「在宅避難」できる家とは? ハウスメーカー各社の「レジリエンス住宅」に注目
11月13日に閉幕したCOP26(第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議)。地球温暖化対策は国際的な課題です。地球温暖化によって、自然災害も頻発しています。私たちも日ごろから災害への備えをすることが求められています。
一方、災害時に大勢が避難所に集まって過ごすことは、慣れない集団生活やプライバシーの問題も指摘されています。さらにコロナ禍では、感染症拡大のリスクも高くなります。できるだけ「在宅避難」をすることが求められる時代にもなっています。
在宅避難の対策のために、数多くの備蓄品をそろえるという選択肢もあるでしょう。しかし近年は、ハウスメーカー各社が災害対策に特徴のある住宅を提供していますから、住宅の設備で在宅避難に備えるという選択肢もあるのです。そこで、今回は、災害が起きた後も在宅避難ができる家とはどんな家か、考えていくことにしましょう。
在宅避難ができる家の3つの条件
在宅避難ができる家には、3つの条件があります。
(1)災害で家が倒壊しない
(2)災害後も家で安全に住める
(3)災害後も最低限の生活ができる
巨大地震や水害に遭って家が倒壊してしまっては、在宅避難ができないばかりか、命を失うリスクもありえます。倒壊しなかったとしても、家の損傷が激しくて住み続けることができない場合も、在宅避難はできません。
したがって、在宅避難の前提として、家を建てる場所の災害リスクを知ったうえで、それに対応した耐震性の確保や水害対策を施して、災害に強い家を建てることが重要です。また、こうした設計上の対策に加えて、家具を固定したりガラスの飛散防止をしたりなど、命を守るための住み手側の対策も求められます。
そして、家族が無事で家に住み続けられるとなった場合でも、最低限の生活ができるように「ライフラインへの備え」をしておかないと、在宅避難は難しいのです。
このように、災害に強い家にするには、災害発生時のリスクを知ること、災害後の生活で起きるリスクを知ることが大切です。ポイントは、「リスクを知って、それに備える」ことです。
災害後の生活で起きるリスクとは?
災害が起きると建物が倒壊するだけでなく、電気やガスなどのライフラインが寸断する可能性も高まります。首都直下地震等による東京の被害想定(東京都)には、過去の災害時の状況から考えると、ライフラインの復旧までのおおよその期間は、電力で1週間、都市ガスで1~2ヶ月、上水道で1ヶ月以上、通信で2週間を要していると報告されています。
つまり、この間は電気やガス、水道などが使えない可能性があるわけです。そうなった場合、家族の暮らしはどうなるのでしょう?
生活への影響が最も大きいのは、電気がストップした場合です。電化製品が使えないだけでなく、電気を利用する冷暖房設備や換気システムも使えなくなるので、室温の調整や空気環境にも影響します。通信機器への充電もできなくなるので、情報の入手が困難になります。
ガスは強い揺れを感じると自動的にストップします。異常がなければマイコンメーターを復帰して使うことができますが、地中のガス管の損傷などでガス自体が供給されない事態も起こります。
水道管が損傷すると、水道もストップします。飲み水が得られなくなるほか、洗い物やトイレを流す水も止まります。飲み水は、最低3日間、推奨1週間の備蓄をすることが求められています。1日に大人1人分で3リットルですから、飲み水だけでも相当量を備蓄することになり、トイレ対策も課題となります。
このように、在宅避難の場合は、ライフライン確保への対応が極めて重要な課題となるのです。
ハウスメーカー各社がさまざまな「レジリエンス住宅」を提供
近年はハウスメーカー各社が「レジリエンス住宅」に力を入れています。レジリエンスとは、「強靭性や回復力」を意味します。レジリエンス住宅は、日頃は住まいの中で健康で安全に過ごせて、災害の際には被害をできるだけ抑え、素早く回復させる住宅のことをいいます。
ハウスメーカーの多くが、レジリエンス対策のなかでも「電力」 と「水」の確保を重要視しています。電気と水を確保するには、具体的にどんな設備があるかを説明しましょう。
