不動産投資に失敗しがちな人が見逃している重要なポイントとは?(写真:hanack/PIXTA)

老後2000万円問題やコロナショックでの先行き不透明感から、富裕層はもとより一般会社員に至るまで、幅広い方たちが「資産運用」に関心を寄せています。そうした中で、改めて注目を集めているのが、「不動産投資」です。しかし、不動産会社のセールストークを聞いて始めたものの、数年後の収支がマイナスになり、後悔してしまうケースが後を絶ちません。

収益不動産を活用した資産運用コンサルティングを手掛ける大和財託を経営する藤原正明氏は、著書『収益性と節税を最大化させる不動産投資の成功法則』の中で「不動産投資には『成功法則』がある」と述べています。今回の記事では不動産投資で失敗しないために「成功法則」の1つである、利回りについて解説してもらいました。

「表面利回り」に惑わされてはいけない

株やFXなどと比較して、長期的に安定した収入を得やすいローリスクな投資といわれる不動産投資。しかし、収益物件なら何でもよいかというと、もちろんそんなことはありません。

収益性は問題ないと考えて物件を購入したものの、運営費用や修繕費、税金などのコストが想定以上にかかり、最終的な手残りが雀の涙程度というケースも。賃料収入だけでは銀行の返済や諸費用を負担できず、足りない分を自身の財布から補填している人だっています。投資を始めたはずが、これでは本末転倒です。

それでは、不動産投資のリスクを極力抑えて、長期的かつ安定的に収入を得るためにはどうすればよいのでしょうか。

まず、理解していただきたいのは、物件の収益力を図る代表的な指標として知られる「表面利回り」についてです。

「表面利回りが高いと買ってよい」という見方をする投資家が多いのですが、正しいとはいえません。昨今の不動産投資ブームの影響で、指標の本当の意味、本来見るべき値を理解しないまま投資をする方がかなり多く、人生が狂ってしまった方を多く見てきました。

投資家の方々が物件を検討する際、まず意識を向ける「利回り」ですが、ポータルサイトや物件資料に掲載されている数字は、正確には「表面利回り」を指します。

表面利回り【%】=年間満室想定賃料÷物件金額

これは、年間の満室想定賃料を単純に物件金額で除算した数値だというのは周知の通りです。日本国内の収益物件の利回りは、この表面利回りで表示されるケースが一般的なので、投資判断をする際に第一に確認する指標として意味を持っています。

ただし、この数字は物件の正確な利回りを表していません。保有期間中に年間を通じて満室を維持できることはなく、空室や滞納が発生するため、年間満室想定賃料を実際の運用時に期待するのは現実的ではないのです。表面利回りに惑わされてしまうと、その利回りで投資できていると勘違いをおこし、結果まったく儲からない物件を購入しかねません。

本当の利回り、収益力を把握するには?

では、表面利回りを参考にしながらも、その物件の収益力をより具体的に把握するためにはどうすればよいのでしょうか。

まず、年間を通じて常に満室ということはあまりなく、また賃料滞納が発生することもあるため、その損失分を考慮した賃料を求める必要があります。これを「実効総収入」と定義づけます。

実効総収入=年間満室想定賃料−空室・滞納損失

この空室・滞納損失をどの程度見ておくとよいかですが、物件により異なりますが新築なら年間満室想定賃料の2〜5%、中古なら5〜10%くらいの想定でよいでしょう。入居率が高い募集方法が取れる場合は、これより小さい値でもよい場合もあります。

さらに、物件を保有しているとさまざまな「運営費用(ランニングコスト)」が発生します。具体的には、「管理会社に支払う管理手数料」「建物管理費用」「水道光熱費」「固都税(固定資産税・都市計画税)」「原状回復費用」「修繕費用」などが挙げられます。

いくら実効総収入が高くても、運営費用が過大に発生する物件だった場合、手残りは少なくなります。よって、先に求めた実効総収入から運営費用を控除すれば、正確な収入を導き出せます。これを「純営業収益(NOI:Net Operating Income)」といいます。

純営業収益(NOI)=実効総収入−運営費用

このNOIが物件の本当の収益力を表しています。捉え方としては、物件を現金購入した場合の、投資家が受け取る「税引前キャッシュフロー(以下、税引前CF)」となります。税金を支払う前の手取り収入ということです。実際は、多くの投資家は融資を受けて物件を購入しますので、最終的な税引前CFは金融機関への元金と利息の返済金額を引いた金額です。

税引前CF=NOI−元利返済額

不動産投資・賃貸経営を始めるにあたり、最低限ここまでは収支計算をしなければなりません。そして、ここから所得税・住民税・法人税などを引いたものが、「税引後キャッシュフロー(以下、税引後CF)」です。

税引後CF=税引前CF−納税金額

ここまでの解説で、年間満室想定賃料をベースにした表面利回りという指標では投資利回りの本質を表していないことがわかります。

一番厳しい条件で導き出した利回り

では、意味のある本当の利回りはどういったものか。それは、NOIを物件金額に購入諸費用を加えた総投資金額で除算して求められる「総収益率(FCR:Free and Clear Return)」です。

総収益率(FCR)【%】=NOI÷総投資金額(物件金額+購入諸費用)

ポイントは、物件金額で除算するのではなく、「購入時に投下したすべての金額」で除算することです。FCRは大雑把に「ネット利回り」ともいわれているのでご存じの方も多いのではないでしょうか(正確にはネット利回りは、NOIを物件金額で除した値と定義されるので厳密には異なります)。このFCRが一番厳しい条件で導き出された利回りであり、この数値で投資判断することが大前提となります。


冒頭にお話しした不動産投資がローリスクといわれるのは、適切な投資判断を前提としていることを忘れてはいけません。間違った購入の仕方をすれば、ハイリスクに豹変します。

今までお話ししてきた、利回りの話を知らないと、「そもそも物件の選定が間違ってしまう」、「表面利回りなど上辺の情報に騙される」、「セールストークにのせられて、安易に物件を購入してしまう」といった事態が発生してしまいます。

不動産投資で重要なのは、正確なシミュレーションを行い、利益が出るかをシビアに見定めることです。不動産投資を考えている方は、今回ご紹介した指標も合わせながら検討してみてください。皆さんの投資がうまくいくことを願っています。