても、本人の生命を絶った者に対して刑罰を科す必要があるものの、本人の同意があることによって、違法性の程度が減少するためです。
本人の同意(嘱託)の有無は、まさしく、殺人罪と嘱託殺人罪を分かつ分水嶺であると言えます。
--本人の同意があったか否かは、どのように認定されるのでしょうか。
この点、金沢地裁平成15年6月25日判決は、刑法202条の承諾の意義について、「承諾殺人罪における『承諾』は、必ずしも明示的になされることを要せず、黙示的になされてもよいが、殺害行為時に存在することを要し、かつ、被害者の真意に基づいてなされたもの、すなわち、死亡することの意味を熟慮の上、自由な意思により殺害を受容するものでなければならず、事理弁識能力を有する被害者自身が表明したものでなければならないと解される」と判示しています。
今回の事件で問題となっている嘱託についても、同様に解され、被害者の真意に基づいたものであるか否かが吟味されることになります。
たとえば、男性と被害者とのメールやSNSのやり取り、被害者の日頃の言動(死にたい動機があったか否か)、殺害方法等を総合的に踏まえて決められることになります。
そのうえで、殺人の嘱託があったと検察官が認定すれば、男性は嘱託殺人罪で起訴され、嘱託がなかったと認定すれば、男性は殺人罪で起訴されることになるでしょう。
【取材協力弁護士】
本間 久雄(ほんま・ひさお)弁護士
平成20年弁護士登録。東京大学法学部卒業・慶應義塾大学法科大学院卒業。宗教法人及び僧侶・寺族関係者に関する事件を多数取り扱う。著書に「弁護士実務に効く 判例にみる宗教法人の法律問題」(第一法規)などがある。
事務所名:横浜関内法律事務所
事務所URL:http://jiinhoumu.com/