免税のままの「個人タクシー」は行灯の形を変更 「インボイス対応」を組合に聞く
2023年10月のインボイス制度スタートまで1年を切った。これまで消費税をおさめていなかった個人事業主などは、課税事業者に移行して税金をおさめるか、免税事業者のままでいるのか選択を迫られることになる。
この制度をめぐっては、個人タクシーへの影響が多いと言われている。個人タクシーの運転手が加盟する東京都個人タクシー協同組合の水野智文副理事長にインボイス対応について聞いた。(ライター・国分瑠衣子)
●スタート時には「インボイス対応しています」の広告も検討
――インボイス制度のスタートで、個人タクシー業界はインボイス領収書を発行できない事業者が出るなど影響が大きいと言われていますが、実際はどうなのでしょうか。
個人タクシー運転手の99%は免税事業者です。売り上げは個人によって違いますが、コロナ禍前で個人タクシー事業者の平均年収は660万円ほど。インボイス制度で課税事業者に転換しなければインボイス対応の領収書を出せないため取り引きから排除される恐れがあります。このため組合員全員の登録を目指しています。10月上旬現在で9割超の組合員が課税事業者になりました。
――個人タクシー事業者は全国にどのぐらいいるのですか。
個人タクシーは私たち「全個連(でんでん虫グループ)」と、「日個連(ちょうちんグループ)」という2つの大きな組織があります。組合員は計約2万5700人で、全国の個人タクシー事業者の95%を占めています。この2つの団体の組合員全員がインボイス発行事業者になることを目指しています。
組合では免税事業者の道を選んだ組合員には、タクシーの行灯を変えて見た目を変えることを決めましたが、少数ですが組合に加入していない事業者もいます。全員の統一を図ることは難しい。車体に「インボイスには対応していません」とステッカーを貼ったり、乗車の際に対応していないことを伝えるなど業界全体での工夫が必要です。
YouTubeやインターネット上では「個人タクシーは乗ってはダメ」などの発信を見掛けますが事実と異なります。2023年10月のインボイス制度が始まる直前には、組合として「個人タクシーはインボイス対応をしています」などの広告を出すことも検討しています。
●年間30万円程度の負担増につながる可能性
――インボイス制度が始まると組合員はどのぐらい税負担が生じるのでしょうか。また事務負担は増えませんか。
ドライバーによって異なりますが、コロナ禍前の課税売上高で見ると年間30万円ほど納める人が多いです。メーターを取り換えるなどの必要はなく、組合員の負担はほぼありません。一方、本部では会計処理やタクシーチケットのやり取りの書類の変更といった事務負担が増えます。各支部の担当者に集まってもらい研修会を複数回開いています。
――制度について国に訴えたいことはありますか。
これまで国には制度延期を求めてきましたが、財務省の回答はいつも「法律で決められたことを粛々とやっているだけ」です。免税事業者という道を残したことで、個人タクシーの運転手の中に課税事業者と免税事業者が混在することになり、業界が衰退するのではないかと懸念しています。いっそのこと免税事業者を廃止するという道もあったのではと思います。