ハウル氏のヤバさを覆い隠した「集団圧力」 古株・トー横キッズが語る実情
「集団圧力があって声を上げられなかったけど、多くの被害を知っています」
東京・新宿で炊き出しや清掃活動などをしてきたボランティア団体「歌舞伎町卍會」(解散決定)。そのリーダー、ハウル・カラシニコフ氏が7月13日、東京都青少年健全育成条例違反の疑いで起訴された。
ハウル氏は、行き場のない「トー横キッズ」たちに食べ物を配ったり、相談に乗っていた。しかし、取材に応じた古参キッズは、当時メディアに伏せられていた「裏の顔」を明かす。(ジャーナリスト・富岡悠希)
●「ハウル氏の不穏な噂を聞いていた」
「警察沙汰になったのは、なるべくしてなったという感想です。富岡さんには申し訳ないのですが、ハウル氏の不穏な噂はずっと聞いていましたから」
都内ファストフード店で向き合った古参キッズのヤス君(仮名)は、こう語るとバツが悪そうな表情を浮かべた。
新宿東宝ビルの横(通称:トー横)にあつまっていたトー横キッズたちは現在、近くの「歌舞伎町シネシティ広場」(通称:広場)にたむろしている。
ヤス君はそれ以前、キッズたちがトー横の路上に集い始めたころから、顔を出している。ヤス君とは昨夏に知り合い、定期的にツイッターのDMでやり取りし、時に対面で会ってきた。
筆者は今年1月、広場でハウル氏に取材して、弁護士ドットコムニュースに記事(https://www.bengo4.com/c_18/n_14026/)を出した。その前にヤス君とDMをしたが、彼が「不穏な噂」を口にすることはなかった。そのことを気にしたのだ。
●ハウル氏はメディアに好意的に取り上げられていた
ヤス君は、ハウル氏が広場に来るようになった昨春、早々に会っている。筆者は取材時、ハウル氏が気さくにトー横キッズたちに、おにぎりを渡して、話しかけている様子を目撃した。
しかし、ヤス君によると、ハウル氏は「女の子へのアプローチが凄すぎ、引くほどだった」という。
具体的には、ヤス君が当時仲が良かった女性にちょっかいを出してきた。また、ヤス君の友だちの男女が付き合い始めようとしているのに、その女性を熱心に口説いた。断られると、「ぶっ殺す」などと相手の男性にキレていたという。
未成年の女性も含め、「結婚しよう!」「嫁になれ」などと言っていたことも記憶している。
こうした言動に加え、しばらくすると「家に強引に連れ込まれた」などの被害の声も、複数人から届くようになった。
こうして、ヤス君はハウル氏の「やばい実態」を察知して、距離を置くようになる。
他方、メディアは盛んにハウル氏を取り上げた。新聞、雑誌、ネットメディアにとどまらない。今年2月にはNHKの看板番組『クローズアップ現代+』にも登場。トー横キッズに寄り添う、心優しい「兄貴」として描かれた。
筆者も含めた多くの取材者が、ハウル氏の裏の顔に気付けなかった。あるいは手玉に取られた。後の祭りにはなるが、改めてハウル氏への取材を振り返ると違和感を抱いた点はあった。
●過去を話すことを極力避けようとした
自戒を込めつつ記すと、取材時、ハウル氏は自分の過去を話すことを極力避けようとした。
たとえば、「なぜ、歌舞伎町でボランティアをするのか?」は、ぜひ読者に伝えたいポイントだ。そのためには、これまでのいきさつを知りたいのだが、ハウル氏は「過去を全部明かすつもりはない」と言う。
また、取材を途中で何度も打ち切ろうとした。しっかりした原稿にするためには、1時間ぐらいはかかる。そのため、きちんとアポイントを取って待ち合わせた。その後、予定がないことも確認した。
ところが、始まって15分もすると、「もういいですかね」。粘ると、「富岡さんの取材、長いですね」「他のメディアは、これぐらいですよ」。20年超の取材経験の中でも、ほとんどない対応だった。
●ハウル氏逮捕以降に一気に噴き出した
6月22日にハウル氏が逮捕されて以降、ツイッターでは、その素行に疑問を呈する発信が一気に噴き出した。逆に言えば、それまでは、ほぼ伏せられていた。
その理由を、ヤス君はこう説明する。
「僕らのようにハウル氏の悪行を早くから知っている人は、広場に集う中では、ほんの一部。『ハウル氏は、頑張っている』『メディアに出るほどすごい』と信じている人が大部分でした」
「そんな集団圧力がある中では、『ハウルはやばい』なんて声を上げられませんよ」
それでも今春、彼の仲間が動きを見せる。ハウル氏による被害の訴えがあまりに増えたことから、彼の行動を見張り始めた。未成年といるところを動画に撮るように、尾行していたという。警察を動かす証拠集めのためだった。
こうした情報を得ていたヤス君が、ハウル氏の逮捕を「なるべくしてなった」と捉えたのは、当然のことだろう。
●広場の治安が悪くなっている
ハウル氏がリーダーだった歌舞伎町卍會は6月末、解散を決めた。彼らが清掃活動の拠点としていた広場を7月上旬の週末、筆者はのぞいてみた。
路上からスマホで写真撮影をしていると、「何撮ってんだ!」と斜め前方から、男性がすごんできた。清掃関係のボランティアをしているのか。手に用具を持っている。
「写真消せ」「肖像権を知らんのか」。彼は写真に映っていないが、立ち去ろうとしても、しつこく追い回してくる。
トラブルを避けるため消去に応じたが、公共の場所を路上から撮影することは何ら問題がない。
広場を「自分の庭」と勘違いしているのだろうか。治安が悪くなっているとの注意をネットで目にしたが、それを体感する事態だった。
以前より、明らかにゴミが目立つ。そんな広場は「閉鎖」するという噂もある。となると、トー横キッズたちは、どこに集うようになるのだろうか。再び目が離せない事態となっている。