特集・震災から1年「ＮＰＯ・ボランティアを支援せよ」日本財団笹川会長インタビュー後編 - BLOGOS編集部
※この記事は2012年03月08日にBLOGOSで公開されたものです
地方自治体が主催するボートレースの売上金の約2.5％を元に活動する「日本財団」。阪神大震災以降、様々な災害支援を行っている。東日本大震災支援の「ＲＯＡＤＰＲＯＪＥＣＴ」では、2012年3月1日現在、45億円を越す寄付金が集まっており、被災地でのＮＰＯ支援や、ボランティアの取りまとめ、支援物資、義援金の配布など、大きな役割を担っている。会長の笹川陽平氏に聞いた（取材：BLOGOS編集部 大谷広太・田野幸伸）――日本財団は普段どのような活動をされているのでしょうか？
笹川:アジア最大の民間の財団でございます。特に世界的には、人材養成に力を入れています。子供から高等教育に至るまで支援をしています。また、障害者も大学に行くチャンスがない場合、世界的に能力のある人は大学・大学院に行って勉強して頂く。それぞれの国の指導者になって頂きたい。
アジアではミャンマー、カンボジア、ベトナムなどの小学校から大変幅広くやっています。南米の日系人の優秀な人に日本に来ていただいて勉強してもらう。そのようなプログラムも立ち上げています。
21世紀の後半は海洋の時代ですから、海洋の人材を養成しているのは世界で私たちの財団だけの特徴です。食料増産。これから食料が不足していきます。中国も食料を輸入しております。アフリカでは25年も現地の農民を対象に生産効率をあげるための農業を指導しております。
昨年はビル・ゲイツ財団からも5億8,000万円頂戴いたしておりました。農業の生産性をあげる活動ですね。私のライフワークとしては、世界からハンセン病を制圧する活動です。来年の後半くらいにはブラジルでもそうなるように思っています。
国際的にはそのように非常に多様な活動ですね。私自身が言うのは変ですが、著名な人道活動をしている組織として評価を受けております。国内的にはご承知のように、高齢社会の到来を予想して、老人を中心とした福祉を行なっております。
身体的障害・知的障害・精神的障害といろいろありますが、いわゆる社会的弱者と言われる人たちへ手を差し伸べるというのは私たちの仕事でございます。特に近年、1000兆円を超える財政赤字の中で、国も地方財政も疲弊しきっております。セーフティネットから落ちこぼれてしまう人がどんどん増えております。
最近では、餓死者が出たとニュースで報じていました。それらを救い上げていくというのが私どもの今後の活動であります。そのためには、ソーシャルイノベーション、社会を変革するということが日本財団のメインテーマです。
私たちだけで社会が変えられるとは思っておりません。皆さま方もその一員でいらっしゃいます。きっかけを作り、発言し、行動する。ということが大事であります。発言だけでもダメですし、行動だけでもダメです。その両方を積極的にやっていく。
そのためには、社会の小さな動きでも敏感に汲み取れるようにきちっと五感を鍛えあげて、これが非常に大きな問題になりそうだということを、感じてもらうようにして頂きたい。私は、職員と火曜日には朝2時間、夕方2時間、震災後は毎日朝8時から2時間ずつ問題をみんなで探し合って解決する。ということをやっています。
私は今でも昼ごはんは、職員5、6人ずつで月曜から金曜日まで一緒に食べます。いろいろな問題を若い人から提起していただいて、それを選択して事業に活かしていきます。そういうことが実って東日本大震災では東北にいらっしゃるとわかるのですが、日本財団の職員が現場でとても役立っていると評価をいただいております。
――塩釜市の浦戸諸島へ取材に行った時、たまたま支援物資を船で離島に配る船に乗せて頂きました。支援物資は日本財団から提供されたと聞きました。
