バージニア大学で高度道路交通システムを研究するノア・グッド―ル氏が、2021年10月に「部分自動運転車の安全性統計を正規化する方法について」という論文を公開しました。この論文を基にテスラの自動運転車の事故データを正規化すると、「テスラの自動運転システムであるオートパイロットは同社が主張するよりもはるかに安全性が低いことがよくわかる」とジャーナリストのエドワード・ニデルマイヤー氏は主張しています。

View of A Methodology for Normalizing Safety Statistics of Partially Automated Vehicles

(PDF)https://engrxiv.org/preprint/view/1973/3986



電気自動車メーカーのテスラはオートパイロット機能の開発の中で、数回にわたり車両の衝突事故を起こしており、乗員の死亡事故も発生しています。にもかかわらず、テスラはオートパイロットが安全なものであるとたびたび主張しており、2018年には「オートパイロットが事故発生率を70%以上軽減する」というレポートを発表しています。

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テスラのイーロン・マスクCEOはオートパイロット機能が普及すれば、「何千人もの命を救うことになる」と主張してきました。しかし、マスクCEOの主張を不審に思う人は多くおり、ニデルマイヤー氏も正確なデータを用いた評価がなされるべきと考えていたそうです。

そんな時に発表されたのが、グッドール氏の論文。グッドール氏は論文の中で「自動運転システムの開発が進むにつれ、自動車の安全性はますます規制当局にとっての大きな関心事となりつつあります。しかし、自動運転車の事故率は一般的にメーカーが独自の指標で報告しているため、定義が一貫しておらず比較が困難です。そこで、本研究ではとあるメーカーの自動運転システムで報告されている公道上での事故率を調査し、報告された事故率を道路の種類とドライバーの人口統計に基づいて調整しました」と記しています。

例えばテスラが公開しているオートパイロット機能による事故データを一般ドライバーの事故率と単純比較すると以下のグラフの通り。100万マイル(約160万km)ごとの事故件数(縦軸)はオートパイロット機能(青線)と比べて、一般ドライバー(赤点線)の方が圧倒的に多め。このようなデータを用いてテスラは「オートパイロットの普及が自動車事故を減らすことにつながる」と主張しています。



しかし、道路の種類をベースに事故件数を調整すると、異なる結果が見えてきます。テスラが公開している事故データでは「オートパイロットの総走行距離」の93%が一般道ではなく高速道路の走行したものであることが明らかになっています。一方、「一般ドライバーの総走行距離」のうち高速道路の走行距離が占める割合はわずか28%です。また、オートパイロットの事故率を「オートパイロットの一般道での事故率」として割り出すと、事故率は1マイル(約1.6km)あたり2.01倍も増加します。

以下は一般ドライバーの事故データに合わせ、「オートパイロットが100万マイル中、一般道を72%、高速道路を28%走行した場合の事故件数」を示したグラフ。走行する道路の種類を合わせるとオートパイロットと一般ドライバーで事故率はそれほど変わらないことがよくわかります。



この結果に対して、Hacker News上では「これはまさにグラフでうそをつく方法そのものだ」などの意見が上がっています。