矢崎滋、『白鶴まる』CMでおなじみの俳優が東北で送る“哀愁に満ちた余生”
往年の名作ドラマ再放送がちょっとしたブームになっている中、ひそかに人気を集めているのが今年3月からNHKBSでアンコール放送されている『はね駒』。女性記者・磯村春子の半生がモデルとなっている'86年放送の朝ドラだ。主演を斉藤由貴が務め、渡辺謙、小林稔侍、沢田研二、今は亡き樹木希林さんらが脇を固めたこの作品は、最高視聴率49・7%を叩き出した。
【写真】ふたり並んで外出し…女性とデート!? をしている矢崎滋(73)
SNS上には《懐かしい》《みんな若い》とオールドファンからの感想があふれているのだが、それらにまじってこんな声が─。
《『はね駒』観てたら矢崎滋さんが出てたの。そういえば最近お顔みないなぁ》《矢崎滋さん、どうされてるんだろう》
矢崎滋─細い目に丸メガネがトレードマークの俳優だ。東大中退で演劇の道に入り、劇団四季を経て'80〜'00年代にかけて俳優として活躍。のみならず、『クイズ日本人の質問』(NHK)、『さんまのSUPERからくりTV』(TBS系)、『なるほど!ザ・ワールド』(フジテレビ系)といったクイズ番組などでも軽妙なトークを披露するなど、多数のレギュラーを抱える売れっ子だった。
「それに、矢崎さんと言えば『白鶴まる』のCMでしょう。全国各地の港を訪ねては働く人たちと一緒に料理を食べて、最後にみんなで“まるっ”とポーズをとるアレ(笑)。20年以上も出演していました」(ドラマ制作会社関係者)
JRの駅しかない田舎町で“ホテル生活”
だが“代表作”とも言えるCMを'06年に突如降板。CM自体がそれまでのイメージから一新されたこともあり、当時、降板理由としてさまざまな憶測が流れた。“同性愛をカミングアウトして降板させられた”“妻子を捨て男性パートナーと生活を始めた”というのも、そうした憶測話のひとつだ。今もネットではまことしやかに囁かれているが、真偽は定かではない。
ただ、ひとつだけ確かなのは、この降板を境に、矢崎の露出がガクンと減ってしまったということ。'14年のドラマ出演を最後に、矢崎は表立った仕事をしていない。
「それどころか、誰も連絡がつかない状態なんですよ。誰に聞いても彼がどこにいるのか知らない。矢崎さんが主宰していた劇団兼事務所も今年初めに解散手続きがとられたそうだし」(舞台関係者)
その劇団『東京芝居倶楽部』に、かつて所属していた俳優の松沢英明も、
「最後に矢崎さんに会ったのは10年くらい前。それっきりです。何年か前に携帯に電話したら、番号が変わってて別の人のだったから……」
近しい関係者すらも行方を知らない状態─。
その矢崎は現在、東京から遠く離れた場所で暮らしていた。消息を教えてくれたのは矢崎の古い知人だ。
「矢崎君は、もう20年近く、JRの駅しかないような田舎町のホテルで暮らしていて」
降板や離婚をめぐる噂に……
9月3日、東北地方にあるその町を訪ねた。駅の近くにぽつんと立つ簡素なビジネスホテル。お世辞にもきれいとは言えないホテルの一室が、矢崎の“自宅”だというのだ。
「1泊1万円の部屋を、長期滞在ということで、1泊5000円にまけてもらって住んでいるって」(前出・知人)
地元住民でも、そのことを知る者は皆無だった。
「何年も前にお客さんが“矢崎さんを見た”って。でも、こんなところに住んでいるわけない。別荘でもあるのか、ロケでもやってたんじゃないですか?」(近所の商店主)
住んでいるというホテルの部屋を半信半疑で訪ねてみると、扉が開いた。怪訝な表情を浮かべる矢崎本人だった。
「びっくりした……こうやって追っかけられたのは、ここに20年住んでいて初めてだよ。俺なんかに注目してくれるだけでも光栄ですけど」
目の前に現れた矢崎はなんとパンツ一丁! 目を傷めているのか、片方の目には眼帯が……。「どうしてここに?」と記者が尋ねると、意外な言葉が返ってきた。
「だって俺“引退”してるから。引退宣言してないけれど、もう役者はやらない。宣言させていただけるほど立派な役者じゃないもん。ここなら、つつましく生きていけるから。家賃も月15万円だしね」
まさかの“誌上”引退宣言。それにしても東北の田舎町である。一軒家だってもっと安く借りられるのでは?