自家発電機能としては、屋根などに「太陽光発電システム」を搭載するのが主流ですが、発電するのは太陽が出ている間になります。平常時なら夜間や雨の日は電力会社の電気を利用できますが、停電時には「家庭用蓄電池」に電気をためて、その電力を使うことになります。
発電した電気や蓄電池の電気を家庭で使うには、直流の電気を交流に変換して、電力会社の電気と同品質にしなければなりません。その役割を担うのが「パワーコンディショナ(パワコン)」です。太陽光発電と蓄電池にそれぞれパワコンが必要になりますが、両方に使える一体型のものもあります。
自家発電機能のある設備としては、ガスと水を使って電気をつくる「エネファーム(家庭用燃料電池)」もあります。発電時に生まれた熱でお湯もつくる、給湯器の機能も兼ね備えています。
「エネファーム」は、発電だけでなく、水の確保としての役割も果たします。貯湯タンク内の水を取り出せば、生活用水として利用できるからです。最大130リットルの水が取り出せるので、節水型トイレ(4リットル/回)なら約32回分の水を確保できます。
電気を使って湯を沸かす省エネ性の高い給湯器「エコキュート(家庭用自然冷媒(CO2)ヒートポンプ給湯器)」も、エネファームと同様に、貯湯タンクの水を取り出すことができます。貯湯タンクが大型なので、370リットルのものなら、20リットルのポリタンクで約18個分の水を確保できます。
ハウスメーカー各社は、太陽光発電システム、家庭用蓄電池、エネファームまたはエコキュートなどを組み合わせて、災害後に停電や断水した場合でも最低限の電気や生活用水を確保して、災害対策ができるような提案をしているのです。
ほかにもある、多様なレジリエンス対策
説明した設備のほかにも、ハウスメーカー各社が多様なレジリエンス対策を用意しています。具体的にいくつかの事例を紹介しましょう。
大和ハウス工業では、太陽光発電システムとエネファームでつくった電気を蓄電池にためることで雨天でも約10日間分の電気や給湯が確保できる「全天候型3電池連携システム」を提供しています。太陽光発電は、停電が起こりやすい台風や豪雨など悪天候のときはあまり使えません。一方、エネファームは停電時でもガス・水道が供給されていれば最長8日間発電できますが、消費量の大きな家電を使うことはできません。それぞれのメリット・デメリットをうまく組み合わせて、停電時にこの3つの電池を効率よく使うのが、全天候型3電池連携システムです。
トヨタホームなどの各社は、トヨタ自動車の電動車を蓄電池(または発電システム)の代わりにして電気を供給する、「クルマde給電」を提案しています。カーボンニュートラルが求められる時代なので、電動車の活用は今後さらに増えるかもしれません。
飲み水の確保については、パナソニックホームズが、4人家族なら約3⽇分の飲料⽔を確保できる貯水タンクを提案しているほか、生活用水として雨水をためられるレインポットなども提案しています。
また、ヤマダホームズは、「水害対策仕様」の住まいを提案しています。太陽光発電や貯水タンクに加え、家の周囲に「止水板」を設置して浸水を食い止めたり、災害時の脱出・救出用のバルコニーを設置したりといった提案をしています。
住宅の設備で何をカバーしたいか考えて、家庭ごとの備えを
紹介してきたさまざまな設備などを活用することで、在宅避難を可能にする環境を整えることができます。だからといって、こうした設備をすべて備えなければいけない、というわけではありません。家庭の事情に応じて、何にどの程度の期間で備えたいかをよく考えて、必要と思うものを選べばよいでしょう。
設備をそろえるにはコストもかかりますが、これらの設備は在宅避難の際に役立つだけでなく、日常生活において節電や省エネの効果があるものなので、トータルでコストパフォーマンスを考えることをおススメします。
また、在宅避難ができる環境に加えて、飲料水や食料品、医薬品、非常用の備品などを常に備蓄しておくことも大切です。住宅の中に備蓄用の収納場所も確保しておくとよいでしょう。
在宅避難できる家にするには、災害時にどういった生活になるかのリスクをイメージして、家庭ごとに具体的な備え方を検討することが大切です。そして、設備なのか備蓄品なのかを選択して、いざというときにあわてずに生活できるようにしておきましょう。
執筆者:山本 久美子(住宅ジャーナリスト)