「バンギャ=メンヘラ」か、本人たちに聞いてみたら清々しい結論にたどり着いた件
バンドギャル、通称「バンギャ」という生き物をご存じだろうか。「V系、ヴィジュアル系バンドにハマる女子」を指した言葉だ。
地下のライブハウスで野生のバンギャに遭遇したら、そっと会釈してその場を離れたほうがいい。なぜなら、バンギャの多くは闇を抱えており、近づいたらあっという間に飲み込まれるであろうからだ。
今回は「バンギャは、なぜ病むのか」について調査してみた。筆者はV系バンドのライブに参戦し、小動物のように震えながらファンの方におそるおそる声をかけ、座談会を催していただいた。バンギャからの生の声も、ほぼ無編集でお届けしてみよう。
ネオV系の時代に見た「バンギャ」とは?
初めてV系のライブを観たあの光景は、はっきりと覚えている。「ネオヴィジュアル系ブーム」真っただなかの2000年代初頭。ライブハウスのほこりっぽい地下への階段を下りて受付でドリンク代を払い、ドアを開けた瞬間に「この世の終わり」かと思った。
棘(とげ)だらけのバラが巻かれたハンドマイクを持つボーカル。舞うことを優先するあまり、運指が追いついていないギタリスト。バスドラムにはミッフィーちゃんのぬいぐるみが貼りつけられており、踏むたびに大きく痙攣(けいれん)している。
そして何よりフロアには、手をひらひらさせながら踊る50人ほどの若い女性たち。いま考えると、あれが「バンギャ」だったわけだ。ガラケー並みに身体を折り畳みながらヘッドバンディングをする彼女たちは、まだ中学生の私には刺激が強すぎた。
そんな'00年代のバンギャのイメージといえば「メンヘラ」(メンタルヘルスに何らかの問題を抱えている人を指す造語)が真っ先に挙がる。
では、なぜバンギャからメンヘラを想像するのだろう。インタビューの前に、個人的に予想してみた。
1. 格好が奇抜だから
バンギャの服は基本的に黒い。また、そこに原色を組み合わせることに躊躇(ちゅうちょ)がない。さらに、人の4倍は身体に穴を開けている。耳だけではなく鼻、口、へそなどに数十ものピアスがあることも。また、ボディステッチ(針と糸を用いて身体に模様などを縫いつける行為)をしている率も高く、手のひらに六芒星(ろくぼくせい)を隠していたりする。
こうした独特な格好から、なんとなくメンヘラを連想するのかもしれない。
2. なんかボロボロだから
バンギャにマッチョはいない。痩せまくっている。また、なぜか治療中の人が多い。視力が2.0あっても眼帯を付けたがるし、無傷にかかわらず包帯を巻くのも好きである。手足に包帯を巻きつつ、ライブ終わりに飲みに行く。
肉体的な不健康さから、精神面の不健康さを連想するのかもしれない。
3. 連帯感が強く孤独を嫌うから
バンギャの結束力はヌーの群れくらい強い。ライブで一緒に汗をかいて健闘を称え合い、友人がコミュニティから離れると異常なほど寂しがる。ただし、自分からリーダーシップを取る人間はほとんどいない。もはやペンギンに近い。同じ氷山にいながら、ファーストペンギンを待つスタイルだ。
こうした孤独を異常なほど恐れる姿勢から、メンヘラを連想するのかもしれない。
しかしステレオタイプというものは膨れるにつれて、だんだんと実体から離れてしまう。ウワサが広がるようなもので、本人たちにとっては「そんなことないわい(笑)」と感じることもあるだろう。
ということで某日、当事者に話を聞くために、V系のイベント終わりにライブハウスから出てくる人に声をかけることにした。すると、例に漏れず個性的な服装をした女子4人組が「やることないし、いいよ〜」ってことでインタビューを受けてくれた。
4人中2人はカラコンによって黒目がなく、店員さんが一瞬「おやおや。ゾンビのご来店だ」みたいな顔をしたのが印象的であった。
ステレオタイプを本人たちに聞いてみた
【インタビュイーの紹介】
1. アイダさん(20歳、好きなバンド『己龍』、職業:キャバ嬢)
2. ハラダさん(19歳、好きなバンド『己龍』、職業:居酒屋店員)
3. ミヤタさん(20歳、好きなバンド『R指定』、職業:キャバ嬢)
4. タカクラさん(21歳、好きなバンド『NOGOD』、職業:一般事務)
――今日はありがとうございます。みなさんがV系にハマったきっかけから伺えればと。いつごろからバンギャデビューしましたか?
ア:え〜、いつごろ〜? 気づいたら? みたいな感じ。
ミ:やばい(笑)。マジで「気づいたら」だよね。
タ:あたしは(最初にハマったバンドが)『ナイトメア』だけどね。高校とか?
