▲銀河団「HSC J023336-053022」の多波長での観測結果を示した画像。青色:ダークマターの分布、緑色:X線による高温ガスの分布、赤色:電波による高温・高圧なガスの分布を示す。背景はすばる望遠鏡が撮影した画像(Credit: GBT/NSF/NAOJ/HSC-SSP/ESA/XMM-Newton/XXL survey consortium)


広島大学の岡部信広氏らの研究グループは、「くじら座」の方向およそ40億光年先にある銀河団「HSC J023336-053022(XLSSC 105)」を観測した結果、銀河団の衝突によって銀河団のガスが摂氏4億度という超高温に加熱されている様子が明らかになったとする研究成果を発表しました。


数百〜数千の銀河を含む銀河団には、高温の銀河団ガスやダークマター(暗黒物質)が存在しています。発表によると、銀河団ガスは銀河団どうしの大規模な衝突によって摂氏数億度もの超高温ガスになることが理論上予想されていたものの、そのような超高温のガスを実際に観測することは最先端のX線望遠鏡でも困難だったといいます。


そこで研究グループは衝突を起こしている銀河団HSC J023336-053022に注目し、国立天文台ハワイ観測所の「すばる望遠鏡」、ESA(欧州宇宙機関)のX線観測衛星「XMM-Newton」、アメリカ・グリーンバンク天文台にある直径100mの電波望遠鏡「ロバート・バード・グリーンバンク望遠鏡」による可視光線、X線、電波での多波長観測を行いました。


前述のように銀河団の超高温ガスはX線の波長でも捉えることが難しいとされていますが、研究グループは最新の受信機を備えたグリーンバンク天文台の電波望遠鏡による電波の波長での観測データをXMM-Newtonの観測データと組み合わせることで、X線では見えない超高温ガスの空間分布を調べることに成功しました。


いっぽう、すばる望遠鏡による可視光線の観測では、重力レンズ効果(※)を利用してダークマターの分布を調べることができます。この銀河団の場合ダークマターは2つの塊に分かれていて、銀河の分布もそれぞれのダークマターの塊に集中するように分布しており、銀河団の内部で大きな衝突が起きていることがわかるといいます。


※…光源となる遠方の天体と地球の間にある別の銀河や銀河団の重力によって、光源の像がゆがんで見える現象のこと


研究グループによる観測データの分析の結果、衝突によって約4000万度の高温ガスが4億度の超高温に加熱されていることが明らかになったとされています。衝突によるガスの加熱は、冒頭の画像において2つのダークマターの塊(青色)周辺のガスが緑色から赤色に変化していく様子として示されています。


研究を率いた岡部氏は、銀河団の重力レンズ効果で測定された質量とX線や電波での追加観測の結果を比較することで、「宇宙の構造形成をより詳しく理解したいと考えています」とコメントしています。


 


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Image Credit: GBT/NSF/NAOJ/HSC-SSP/ESA/XMM-Newton/XXL survey consortium
Source: 国立天文台
文/松村武宏