INSIGHT NOW! 編集部 / インサイトナウ株式会社

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戦略クラフティングとは

もうひとつ、論理的な根拠ではなく、経験や愛着、バランス感覚などによって創作(クラフティング)されることを「戦略クラフティング」として紹介している。つくりながら実行され、次第に独創的な戦略へと発展するものだという。試行錯誤をしながら、経験のなかから様々なことを試しながらかたちにしていくやり方だと言えるだろう。

ミンツバーグは。「優れた戦略は、およそ思いも寄らない場所で生まれたり、考えもしなかった方法で形成されたりする。したがって戦略を策定する唯一最善の方法など存在しない。」と語る。
これもうなずける話だ。往々にして大ヒット商品は、個人の予想外のアイデアや経験のたまものだったりするし、自分自身の仕事にしても、思いもかけずうまくいった仕事は偶然の結果、起きたことのほうが多かったりする。

この2つは、いくつかの例に例えることができそうだ。机上の理論と現場の知恵、思考と実行、分析と経験、あるいは、経営陣と現場スタッフ、経営企画と営業など、立場やポジションによる対比もあるかもしれない。

ミンツバーグは、この2つのうち、どちらかが優れていて、どちからが間違っていると言っているのではなく、むしろ、世にある戦略の大半は、論理的な戦略プランニングだけでできたものでもなければ、偶然かたちづくられる戦略を待つこともできない。この二つが両極とするならば、この中間のどこかに存在するという。

戦略をクラフティングする

ミンツバーグが指摘するのは、本来の戦略策定とは机上でシステマチックに行うことがすべてではないということだ。MBAホルダーや経営企画のメンバーが、上がってきた数字だけを見て、「○○戦略」とやっていたのでは、失敗するのは目に見えているということなのだろう。自らの能力を正確に把握し、世にある、いわゆる戦略プランニング・ツールを捨て、戦略を工芸的に創作していく必要があるという。

世にある戦略指南書は、過去につくられたものを踏襲して後付けで論理付けされたものが大半だということも忘れてはならないことだ。あとからなら何とでも言える。

戦略とは、自分自身のケイパビリティを把握したうえで、陶芸家のように、クラフティングするべきものだという。
これは組織における戦略だけではなく、自分自身がこの先どのような戦略を持って進めばいいのかという個人の問題に対しても、非常に参考になる話だ。どのような組織に所属し、どのような契約スタイルで働いているとはいえ、ビジネスパーソンとして、今の時代は、本当に試練あふれる時代だ。市場データが導いたことや、上司から指示されることが正解だという保証はない、むしろうまくいかない可能性のほうが高い。

とするならば、これからの戦略はこれまで自分が築いてきたことから、自分の能力を信じ、戦略をクラフティングするしかなさそうだ。

実行することで見えてくる

どうしても、何かをやろうとするときに、何をどうするか「思考」してしまう。そして思考段階でうまくいかないと思えば、実行を諦めてします。思考と実行を分けるものではないというのもミンツバーグの言葉だ。思考と実行を分けることなく、陶芸家が土に完成図を見出すように、まずは取り掛かってみる。自分の感性と経験を信じ、うまくいかなければ修正する。
経験からくるものほど自信と知恵になるものはないということなのだろう。

ミンツバーグは、戦略をクラフティングするには、「意欲、経験、素材への造詣、個人的な流儀、ディテールの技術、調和と統合のセンス」、これらが必要になるという。

まず「意欲」がなければ何も生まれるはずもない。本当にやりたいと思うかどうか、最初に問われる問題だ。

次に「経験、素材への造詣、ディテールの技術」、これは必要となる知識、情報ということだ。何よりも何かを成し遂げるためには、知識が必要となる。

そして「個人的な流儀、調和と統合のセンス」こそが、クラフティングにおけるポジショニングだ。調和はクラフティングで統合はプランニングのことだ。意欲と知識を基盤に、自分流のやり方で調和と統合のバランスを調整する。

戦略、いや仕事そのものが、クラフティングしていくべき時代なのかもしれない。