【コロナ離婚】家事はすべて妻任せ、「外飲みで午前様」をやめない夫の呆れた“理屈”
行政書士・ファイナンシャルプランナーをしながら男女問題研究家としてトラブル相談を受けている露木幸彦さん。今回はコロナ禍で夫に幻滅し、離婚を選択した妻の実例を紹介します。
コロナで明らかになる配偶者の“本性”
コロナ禍において何が試されているのかわかりますか? 感染対策の意識の高さはもちろんですが、現在は夫婦の絆も試されているのではないでしょうか。筆者は行政書士・ファイナンシャルプランナーとして夫婦の相談を行っていますが、相談の現場でそう感じる場面に多々、遭遇します。
自粛による不満、減給による不遇、そして先行きに対する不安。経済的、肉体的、そして精神的に苦しい状況で最後まで乗り切るには、最も身近な存在……夫(妻)の協力が必須です。しかし、コロナによって経験するのは人生で初めての場面ばかり。そこで相手の本性が明らかになることが多いと感じます。
今までは価値観や考え方がある程度同じで性格も合うと思っていたのに、コロナ以降、全く話がかみ合わなくなったら、どうでしょうか? そしてもし、配偶者がコソコソと悪事を行い、「バレたらどうしよう」とビクビクしていたり、バレた場合に嘘で嘘を塗り固めるたりするような小心者なら……まだ救いようがあるでしょう。
しかし、今回の相談者・香織さん(42歳)の夫は何も悪いと思っていないので極めて厄介でした。香織さんは「コロナで大変なときなのに……夫には幻滅しました。あれがあの人の本性なんです!」と絶望しますが、何があったのでしょうか?
ひとり暮らしの長かったアラフォー同士の結婚
筆者の事務所は神奈川県の大磯町。都内在住の香織さんに「こっちに出てきてほしい」と頼まれたのですが、2月上旬はまだ緊急事態宣言中。筆者は外出自粛を理由に対面を避け、やむを得ず、リモートで相談にのることに。香織さんの怒りはすさまじく、風呂上りでもないのに赤く染まった顔からは湯気が出そうなほどでした。
結婚3年目の香織さんは動物病院で働く動物看護師で平日休み。一方の夫(44歳)の勤務先は出版の編集プロダクションで土日休み。社会人になってから20年近く経過し、結婚した2人。長年、ひとり暮らしだった独身同士が一緒に住むのだから些細なことが目につくもの。夫は「夕飯はまた総菜か」「言われる前に片づけようよ」「天気予報をチェックしないから服がずぶぬれじゃないか」と小言を連発し、香織さんはマイペースな夫に振り回されるばかり。
そんな夫婦に襲ってきたのが新型コロナウイルスでした。香織さんの勤務先はペットの飼い主にマスクの着用や検温、消毒を頼んだり、順番まで病院内ではなく外や車内で待つように説明したり、コロナ前より負担が増えたと言います。
一方の夫はどうでしょうか? 昨年の3月上旬にはテレワークへ移行。電車で会社へ出勤せず、最低限の仕事を自宅のパソコンで行うだけ。コロナで負担が増加した香織さんと、軽減された夫。しかし、夫は相変わらず家事を手伝おうとはしませんでした。終日、自宅待機の夫は体力や時間、やる気を持て余しているのに。
「平日はともかく週末は家にいるんだから家事をやってほしいですよ。くたくたで帰ってきたのに、昨日の洗濯物が山積みで残っているんです!」
そんなふうに香織さんは不満をぶつけますが、2人分の食事を作り、洗濯や掃除を担う香織さんの姿は夫の目には入りません。なぜなら、夫は1人でVRゲームに興じているから。
こうしてコロナ禍で夫婦関係は次第に冷えていったのですが、まだ香織さんが離婚したいと思ったわけではありません。ほとんど会話をせず、お互いが自室にこもり、スキンシップは全くない生活。それでも平行線のまま、のらりくらりと結婚生活が続くだろう。夫の異常とも言える性格をそれほど深刻に考えていなかったのです。