笹川:私ども、ご承知のように、阪神淡路大震災以来29回、地震、水害、油流出事故などの災害に出動しております。そういう意味でのノウハウ。初動の重要さ。積極果敢にスピードを持って行動する大切さというものがわかっておりました。
南北300キロにわたる広範囲な災害を経験したのは、私たちも初めてのことでございます。やはり我々は現場第一主義ですから、みんな現場に入って、刻々と情報をあげてくれます。
こういっちゃあ口はばったいですが、政府の動きよりも、日本財団の動きの方がはるかに早く行動をとれたと思います。例えば、臨時災害FM放送局というのは19局（手続き中３局含まず）立ち上げました。
本当ならこのようなことは政府がやってしかるべきです。ほとんど情報が流れません。ご承知のように電気が点きませんし、テレビも点きませんので。避難所に入っている人は、ある程度情報が入りますが、それ以外にもたくさんの人がいます。一階は泥で埋まっているけれど、二階でなんとか生活できるというような方もたくさんいました。ただ、放送局を立ち上げるだけでは情報を収集出来ませんので、車も提供しました。
そして、市役所に行ったりどこそこに回って、今日はどこどこで炊き出しがあります。どこそこに行けば医療品が頂けます、食料品はここですといった情報ですね。こういうことを放送しないと、通じないわけです。
そういう活動、あるいは長い間努力してきて、例えば、震災がつなぐ全国ネットワークという我々の仲間がいます。彼らは宮城県だけでも700ヶ所近い避難所をずっと定期的に回っていました。例えば震災一ヶ月目でミルクの配布率が8パーセント、というようなデータを掴んでですね。あるいは、現地の人口推計から妊娠中の女性が5,000人～6,000人いる。
これをどのようにして安全に出産させるか。というようなものも、我々はすぐに対応できます。しかも総合的にですね。避難所の中でも我々が調査に入っています。障害者を抱えているご家庭は、夜中に奇声をあげたりですね、暴れたりというような方も中にはいらっしゃいます。
避難所の中の生活が難しい方のために、急いで障害者のためだけの施設を作るとかですね。私は一番恐れていたのは、タイガーマスク現象と名付けたのですが、多くの国民のみなさんが同情とともになんとか参画したいという気持ちですね。
一つは、僕たちは何もできないけれども、金銭的に寄付しよう。この人たちの気持ちを日本赤十字社は見事に裏切ったわけでございます。3,400億円ものお金が、6ヶ月以上も放置されてしかもどこでどう使われたかも未だにわからないという状態です。
この憤りは、私がブログで、義援金と支援金は違う。今必要なのは、NPOを支えないと何も現地では進まないと訴えました。ご承知のように、災害の初期段階は自衛隊・警察・消防の活動範囲でまずは人命救助ですね。これが終わった途端に、NPOが入らないといけないんです。ボランティアの方々ですね。
この人たちに対する支援金というのは、ほとんど出ないのです、実は。日本財団は700ほどの団体に対して初期段階はやったわけです。企業もいろいろと出して下さいました。しかし、ご承知のように現場の行政は麻痺しています。そこにどーんと荷物が到着します。
それを管理する人は誰もいないんですね。被災地では27万台もの車が流されています。市役所にモノが届いたとしても、そこから避難所や各家庭にどうやって配るかについては何も考えていないわけです。
ましてや、命が救われるという生存権が確保できる、3日、4日間くらいは、三食カップラーメンでもいけますが、正直申し上げて長ければそれだけ鼻につくわけです。それが3ヶ月経っても被災地食料(カップラーメン)というのがたくさん届いてくる。
みなさん、自分が良いことをしているという思いです。それを私はタイガーマスク現象と言います。みんな良いことしているのですが、じゃあ結果も良かったかというと、全然別個の話です。
資金難のNPO
――NPOの資金集めは大変なのでしょうか？