ミ:古っ! やばい。
ハ:あ〜、でもナイトメアは聞いてた。(主題歌だった)『デスノート』観てたから。で 、『プラスチックツリー』を聞き出したのは覚えてる。
――みんな高校生くらいから……?
ア:たぶん。16(歳)くらいじゃね?
――V系のどこが好きだったんですか?
ミ:いや、もう顔だよね。尊い。顔が尊い。顔ファンって言っちゃったら叩かれそうだけど(笑)。
ア:いや、でもやっぱ、見た目の尊さは大事じゃない?
タ:あと歌詞がいい。かわいい。
ハ:ファッションとかもおしゃれでかわいいよな。
――かわいい?
タ:え、なんか、かわいくない?
ア:めっちゃわかる。かわいいし美しい。
ミ:なんだろ。「病みかわ」なんだよね。
――服装とか世界観をマネしたくなる?
ハ:したくなるっていうか、もう推しになりきるよね。
――なるほど。
ミ:あと(音楽性が)重たくてノレるからハマれる。なんかストレス発散できる……。超楽しい。ライブも独特なノリじゃない?
ア:独特だよね(笑)。唯一無二感がいい。
タ:ほんとそれね。V系は唯一無二感が強め。
――他の世界にはないのが好き?
タ:うん。非日常感というか。好きな格好してても許されるし。ひたすら楽しいよね。毎日がハロウィンって感じ。
ア:間違いない。バンギャって、そういうもんだしね。この集まり自体が唯一無二のコミュニティ。
――もともとバンギャになる前からアイデンティティというか、個性を強調したかった?
ミ:目立つの好きって感じ?
ア:あ、でも私は女子高だったけど、目立つタイプじゃなかった(笑)。むしろ陰キャ寄りだったけど、量産型にはなりたくなかったって感じ。
――バンギャになる前は病みがちだった?
ミ:それはそう。当時の私、メンヘラだったなぁ〜って思う。
タ:うん。メンヘラだった〜。けっこう年中、死にたいと思ってた。
――なるほど。じゃあ本題なんですけど、世間がバンギャに抱くイメージって、個人的にはこの3つがあると思っていて……。みなさん的にどうですか?
ステレオタイプは果たして正解?
1. 格好が奇抜
ア:ウケる(笑)。黒は多いよね。
ミ:黒は多い(笑)。今の格好を観てもらえればって感じ。私は推しになりたすぎて、好きすぎて(同系統の)服を選ぶし、バンギャ専門のショップとかで買うから、自然とこうなる。
ハ:ピアスとかボディステッチとかは、確かに多い(笑)。でも全員が変な格好っていうか、奇抜な格好? しているわけじゃないよね。
タ:普通に量産型の服を着ている子もいるしね。ピアスは……私は推しにハマる前からけっこう開けてたかも。
――ピアスは不意に開けたくなるもの?
タ:結構、病んでるときにするかも。ボディステッチも。
ハ・ミ・ア:わかる。
2. なんかボロボロ
ア:確かにマッチョは見たことない(笑)。てか、普通に生きててマッチョな女とか見なくね?
タ:太っている人はたまにいる(笑)。バンギャって痩せてるか太ってるか、みたいな(笑)。あんまり普通の体形の人はいない。
――4人ともめっちゃ細いですよね。ダイエットとかされてるんですか?
タ:てか、太るの嫌じゃない? 普通に。
ミ:沼りたくない(醜くなりたくない)。
ハ:食べすぎたら普通に、家に帰ってから吐くときあるわ(笑)。
――眼帯とか包帯とかはどうですか?
ア:かわいいし、イベントがなくても普通につける。「病みかわ」はバンギャだったらみんな好き。
――「病みかわ」の良さを教えてください。
ミ:なんだろ。考えたことなかった(笑)。
――なんか助けてあげたくなる感じ? か弱い感じですか?
ミ:あ〜、たぶんそんな感じ。守ってあげたさ。
ア:病んでる子って、かわいいじゃん? V系ってバンドマンのほうが基本みんな病んでるから(笑)。私が推さなきゃっていう使命感(笑)。
3. 連帯感が強く孤独を嫌う
ハ:う〜ん、微妙。どっちかっていうと、孤独な人が多いと思う。
ミ:わかる。ぼっちは嫌だけど、ぼっちになりがち。でもライブ中のチームワークはやばい。
タ:たぶん、みんなバンギャのコミュニティにしか心を開けないんだよね。親とかに言えないし、でも、孤独は嫌だよね。
――ぶっちゃけバンギャって、メンヘラ率高いんですか?