夫が深夜2時にベロベロに酔っぱらって帰宅
夫婦の関係を完全に切り裂く出来事が起こったのは、昨年12月上旬。
現在、都内に発令されている2度目の緊急事態宣言下では、アルコールを提供する飲食店に対して20時以降の営業自粛を求めており、1日あたり6万円の協力金が支給されます。一方、12月当時は「22時以降の営業自粛、1日あたり4万円」。細部に違いこそあれ、時短営業を要請していたのは今と同じです。
大半の飲食店は自粛に協力していますが、一部には協力せず、22時以降も営業を続け、アルコールを提供している飲食店も存在したのは事実です。香織さんの夫が通っていたのは後者で、しかも接待のサービスを行っていました。当時は終電の繰り上げが行われる前のタイミング。夫は夜中の2時にベロベロに酔っぱらって帰宅したのです。
筆者は内心、「酔っ払いに向かって正論を吐いたところで聞き入れないだろう」と思いつつも香織さんの話に耳を傾けました。その日、香織さんは夫に対して思わず、こう言い放ったそうです。「あんたの行動はおかしくない? みんなが自粛しているのに! 私にコロナをうつして万が一のことがあったら困るのはあなたでしょ?」と。
昨年2月に蔓延が始まった新型コロナウイルス。当初はわからないことばかりのブラックボックスでしたが、年末には徐々に解明されつつありました。ウイルスが飛散するのはマスク等をつけず、飲み食いをしたり、大きな声で話したり、歌ったりする場面だということ。接待を伴う飲食店はそれらに該当しており、感染のリスクが極めて高いので香織さんの言うことも一理あります。
自粛に協力する店を“怠慢な店”と決めつけ
しかし、夫は感染リスクの高低など一切無視し、こう反論してきたのです。「お前みたいな馬鹿と一緒にするなよ。俺はああいう店を応援したいんだ!」と。
夫いわく自粛に協力するのは協力金目当ての怠慢な店。協力金を当てにせず、自らの売上で経営しようとする店のほうが偉い。夫は後者の店の売上に貢献したい。そんな純粋な気持ちで通いつめたと言うのです。夫が協力店を目の敵にするには自分が納めた税金がそれらの店に配られていると思っているからで、協力金の原資が自分たちの税金だと気づかない香織さんを「馬鹿」呼ばわりしたというわけ。「あいつらは金食い虫だよ、自粛長者なんて許せない! 自分のケツくらい自分でふけよな!!」と凄むばかり。
論点のすり替えも甚だしいですが、結局、香織さんに言い返す余裕はなく、言葉を発するのは夫ばかり。夫は「お前はアホだからわからないだろうけどさ!」と捨て台詞を吐くと、そのまま寝入ってしまったのです。
もし、香織さんの指摘に対して夫が「ヤバい!」と驚き、とっさに思いついた言い訳が「税金泥棒」というメチャクチャな持論だとしたら……夫は多少なりとも、悪いと感じているのでしょう。まだ最低限の良心を失っていないと前向きにとらえることも可能でしょうが、夫は本気で「税金泥棒」だと思っているようなので香織さんの心の持ちようでどうにかなるわけではありません。
夫は「いないほうがいい存在」だと気づく
コロナをきっかけに夫婦の絆が強まるのはコロナ対策を話し合い、意見を言い、結論を出すことができた夫婦だけです。香織さんのように話が通じず、何を考えているかわからず、喧嘩してばかりだとしたら、どうでしょうか? ただでさえ弱かった絆が完全に消えてしまっても不思議ではないでしょう。