笹川:大変です。日本人はよく間違えるのですが、ボランティアとNPOは違うんです。ボランティアで協力してくださる人は、それはそれでありがたい。NPOというのはプロフェッショナルですから、やっぱりきちっとした待遇もして活躍していただかないと、行政の足らざるところの受け手としてもやって頂くわけです。
NPOがボランティアだなんて、とんでもない間違いです。彼らにプロフェッショナルを発揮してもらうには、きちっと資金が要るんですね。
――産経新聞に、欧米ではNPOにも資金を管理する人がいて、待遇も財源もきちっとあるが、日本だと活躍資金のところから苦しいというNPOが多い。その隔たりがあるという記事がありました。こうした状況はどのようにすれば改善すると思いますか？
笹川:これは、私は何べんもやってきています。ウチのWebサイトはまだ十分ではありませんが、企業の社会的責任を彼らに果たして進めるために、一部上場企業、1700社のCSR（企業の社会的責任）活動ランキングリストを出しています。ブルームバーグがウチのものを採用してくれていたのですが、相当時間が経ってきたのでもっと厳しい評価に変えていこうと思っております。
その狙いは、良い学生を採用しようと思えば、学生が同じ金融機関に勤めるのであれば、調べますよね。CSRが活発な所に行きたいとなります。CSR活動を活発化しないと良い学生が採れない。そのうちに、私としてはWebサイトを拡大することによって、消費者までも巻き込んで、同じ洗剤を買うならばそういう活動が活発なところを買いたいという選択が出来るような情報を流していきたい。
もう一つ、4万数千あるNPOのうち、アバウトな数字ですが、ある程度活動しているのは2、3,000くらいでしょうか。日本の役所は、一度許可を出すとなかなか取り上げません。これを「2年間活動報告が出なければ自動的に抹消する」というふうに自動的にする必要があります。東京都なんかは3年間出ないと抹消すると言って、抹消するのにいちいち調べに行きます。年に150件くらいしか抹消出来ません。そんな必要は無いので、自動的に抹消していけばいいんです。
そうすると、NPOの質もうんと上がります。みんな一時期大学の先生やメディアの人が定年になって、肩書き社会ですので、NPOを始めましたと言うわけです。全然動いていないのです。
そういう玉石混交のところを整理していこうと私は思っています。そうすることで、NPOの方も日本財団で各地を周って、NPOのボスの仕事の7割は実はお金集めなんです。3割が実働なんです。
その話を随分としてまいりましたが、正直我々に力がありませんでした。仕方なく、それならばといって、日本に日本ファンドレイジング協会というのができました。ここにウチは5年間を目処に支援しています。
皆さん方がファンドレイジングの重要性を知られて、お金集めが広く浅く出来てこそ初めて、あなた方の仕事が評価される。ここもタイガーマスク現象ですね。日本財団から支援して、「会計報告をください」と言うと、「私たちは良い仕事をやっている」「そんなものあるわけないじゃない。毎日忙しいのに」という方もいるんです。
「報告書が無いと次のお金はもらえませんよ」と言うんですが、なかなかわかってもらえないんです。ですので5年間の支援が終わった後にファンドレイジング協会自体が立ちいかなかったら、日本のNPOの将来はありませんと、設立時の挨拶で申し上げました。
皆さん非常に熱心です。そういう企業とNPOを結びつける触媒の役割を日本財団がデータ的にも、様々なノウハウも持っております。そういうつなぎの役割を果たしていきたいと私は思っております。
――その一方で、若者たちが社会に興味を持てず、投票率も上がりません。お年を召した方や、上の世代になると、もちろん関心もあって投票にもしっかり行ってらっしゃいます。若者は興味が無い、行かない。そうすると若者向けの政策が打たれないという悪循環が続いています。インターネットという若者が多い媒体で、何かができたらと考えています。ボランティアなんかは、若い子や大学生が多いと思います。そういう熱心な方もいる中で、どうやったら無関心な層により関心を持って頂けるのかと考えているのですが。