ア:間違いなくメンヘラ多い(笑)。あとキャバ嬢も多い(笑)。
――ちなみにみなさんは、どんなときに病みますか?
ア:キャバやってるときは病むなぁ。「大丈夫かあたし」って(笑)。
ミ:わかるわそれ。あと家に帰ってから1人のときとかやばい。
ハ:みんなと別れて帰ったあとは病みがちだよね。で、暇だしピアス開けるか、みたいな(笑)。
タ:あたしは肌荒れしたときとか。「死んだー」ってなるけど。
ミ:あ〜それもある。食べちゃったときとか、自己嫌悪ハンパない。マジで吐けるものなくなるまで吐く(笑)。
――逆に快感を覚えるときは?
タ:本命と絡めるときじゃね? チェキ撮ったときとか。
ミ:本命のためにお金を使うときは快感。でも、家帰ったら病むっていうね(笑)。
ア:あ、バンギャってホス狂(ホスト狂い)になる人も多い気がするんだけど、たぶん推しにお金を使うときに快感を覚えるのはそれに近い。
――なるほど。みなさん上がれる(ファンを辞められる)ものなら上がりたい?
ア:まだいいかなぁー、って思う。
タ:あたしはマジでそろそろ上がりたい!
ミ:けど、上がれないんでしょ?
タ:うん(笑)。結局、楽しいんだよね。
バンギャは“病み”より“楽しみ”が勝つ
本人たちに聞いてわかったのは、先述した「奇抜・ボロボロ」は、まぁほぼ事実であろうということ。しかし「孤独を嫌う」は半分正解で、おそらく、孤独を感じているものの、そのうえで孤独な自分を愛しているのだろう、ということだ。
また、無意識に「メンヘラであり続けたい」と願っているのかもしれないという気もした。彼女たちのテンションがMAXになったのは、ラストの「どんなときに病む?」という話題になったとき。「私は病んでいる」と宣言することに快感を覚えている印象を受けた。
ただ「メンヘラである」という宣言にそこまでマイナスなイメージを持っている様子ではなかった。昔、2ちゃんねるでメンタルヘルス板が流行ったころは、メンヘラ=「危ないやつ」というイメージだったが、いまではかなりフランクな言葉になっているのだろう。
ではV系のどんな部分に、バンギャの“メンヘラセンサー”は反応するのか。
1つは「美しさや不安定さ」だろう。彼女らにはおそらく「外見のコンプレックス」がある。半分拒食症のようになっているのも、ニキビができて病むのも……そして何より、V系に熱中するのも「美しいものに固執する」というマインドがベースにある。
2つ目が「自己承認欲求」だろう。もともと「病めば周りが心配してくれる」という歪んだ成功体験がある。そこにバンドマンという美しい存在から認められる、というさらなる成功体験が発生し、虜(とりこ)になってしまう。さらに、貢ぐことで存在を認められる。なので貢ぐ。そして病む。
3つ目が「バンドマン自体の弱さや危うさ」。センサーが反応する対象としてはこれがもっともも大きそうだ。何よりバンドマン自体がメンヘラの猛者だ。メンヘラを存分にアピールする世界観や楽曲、歌詞などが特徴である。すると、もともとメンヘラだったバンギャは、まるでエサを与えられた鯉のように集まるわけである。
今回の調査に限っていえば、「バンギャ=メンヘラ」はどうやら確からしい。しかし少なくとも、私の前で話をしていた彼女たちは、白目のカラコンを入れたまま、とても生き生きと自分たちの生きざまを話していた。
彼女たちにも“病み期”はあることだろう。しかし、バンギャのコミュニティに入ったから出会えた友人もいるだろうし、現場で首が取れるほどヘッドバンディングをすることに快感を覚えているはず。「V系バンドを通して、バンギャたちはメンタルを病む以上に楽しみを覚えているのだろうな」と感じたのが正直なところだ。
帰り際に「じゃあね〜!」なんて言い残し、歌舞伎町の通りを闊歩(かっぽ)する奇抜な4人組の後ろ姿には、圧倒的な多幸感があった。そんな彼女たちを見ていると、「メンヘラ」よりも「好きなことを追い続ける素敵なコミュニティ」といったほうが「バンギャ」を表す言葉にふさわしいと思えた。
(取材・文/ジュウ・ショ)
【PROFILE】
ジュウ・ショ ◎アート・カルチャーライター。大学を卒業後、編集プロダクションに就職。フリーランスとしてサブカル系、アート系Webメディアなどの立ち上げ・運営を経験。コンセプトは「カルチャーを知ると、昨日より作品がおもしろくなる」。美術・文学・アニメ・マンガ・音楽など、堅苦しく書かれがちな話を、深くたのしく伝えていく。note→https://note.com/jusho