「俺の計算だと月30万円はかかるよ。ここならトイレットペーパーも補充してくれるし、掃除もタダ。冷蔵庫やテレビが壊れても交換してくれます。近くに場外馬券売り場があって、そこで馬券を買うためにここに泊まっているうちに居ついたっていうか……。町の人にも住んでいるとは言っていないんだ。“競馬が理由”なんてカッコ悪くて」
降板や離婚をめぐる噂については首を傾げた。
「え!? 同性愛をカミングアウトしたから!? 違う違う。CMは“今年で終わりで”って言われて終わっただけ。離婚したのもずっと昔、俺が30代のころだもん。自分で言うのもなんだけど、俺、女好きでそうとう有名だったよ。離婚理由? 今、俺は女好きだって言ったろ(苦笑)」
そして、本当の引退理由について訥々と語り始めた。
「いい夢を見させてもらった。主役も司会もやらせてもらった。でも60歳手前くらいから“相手にされなくなってきたな”と感じるようになって。ギャラも下がってきたし。そうしたら芸能が嫌になっちゃった。芸能が嫌ってことは東京も嫌だっていうこと」
東京を離れ、主宰していた劇団の稽古場もたたんだ。『白鶴まる』CMに出演していた当時は、稽古場の家賃を月80万円も払っていたそう。
「CMを降りたとき、白鶴さんは20年分の功労金……“退職金”をくれた。サラリーマンのそれよりもずっと多い額をね」
役所広司が会いにきたが……
昨今、ドラマも映画も“おじさん俳優ブーム”。「矢崎さんのような俳優が引退なんて早すぎる」と指摘するも首を横に振る。
「今“おじさん”と言われている役者たちは俺の下の世代。それとは別に、『半沢直樹』みたいなドラマにも西やん(編集部注:西田敏行)やエモっちゃん(同注:柄本明)くらいの……俺たち世代の役者がひとりは必要なんだけれど、俺はそこに呼ばれることはなかった。
エモっちゃんや笹野高史は若いときから老け役をやってきて今があるんだ。これは俺の生き方の失敗。人生を張り切っちゃっていたんだ。でも“引退”と言いながら、同世代で役者を続けている人を見かけるとチャンネルを変えちゃうくらい、俺は惨めな人間なんだよ」
身体も衰えてきたという。矢崎は眼帯を指さした。
「こっちの目、見えないんだ。緑内障でね。それに歯もない。歯医者が怖くて行かなかったら、前歯が全部なくなった。今はコロナも怖いしさ……」
家賃を含め、生活の費用は貯金を切り崩している。
「あとは再放送料とかね。今『はね駒』をやっているけど、NHKはちゃんと再放送料をくれたよ。30万円。これまではテレビ局から“映像を使いたい”という連絡は全部断っていたんだけど、今は少ない額でも入るとうれしいの」
テレビ局だけではない。親しかった人々との関わりもすべて絶ってしまったという。
「世話になった人、付き合いが深かった人も、みんな。西やんやエモっちゃん、仲のよかった役者も携帯を変えたときに“切っちゃった”から」
あるとき、そのうちのひとりが矢崎を探しにきたことがあった。俳優・役所広司だ。
「彼がロケでこの近くに1か月ほど滞在していて“矢崎滋がいるらしい”ってわかったんだって。彼のマネージャーがフロントまで尋ねてきたんだけど“いないって言って”と。本当はすげぇ会いたかったのよ。俺、昔から彼が大好きだし、彼も俺のことを認めてくれていてさ。でも俺は見つからないよう部屋から出ずに、カップ麺すすってジッと隠れてたよ。恋しいけれど会えない。芸能なんて、もう、ずうっと前のことなんだ」
そして自嘲ぎみに笑った。
「そう言いながら、こうやってしゃべってるなんて、いかに俺が寂しいかわかってしまうけれど……。俺、昨日が誕生日でさ。でも誕生日なんてなんなんだろうって思うよ」
矢崎は今年73歳になった。