「もったいないな、変なことばかりやって」と言われ続けた人生ーライフネット生命副社長岩瀬大輔氏インタビュー（前編） - BLOGOS編集部
※この記事は2012年04月16日にBLOGOSで公開されたものです
商品の分かりやすさや価格の安さが消費者に受け、ネット生保の存在感が増している。2008年、74年ぶりに独立系生命保険会社としてスタートしたライフネット生命もそのひとつで、3月15日には東証マザーズに上場（7157）したことも記憶に新しい。今回、編集部では30代前半でライフネット生命の立ち上げに奔走した、代表取締役副社長の岩瀬大輔氏に話を聞くことができた。インタビューでは、株式上場の話だけでなく、若者論から社会福祉論まで、岩瀬氏が熱く語った。後編はこちら（取材・構成：BLOGOS編集部 田野幸伸、大谷広太）社会の公器として株式公開はするべきだと思っていた
―まず、今回の株式上場についてお伺いします。なぜこの時期だったのでしょうか？震災の影響もあったのでしょうか。岩瀬大輔氏（以下、岩瀬氏）：もともと生命保険会社は極めて公共性の高い業種であるので、社会の公器として株式公開はするべきだと思っていました。出口（治朗・ライフネット生命代表取締役社長）によれば、アダム・スミスが『国富論』で「銀行や保険会社は、株式会社としてパブリックであるべきだ」と言っているんだと。その頃に上場という概念ではないでしょうが。
上場の準備にはだいたい1年半ぐらいかかりますから、実は2010年の夏ぐらいから準備を始めていたんです。そういう意味では震災は関係ありません。去年の年末などはマーケットの状況が非常に良くなかったので、「タイミングをずらすべきではないか」という話もありました。
ただ、マーケットの動きなんて誰にもわからないですし、そういうことを心配するのは本質ではないなと思い、予定通り3月15日に上場しました。結果的にですが、今年に入って株価は好調です。神様が味方してくれたというか。
―Facebookのように、黒字化して業績が良くなるまでじらしてからドーンと上場、という方法もあったと思います。ちょっと早めというか、1年半前から予定されていたというのは上場企業としての一般層への信頼度が大事であると考えたからですか？
岩瀬氏：はい、それが特に大事であると思いました。皆さん我々の財務諸表を見て「なぜ赤字企業なのに上場するんだ」と、どう評価するのか戸惑ってらっしゃる感じがあって。生命保険会社の場合、一般的には新契約価値と呼ばれるもの、あるいはエンベディッド・バリュー（保有契約価値）という企業価値で見るのが一般的です。
そして、生命保険会社って、基本的にP/L（損益計算書）を見ないんですよ。保険業界をよくわかっている方は、生命保険会社の価値評価はP/Lを見てするものではないということをわかっておられます。というのは、生命保険会社のキャッシュ・フローは入りと出にものすごく期間のバラつきがあるんです。
初年度で投資して契約を獲得し、10年から15年かけて保険料が入ってきます。そこのミスマッチがありますから、どうしてもずれてしまう。「期間損益では会社の状態を判断できない」ということを、プロ筋はわかっているんです。というのが今後の課題です。
我々のネット生保というビジネスモデルは世界に類をみない、スタートアップの生命保険会社なので、そこも含めて、これから市場との対話を通じ、一般の方々、普通の会社の普通のP/Lを見ることに慣れている方にどう理解していただくかが今後の課題だなと思っています。
―自己資本比率の向上という面もあるでしょうが、目論見書には色々な広告を打って、売上を挙げていくということが書かれていました。今回調達されたマネーで次に何をおやりになるのでしょうか？
岩瀬氏：やはり「いかにお客様からの信頼を得るか」ということと、「どのようにしてより多くの方に知っていただくか」が課題です。都内にいて、IT産業に関わっている方には「ライフネット生命って認知度出てきたよね」「いい会社だね」といった認識をお持ちいただいているのかもしれませんが、一般の方からするとまだまだ聞いたこともない保険会社だと思います。それが上場することで「永続性がある、安定した会社である」というお客様からの信頼を獲得できる可能性が出てきますし、マーケティング等の投資をさらに加速させていくための資金調達もできるようになります。