笹川:これは、簡単な一つのことで反応するというのは、戦争をやるかやらないかという時の話くらいでございます。私たちが日常的に活動していくということが大変重要でして、一つの問題に対してあらゆる人たちが反応してくれる。これはありません。
例えば休眠預金に関しても、一番身近な問題として彼らも参加しやすいと思います。いろいろな若い人たちが興味を持つテーマというのはあると思うんです。今回の東日本大震災だとか、原発問題だとか、身近な問題があります。
日本人が震災によって絆の大切さを知った。日本は一つだ。被災地頑張れと。素晴らしい言葉がメディアに踊りました。
それでいて、復興支援がまったく進んでいない。その根本はがれきなんです。これが処理されないと次へいけない。ところが、その現実としてほとんどの自治体は受け入れない。皆さん方「被災地頑張れ」だとか「絆」だとか「日本は一つ」だと言ってきました。しかし、あなた方は自分たちを安全圏に置いて、彼らとともに痛みを分かち合おう、苦労をともにしようという気持ちのない、単なる言葉の遊びです。
こういうことを若い人たちに訴えると「いや、そんなことはない」、と言うと思います。ですので、一つの問題で解は得られないけれど、若者が意識する彼ら自身の素晴らしい感性もあるわけですから、それを活用していく。それが大変重要です。
震災の前に、私は学生たちに社会に対する問題意識を持ってもらいたいということで、日本財団学生ボランティアセンターというのを設立していたんです。そこにあの事故がありました。
ものすごい勢いで彼らが活動を開始してくれまして、今も冬の厳寒期に、福島の原発で会津の雪の中に、避難している人たちのためにボランティアに行ってくれています。天気のいい時ばかりに行くのはダメだと言いました。
寒い時に行って来い。みんな喜んで行くのですが、帰ってきた人たちはみんなグループをこしらえて、生き生きとしていて学校の先生が驚いています。私は自分でサインもして全部証明書を書きました。
ご苦労さんでしたと一つ一つ渡して。頭の良い子は、「日本財団でこんなことをやってきました」先生が「よし！ 出席！」なんて出席扱いになった。生きた学問をしてきたという彼らの気持ちは、すごいものがあります。
ですから、そういう人たちを一人でも多く増やしていくのです。問題意識を安全圏において議論するのではダメです。ほんとに被災地に入ってきた人の議論と遠くで見る人の議論との間では、圧倒的に説得力が違います。
そういうふうに、いろんなことに若者を参画させる方法があります。例えばこれからは私も大学は9月入学に切り替えるのを賛成なんですね。その前に彼らを徹底的にボランティア活動に行かせたい。
震災がなくても、ボランティア活動はいくらでもあります。それを我々がちゃんと組織してですね。彼らに大学に入って、毎日遊び呆けていると言うと悪いですが、大半の人はそうでしょう。3年になると今度は勉強せず、就職活動です。そして企業に入ってみんなうつ病になっちゃう人もいる。社会の実体験が全然ないからです。その辺は大学に入る前にちゃんと社会経験させる。大変重要なことだと思っています。
そういうのは組織的にですね、きちっとやっていかないといけないです。ですから、日本財団が行くボランティアは、他のボランティアとはまったく違うと被災地の方々にはおっしゃって頂けています。
ここでちゃんと2時間、3時間かけて教育するんです。現場の写真を見せて。対応も8人1組で小隊を組んでですね。小隊長を決めて、50m以上離れて仕事をしてはいけない。また津波が来るかもしれませんから。
その時逃げ場所はこっちだと。長ぐつを履いた時は、日本財団が支給する薄い鉄板を中に入れなさい。じゃないと破傷風になりますから。そういうことですね。朝はきちっとあいさつをしなさい。帰りはお互いにご苦労さんと言いなさい。