夫の主張の中には「妻に感染させないように」という配慮が入り込む隙間はありません。なぜなら、香織さんは家庭内感染の予防のほうが大事ですが、夫は協力金支給の是非のほうが大事なのだから。香織さんがいくら言葉を尽くしても、夫の中の優先順位を入れ替えることは不可能でしょう。コロナによって夫はあまりにも自分勝手で独善的で、そして差別的な人間だということが明らかになったのです。夫の最終学歴は大学で、香織さんは専門学校ですが、ともすると夫は最初から香織さんを見下していた節もあります。
「もう終わりだと思いました。コロナが落ち着いたら離婚しようと思っています」
老若男女、年齢、職業を問わず、コロナウイルスには死亡リスクがあります。部屋の中で引きこもっているならともかく、香織さんはバスで通勤し、動物病院で働き、スーパーで買い物をしているので、感染する可能性は常にあります。思わぬ形で命を落とす可能性があることを踏まえ、筆者はこう投げかけました。「限られた人生をどのようにしたいですか?」と。そうすると香織さんは「自分らしく生きたいです!」と言い、ようやく夫が「いないほうがいい存在」だと気づいたのです。
感染拡大とともに離婚危機が多発
もし香織さんが湯沸し器のように頭に血がのぼったのなら、筆者も「もう少し冷静になったほうが」と翻意を促したでしょう。しかし、外飲み常習の件はあくまできっかけに過ぎず、積もり積もった不満が限界を超えた結果なので、筆者は香織さんの背中を押しました。香織さんは夫がいない人生……つまり、離婚を選択したのです。
離婚の原因が借金や不倫、暴力だとしたら、話は別です。何もせずに静観していると大変なことになります。例えば、カードローンの未返済分を消費者金融で借り入れしたり、不倫相手が「彼と別れてちょうだい!」と乗り込んで来たり、物ではなく人に八つ当たりして怪我をしたり……目の前の状況は日に日に悪化の一途を辿るでしょう。
しかし、今回の離婚原因は広い意味で性格の不一致です。明日にでも夫が想像だにしない悪事を仕出かす可能性は低いです。今すぐ離婚しなければならない緊急性は低いでしょう。そのため、不要不急の離婚です。コロナ禍において不要不急の手続きは後回しにする傾向があります。筆者の目には「なぜ今のタイミングなのか」という必然性が薄いように映りました。実際のところ、「外飲みで午前様」がここまで強く糾弾されるのはコロナ禍だからです。コロナ前はよほど度が過ぎない限り、世の多くの妻たちは見て見ぬふりをしていたはずです。
コロナショックが起こらなければ、なんだかんだで結婚生活が続いていたかもしれない。そう思いをはせると香織さん夫婦は「コロナ離婚」に該当するでしょう。
筆者の元にコロナ離婚の相談が寄せられ始めたのは昨年4、5月の緊急事態宣言のとき。そして宣言解除から11月までの間、この手の相談は減りつつありました。そして年末年始から2回目の緊急事態宣言にかけて再度、増加しています。つまり、コロナウイルスの感染者数とコロナ離婚の相談者数は比例しているのです。残念ながら、コロナウイルスの終息には今しばらく時間がかかりそうです。それはコロナ離婚の危機が続くことを意味するので、思い当たる節がある人は注意してください。
露木幸彦(つゆき・ゆきひこ)
1980年12月24日生まれ。國學院大學法学部卒。行政書士、ファイナンシャルプランナー。金融機関の融資担当時代は住宅ローンのトップセールス。男の離婚に特化して、行政書士事務所を開業。開業から6年間で有料相談件数7000件、公式サイト「離婚サポートnet」の会員数は6300人を突破し、業界で最大規模に成長させる。新聞やウェブメディアで執筆多数。著書に『男の離婚ケイカク クソ嫁からは逃げたもん勝ち なる早で! ! ! ! ! 慰謝料・親権・養育費・財産分与・不倫・調停』(主婦と生活社)など。
公式サイト http://www.tuyuki-office.jp/