また、システムへの投資、あとは金融機関として自己資本の拡充・充実がすごく求められているので資本を厚くしておくこと、そして将来的な海外展開の機会があれば、その際に投資できるよう資金を確保しておくことも目的です。
若い人は将来伸びる会社を選ぶべき
―話題を大きく変えまして、岩瀬さんご自身のことについてお伺いします。もう何度もこういう質問を受けられていると思いますが（笑）、岩瀬さんは東大法学部在学中に司法試験を突破し、卒業後はボストン・コンサルティング（BCG）やハーバード・ビジネススクール（HBS）を経ておられます。しかもHBSでは日本人では４人目の上位５％の成績で卒業（ベイカー・スカラー）だったと。つまり非常に華やかな経歴をお持ちですから、そんな人には一般の人の気持ちはわからないよ、というような受け止め方をされてしまうこともあるといます。
岩瀬氏：経歴が華やかだ、とか言われるようになったのは最近のことです。たまたまHBSをいい成績で出たから、いかにもすごく良い経歴だと言われたんですが、僕は今までそんなことを言われたことがなくて。当時（編集部注：98年ごろ）はどうだったかというと変わり者扱いで、「司法試験を通過したのになんで弁護士にならないの」とか。
特に僕らの時代ってまだ外資系コンサル会社って有名ではなく、僕の周りでも知らない人のほうが圧倒的に多かったんです。「なんでそんな訳のわからない『オフトン・コンサルティング』に行くんだ」と。ボストン・コンサルティングという社名を聞いたことがない人多かったんですよ（笑）。
それでもBCGに入社して頑張って、２年後にベンチャーに入るためにBCGを飛び出そうとしたら、上司に呼び出されてすごく怒られて。「これだけ出世コースに乗っているのに、どうして辞めるんだ。なぜそんな訳のわからないベンチャーに移るんだ」と。
さらに投資ファンドに移った頃は、外資系ファンドは「ハゲタカ」と呼ばれていて、世間に全く理解されていませんでした。そんなに良い人材も集まっていなかったですしね。
その後HBSに留学、卒業してライフネット生命をやっていたら、「なぜ生命保険"なんか"やっているんですか」「いつまでやるつもりですか、そんな生命保険"みたいな"つまらないビジネス。」みたいなことをいまだに言われるんですね。
だから、明らかに皆から賞賛されるような道を歩んできたのとはむしろ真逆で、常に「なんでそんなことやるの？」「もったいないな、変なことばかりやって」ということを言われ続けてきた人生なんです。でもそれぐらいのほうが僕は良いと思っています。
要するに、今皆が良いと言っていることは、10年後にはもう良くないと思うんですよ。皆が良いねと言うよりも、半分ぐらいの人が反対することを選択したほうが先を行っているし、将来性があると思うんです。そういう感覚なんです。
若い人が仕事選びをする際に、「今一番輝いている会社」を選ぶのは間違っていて、自分が一番活躍する20年後、30年後にどういう状態にあるかを考えて選ぶべきだと思うんです。今ピークにある会社を選んでも仕方がなくて、将来伸びる可能性がある会社を選ぶべきだと思います。
これは昔ボストン・コンサルティングの先輩に言われた戦略論ですが、「戦略の本質とは、競争がないところを探してそこに行くことだ」と。企業に対してはコンサルタントってそういうことを言うわけですが、コンサルタント自身は競争の激しい消費財とか金融とか通信とかばかりをやりたがる（笑）。
ビジネス本を読み漁ったりするのは意味がないと思う
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岩瀬氏：要するに、例えば欧米だと「いい大学を出ている人たち」は、「君たちこそリスクを取って社会を変革しようと挑戦せよ。それが将来のリーダーたちの責任だ」と、そういうふうに叩き込まれているわけです。
それに対して日本では平等主義が大事なので、「君たちは将来のリーダーだ」とか口が滑っても言っちゃいけない。だから、いい大学を出ている人たちこそ大企業で守りに入るんです。でも、本当ならそういう比較的良い学校に行っている人たちこそリスクを取って挑戦すべきです。彼らは、社会の中である程度守られているというか、「学歴」という保険が効いているわけじゃないですか。そういう人たちがどう振る舞うかが分かれ目だと思っています。