きちっと教えていくからちゃんと動くんです。そうじゃないと彼らも、写真を撮ったりするだけなんです。現地の人にひんしゅくを買うグループもあります。全体的には良い方向に動いてきていると思います。動かすようにみんなで協力しないといけません。
写真一覧
今の若者は不幸なのか？
――教育という点から今の話を伺いたいと思います。今の若者は不幸なのかという議論をよく目にします。未来に希望が持てない、就職もこんな状況で、何か悲壮感みたいなものが若者全体に漂っているのですが。
笹川:これは日本の一つの特徴なんです。日本の知識人というのは常に世の中を憂い、悲観論を言うことが知識人だとされてきた歴史があるんです。暗い話、過去の話しかしません。経済学者を見てください。過去の統計を理屈つけるだけで、未来志向の発言をする経済学者は誰もいません。できないんです、勉強していないから。過去の統計資料ばかり見るんです。
いつの時代だって未来は明るいし、いつの時代だってトンネルの先にほんの少しですが光はあるんです。それを目指して人生を、みんな生きていくんです。そんないい歳してね、20歳くらいで先行きどうしようなんて言うのは、あまりにも世の中が良すぎるからそう思うんです。
自分で切り拓いていくものです、チャンスというものは。しかも長い人生の中では、良い時もあれば、極端な驚きも出てきますよ。突然病気になったり。昔もそうでしょ？突然結核と言われたら、死の宣言なわけです。
みんなサナトリウムに入って、明日は我が身かなんて思いながら悶々とし、人生を考えて、ああ生き残った、頑張ろう。そういう時代と比べれば、今はリスクの少ない時代です。
上に立つというと語弊がありますが、年配者がよくありません！ 日本の場合。知識人ぶって、深刻ぶって。時代によって、生き方も変われば、希望の持ち方も変わるんです。みんなバブルの印象をまだ持っているんです。富士山の頂上に立った人間が、八王子の高尾山に登ったって高くないというのと同じ話でございます。
今ほど若い人たちが企業を興して、頑張っている時代なんてありますか？ 明治以来。こんなチャンスのある時代なんてありませんよ。もっと昔は大企業ばっかりでしたが 、若い人たちが起業してどれだけ社会に参入してきていますか？ 世の中は全然悪くありませんよ。失業率5パーセントで景気が悪い、景気が悪い。ヨーロッパなんて景気が良い時でも失業率は2ケタですからね。
――東南アジアのご支援、南米のご支援をされていますが、向こうの若者や思いは違いますか？今の日本の若者と比べて。
笹川:一つは貧しさに耐える中から、意欲は出る。残念ながら仕方ないですね。私もひどい生活をしてきました。皆さんは僕を億万長者の息子だと思っているかもしれませんが、ほんとに飲まず食わずの生活を長くしてきました。
そういう環境と今のように三食冷暖房付きでなんでもモノがあるという時代では、やはり意欲という点では満たされてしまっています。画一的な人生ではなくって、今の人の方がいろいろな選択が出来ます。
私は好ましい時代になってきたと思います。私たちの時代ならば一生懸命勉強して、一流企業に入るというのが人生でした。今はそうではなくて、NPOをこしらえて世のため人のためにやりたいという人もたくさん出てきています。
一流企業がどうしたの？ 日本を代表するような老舗企業だって落ち込んでいる。もっと多様な生き方があるんじゃないのって考えています。多様性のある生き方を若い人たちがしています。素晴らしいことだと思います。
それを年取った人たちが、「なんだいい若いものが街頭で訳の解らん音楽を演奏して」と言う。そういう見方は本当に失礼だと僕は思うんです。素敵な時代ですよ、今は。
――我々BLOGOSも多様な意見に触れるような場、議論を新しく定義していくようなことを多くしていきたいと考えています。若者たちが多く発信するような、場所はありますか？
