東京都江東区にあるSBS即配サポートの配送拠点では、大型トラックも含めて約150台の車両が日々稼働している。1日に出荷される荷物数は2万個を超えるという(記者撮影)

EC(ネット通販)市場が急成長を続ける中、その荷物を運ぶ中堅運送会社が委託ドライバーの囲い込みを急いでいる。EC最大手のアマゾンから配送受託するデリバリープロバイダと呼ばれるSBS即配サポートと丸和運輸機関は、ドライバーの確保を急ピッチで進めている。

首都圏でのBtoB向け配送を中核事業とするSBS即配サポートは、約1000台の車両を稼働させ、3000を超える企業と取引がある。工業用備品をECで展開するMonotaRO(モノタロウ)などからも配送受託している。

SBS即配サポートが新たな宅配の担い手を確保するため、2年半前から始めたのが「独立開業支援」だ。この制度では、配送に使う軽車両のリースや車両保険・車検などが入った「メンテナンスパック」などを展開し、配送業務が未経験の人でもすぐに働けるようにした。ドライバーはロイヤルティなどを支払うことなく、委託ドライバーとしてSBS即配サポートから配送を受託することができる。

委託ドライバーに応募が殺到

委託ドライバーを志望する8割の人は未経験者だ。SBS即配サポートの宅配事業を統括する前田光治執行役員は、「これまでに6000人を超える応募があり、600人弱の委託ドライバーを確保できた。応募者数は社員求人の約10倍で、想定を大きく上回っている」と語る。直近1カ月でも約250人の応募があり、そのうち1割と契約をした。

報酬は完全出来高制で、配送完了した荷物の数に応じて支払われる。「1日に委託ドライバーが届ける荷物は、BtoC向け配送で平均100個、BtoB向け配送だと平均して120〜150個ほど。委託ドライバーは平均して、1日1万5000円〜2万5000円くらい稼いでいる」(前田執行役員)。委託ドライバーとして活動する20代後半の男性は、「月収はおよそ50万円。安定して仕事をもらえるのがいい」と話す。

SBS即配サポートがドライバーの独立支援制度を整備することには、柔軟な働き方を求める若い層を取り込む狙いがある。「当初は委託ドライバーのほとんどは早期退職者のシニア層だったが、配送現場やネットなどの口コミで認知度が上がり、若年層からの応募が増えた」と、SBS即配サポートの佐伯禎泰取締役は言う。


1日に運ぶ荷物を詰め込んだリース車両。荷物は車内の天井まで達しており、20代後半の男性ドライバーは「(企業が終業する)17時半までに運びきれるかな」と少し不安げだった(記者撮影)

SBS即配サポートの独立制度を利用すれば、社員ドライバーと月収がほぼ変わらないうえに、社則などに縛られず自由度が比較的高い働き方ができる。また、普通自動車運転免許さえあれば軽車両での配送ができることや、「BtoC向けEC配送は軽くてきれいな荷物が多い」との印象があることも、応募が増えている要因になっているようだ。

アマゾン向け配送で急成長する丸和運輸機関も、委託ドライバーの支援を強化している。2017年9月頃から始めた「Momotaro・Quick Ace(桃太郎クイックエース)」と呼ばれる独立支援制度では、委託ドライバーの所得の約6割を補償する「所得補償保険」を2019年4月に導入した。

委託ドライバーはケガや病気などで働くことができないと収入がゼロになってしまうリスクがあるが、その際に一定期間、月収の約6割を丸和運輸機関が補填する。「保険でリスクをカバーすることで、ドライバーが安心して働ける環境を作りたい」と、丸和運輸機関の和佐見勝社長は強調する。

丸和運輸機関では、現在400〜500人ほどが委託ドライバーとして就業しており、その多くは20〜30代のドライバーだ。平均年収は720万円だという。丸和運輸機関では2023年3月期までに5000人の委託ドライバー確保と、意欲的な目標を掲げている。

起業して運送会社の社長に

独立支援制度を通じて、法人を立ち上げたドライバーもいる。丸和運輸機関の委託ドライバーとして7カ月間活動した奥住亨介氏は、2017年12月に自身の運送会社である合同会社FIVE STARSを立ち上げた。現在、同社の年商は1億円を超えており、25人のドライバーを抱える。委託ドライバーとして働いた経験について奥住氏は、「1日に平均して120〜150個ほど配送した。独立支援制度を通じて、十分な開業資金を貯めることができた」と話す。

今後も市場拡大が見込まれるEC向け荷物は、大手宅配会社も確保したい思いがある。ただ、軽車両で運ぶことができるEC向け配送は、宅配業者の参入障壁が低く競争も激しい。できるだけ配送料を抑えたいEC事業者の意向もあり、そういった荷物を獲得するには配送単価が低くなりがちだ。

日本郵便の衣川和秀社長は、2月に行われた共同インタビューの場で「荷物の小型化が進む中、ゆうパケットの取扱個数を伸ばしていきたいものの、デリバリープロバイダなどはわれわれにはできないような低価格で荷物を引き受けているようだ」と語っている。

多くの自社ドライバーと物流拠点を抱え全国配送網を構築する大手宅配は、その維持に莫大なコストがかかる。そのため、配送単価を引き下げて荷物を確保することは難しい。

ヤマトホールディングスは4月から提供を始めるEC事業者向け配送サービスについて、「低価格で配送を請け負うのではなく、あくまで適正なプライシングでサービスを提供していきたい」(ヤマトホールディングスの長尾裕社長)とする。大手宅配は配送単価を下げないためにも、接客面やサービス面での差別化を図るが、確たる強みとなるものはまだ打ち出せていない。

大手宅配が利益確保に躍起になるあまり、委託ドライバーを支援するどころか、ドライバーに支払う配送単価を引き下げる動きもあるようだ。以前は大手宅配会社の委託ドライバーだったある男性は、2019年初めに配送単価を引き下げられたことをきっかけに中堅運送会社の支援制度に応募した。「大手宅配の配送受託は単価や荷物量が安定しないため、安心して働きにくい」と、男性は強調する。

大手宅配から人材流出の動きも

最近は、大手宅配から流出する委託ドライバーも出てきている。丸和運輸機関の藤田勉取締役は、「当社が契約している委託ドライバーの半数以上は、大手宅配の業務委託経験者だ。大手宅配で配送単価引き下げや『外注切り』があると、当社の独立開業支援への応募者が急増する」と明かす。

中堅運送会社は配送効率のよい都市部に限って配送サービスを提供し、大手宅配会社よりもコストを抑えてきた。より多くの荷物を獲得するための取り組みも着々と進めている。SBS即配サポートは2月から一部エリアで、BtoBとBtoCのどちらの荷物も運ぶ混載配送を開始し、中小EC事業者の小ロット荷物の獲得を狙う。丸和運輸機関はこれまで強みとしてきた北関東エリアだけでなく、神奈川県など南関東エリアでの展開も見据える。

両社ともに価格競争力を武器に、今後さらに攻勢をかけていくようだ。ただ、ドライバー確保の競争が激化する状況で、手厚い支援で囲い込み続けるにはコストも増え続けることになる。十分な採算性を維持したまま成長していくことができるのか。勝負が本格化するのはこれからだ。