―岩瀬さんの著書を読むと、確かに実際にはかなり苦労というか努力をされ、実は職安通いをした経験もあるとお書きになっていますし、「若いうちは泥臭く頑張れ」という主張もされていますね。その点についてお聞かせください。
岩瀬氏：足腰を鍛えなければスポーツできないのと同じで、職業人としてもコツコツ自分に負荷をかけてプレッシャーとストレスをかけている分だけ強くなれると思うし、それがなければ何をやっても成長しないと思うんですよね。やっぱり近道ってないですし、それが世の常なんです。
例えば若い人がセミナーに行ったり、ビジネス本を読み漁ったりするのは意味がないと思います。単にセミナーに行って楽しかった、ビジネス本をななめ読みして凄く勉強した気になるのは間違っています。自分に負荷がかかっていないし、「辛いな、辛いな」という感覚がないですよね。
僕の場合、辛くないときとか、ラクなときってむしろ不安なんです。全然成長していないんじゃないかと。だから、あえて大変とか地道なことをやったわけではなくて、当たり前の、プロフェッショナルとして必要な筋力をつけるための筋トレをやっている感覚でずっときました。
自分が「面白い」と思ったことを皆にも伝えたい
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岩瀬氏：ありますね。『生命保険のカラクリ』でいうと、自分がこの仕事を通して初めて知った驚き、知った喜びを友人と共有したいなと思ったことなんです。
昔から僕は勧めたがり、教えたがりで、例えば自分が良いなと思った本はすぐ勧めるんですよ、「これ読んで！」とか。女の子に「このCD聴いてよ！」って薦めて聴いてもらえないとか（笑）。
ケインズが「いつの時代も本当に怖いのは権力ではなく、アイデアの力、思想の力だ」「固定観念を取っ払うのが一番難しい」と言っているんですが、つまり頭の中を変える、世界の考え方を変えることほど大きなインパクトを持つことはないと思うんですよね。自分が言っていることがそこまで広く届いているとは思わないんですけど、自分なりに「皆、こういうふうに世の中を見ればいいのに」と思ってやっているところはあります。
たまたま僕は自分の今の立場になって、いろんな人と話をするチャンスが増えて、今までとは違った見方ができるようになりました。そういう機会がない人に気づきのきっかけを与えられればいいな、とおこがましくも思ってじゃんじゃん書いていますね。外で会って面白い人がいれば、引っ張ってきて社員の前で喋ってもらったりもしています。GREEの田中さんにも来てもらいましたし、食べログの村上さん、宇宙飛行士の方、東大卒のお坊さんを呼んだり。それは皆、自分が話を聴いて「面白い」と思った人たちです。皆に聞かせたいと思ったので、書くことの延長線上です。
僕が池田信夫さんや藤沢数希さんを偉いなと思うのは、彼らのモチベーションって目立つことじゃないんです。意見の賛否はさておき、自分たちの正義感で「間違った情報を伝えたくない」「誤った思い込みを正したい」という一心で、大したメリットもないのにやっている。別にブログが盛り上がってそれでお金が入るとか、それが目的ではないじゃないですか。あれだけ言論活動を続ける人たち、下心なくやっている人たちは偉いなと思いますね。（後編に続く）
プロフィール
岩瀬大輔（いわせ・だいすけ)1976年埼玉県生まれ。1998年に東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパン（現RHJインターナショナル）を経て、ハーバード経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5％の成績で卒業（ベイカー・スカラー）。
2006年にライフネット生命保険の設立に参画。2009年2月より現職。世界経済フォーラム（ダボス会議）「ヤング・グローバル・リーダーズ2010」選出。日経ビジネス「チェンジメーカー・オブザイヤー 2010」受賞。
著書に、「金融資本主義を超えて―僕のハーバードMBA留学記 (文春文庫)」、「生命保険のカラクリ (文春新書)」 、「入社１年目の教科書（ダイヤモンド社）」、「20歳からの社会科 （日経プレミアシリーズ）」など。
・ライフネット生命 - 公式サイト
・生命保険立ち上げ日誌 - 公式ブログ
・@totodaisuke - Twitter