笹川:私のところも小ぶりではありますがCANPANという公益コミュニティーサイトをやっています。まだまだ我々の努力が足りませんが、私たちに限らず多くの人が問題意識を持って、やっていくことが肝心です。問題意識を持っているということが肝心なんです。
問題意識があれば、次は行動に移せばいいだけの話なので。問題意識がないというのが一番困るんです。問題意識のない人には、優しい問題からですね。さっきのような自分の金銭に関わる、損得の問題から提供する。いろんな種作りはしないといけないかもしれません。
写真一覧
世界から見た「日本」
――震災もありましたが、世界を回っていて、今の日本の見られ方。どのような評価でしょうか？
笹川:率直に申し上げて、日本の評価はものすごく高いです。3年前のBBCの調査で、123ヶ国ですか？数字は記憶が怪しいですが、好感度一位ですよね。カナダと並んで。その前の調査では日本単独で一位です。
いくつか申し上げます。早稲田大学の講義などでも話しているので。日本に住んでいると、日本が世界からみて良いと思われる点を挙げてみて下さいと、僕が順番に指していきます。学生に。
みんな最初はシドロモドロなんですが、段々調子が上ってくると出てくる。まず、「水が良い。」そうですね、世界一水が豊かな国でちょっと上流に行けば、手ですくって飲めます。21世紀は水不足の時代に入っていくのに、こんな豊富な国はありません。あなたの言うとおり、世界一です。他にありませんか？「禿山の無い、緑に覆われた山はどうでしょうか？」
そうですね。禿山が無いのは日本だけでしょうね、これもすごい話です。と言って探していくといっぱい出てきます。犯罪が多い多いと言われますが、先進国では一番少ない。少ないから7時のニュースが殺人から始まるんです。
多かったらニュースになりません。インドなんか殺人はニュースになりません。中国も殺人なんか、アメリカそうですよ。よほど変わった殺し方をしたとか、学校の中で銃を乱射したとか、そういうのは別ですが。無いからニュースになるんです。
東西4,000キロの中にこんなに明確に四季のある国なんて無いでしょ？ アメリカにも四季はありますよ。あるけれども、場所によっては春も夏も短いですよね。日本はほぼ4等分された素晴らしい四季があって、そうやって数えていって一番の問題は何かと言えば、世界の紛争地を見てください。
あるいは紛争をしていないところも見てください。民族対立が無い、宗教対立が無い国。これは世界で日本だけなんです。そういう非常に恵まれた国であるということを、ひとつひとつ若者に問いかけながら、議論をしていくとみんな結構色々な意見が出てきます。
あなた方はちょっと恵まれすぎてるんじゃないの？ 恵まれすぎて文句が出てくるのじゃないかなという話に切り替えていくと、日本での立ち位置じゃなくて、世界での立ち位置で見ると、良いところにいるとわかってくれるんですけれどね。
――それは先ほどおっしゃっていた、悪い事を言うのが日本の知識人であったと？
笹川:それが証拠に私どもが日本の情報発信のために、現代日本を知る100冊の本というのを始めました。海外の大学や研究所に配って600ヶ所くらいですかね。そのうち日本人が英語で書いた本は、たった3冊しかありません。3冊でも100年前の新渡戸稲造が1冊入っています。もう一つはライシャワーですから半分アメリカ人。純然たる日本人は緒方貞子さん1冊だけ。
東大法学部の先生があれだけ政治論を国内で喚いても、彼らの本が世界的に評価されているとは聞きません。日本の中の大先生であって、世界での大先生ではありません。ここに東大法学部の人はいませんよね？（笑）
――最近、海外で日本のソフトウエアビジネスだ、マンガだアニメだということを積極的にやっていても、外国に対してアピールが足らないという気がしますね。
笹川:ところが、今回の震災でもそうだったでしょ？僕はもっと前に、イスラエルにいた時に東京の八丈島で噴火があって、一万何千人が整然と船に乗るところをイスラエルの首相官邸でペレス（現大統領）が見ていて、「笹川さん、どうして略奪が起こらない？どうして火災が出ない？どういうふうに教育しているんだ？」と聞かれて僕は答えられなかった。
「普通の話です」って。「笹川さんそれは普通の話じゃないでしょう。どこの国行ったって、災害があれば略奪が起こって火がつくじゃないですか」確かにアメリカもハリケーンのカトリーナの時に、略奪が起こり、火災で火がつきました。
世界中そうですよ。ところが日本は、ニュースでは出ていませんが、東南アジアで話題になったのは、外国人が食料を子供にあげたらしいんです。どこの人か知らないけれど。もらった子供はそれを食料倉庫に持っていった。
「みんなのためにもらったもので、僕だけがもらったものじゃない」って言ったと。それがベトナムからずっと広がって、日本は子供たちまでこうやって食べ物を分けてすごい国民だと。
整然と並ぶ。我先にと取る人は一人もいない。一体どういう国なんだと。日本人の倫理観の高さは世界的に評価を受けた。
世界の人は日本にものすごい憧れを持っています。ただし、政治だけは別です(苦笑)。そういう国民に支えられている政治が、なぜにこんなに脆弱で訳がわからないのかという質問を受けた時に大変困るんです。
政治家がいなくても成り立つ国こそが、本当の成熟した民主主義じゃないか。というように答えるんです(笑)。日本ではリーダーシップを取るということは、独裁者として嫌われるんです。
僕の本でいろんなところに書いています。株式会社では、金儲けの一番上手いやつが社長になるだろう。いや、日本は絶対にならない。金儲けが上手いのは2番手や3番手でにはなるけどトップにはならない。なぜか。
それはそんなやつがトップになったら俺たちクビ切られちゃうから。そういう怖さがあるから人格円満で、おとなしい人、俺のクビを切らない人をみんなで選ぶんだと。わからない国ですねとみんなに言われます(笑)。
――BLOGOS読者に何か一言メッセージを。
笹川:皆さんが是非問題意識を持って、BLOGOSに参画をするということが重要なことなんです。自分の意見を実現させるとかさせないとかは二の次の問題です。とにかく参加をする。一人でも多くの仲間をここに呼び込んでいただいて、そうすることによって、あなたの意見も反映される時が来る。
とにかく、意見を言うことと仲間を増やすことがあなたに課せられた大きな仕事だということを是非伝えて頂きたいです。
――ありがとうございました。
プロフィール
笹川陽平（ささかわ ようへい）1939年1月8日 東京生まれ。明治大学政治経済学部卒。現在、日本財団会長、WHOハンセン病制圧特別大使、ハンセン病人権啓発大使（日本政府）ほか。40年以上にわたるハンセン病との闘いにおいては、世界的な制圧を目前に公衆衛生上だけでなく、人権問題にも目を向け、差別撤廃のための運動に力を注ぐ。
ロシア友好勲章（1996）、WHOヘルス・フォア・オール金賞（1998）、ハベル大統領記念栄誉賞（2001）、読売国際協力賞（2004）、国際ガンジー賞（2007）、ノーマン・ボーローグ・メダル（2010）など多数受賞。
著書「この国、あの国」（産経新聞社）、「外務省の知らない世界“素顔”」（産経新聞社）、「人間として生きてほしいから」（海竜社）、「若者よ、世界に翔け！」（PHP研究所）、「不可能を可能に 世界のハンセン病との闘い」（明石書店）、「隣人・中国人に言っておきたいこと」（ＰＨＰ研究所）など。
・笹川陽平氏の記事一覧
http://blogos.com/blogger/yohei_sasakawa/article/
関連記事
・「休眠預金・仮名口座のデータを、銀行・政府は明らかにせよ」 日本財団笹川会長インタビュー【前編】・政府は休眠預金額の実態公表せよl－笹川陽平
・「休眠預金」を社会的に活用せよ－笹川陽平
